【違法残業の厳罰化見送り 立法遅れ回避 働き方改革の関連法案】

2017年1月23日
産経新聞

政府が早期の国会提出を目指している働き方改革の関連法案で、企業が従業員に違法な時間外労働をさせた場合の罰則について、現行制度で適用される罰則を維持する方向で検討していることが22日、分かった。
違法残業を厳罰化すると労働基準法の罰則全体の見直しにつながりかねず、政府内では立法作業の遅れを回避する必要があるとの見方が強まっている。

働き方改革関連法案では、現在は大臣告示で定められている残業時間の上限を労基法に明記するとともに、罰則も直接この条項を根拠とするよう見直す方向だ。違法残業の抑止効果や摘発の容易化といったメリットがある。ただ、罰則については、単純に引き上げると他の労基法違反の罰則と量刑のバランスが取れなくなるため、現行の量刑を見直さない方向で調整が進んでいる。

労基法は労働時間を1日8時間、週40時間までと定めているが、労使で労基法36条に基づく「三六(さぶろく)協定」を結べば法定時間を超える残業が可能になる。厚生労働省は三六協定に関し、大臣告示で一部例外を除く残業時間の上限を月45時間、年360時間などと定めており、さらに労使合意で特別条項を設ければ1年の半分まではこの上限を超えることができるとしている。

三六協定の根拠となる36条自体には罰則がないが、企業が違法残業をさせた場合は労働時間の原則を定めた32条などの違反になるとして「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の罰則が科せられる。

一方、民進、共産、自由、社民4党が昨年11月に衆院に提出した「長時間労働規制法案」では違法な時間外労働をさせた場合の罰則を「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」と現行よりも強化するとしている。

自民党の二階俊博幹事長は22日のNHK番組で、働き方改革関連法案の長時間労働規制について「今国会で最重要な問題だ。必ず結論を得られるようやりたい」と述べ、今国会中に野党案も含めて与野党協議を行う可能性に言及。罰則強化も与野党協議の大きな争点となりそうだ。

ユニオンからコメント

政府は、違法な時間外労働の規制について、作業が遅れないよう現行制度の罰則を維持する方向で検討していることがわかったというニュースです。

違法残業についての罰則を強化すると、労働基準法全体の罰則を見直す必要が生じてしまい、作業に大幅な時間がかかってしまう。「長時間労働規制については今国会での最重要課題」との考えから、内容より(スピードを重視する)ということです。

その方針は、2017年1月20日に開催された193回通常国会の、安倍首相の施政方針演説でも強調されました。施政方針演説とは、政府のトップが議会でその年(1年間)の政府の基本方針や政策についての姿勢を示すために行われる演説です。

  • 「障害や難病のある方も、女性も男性も、お年寄りも若者も、一度失敗を経験した方も、誰もが生きがいを持って、その能力を存分に発揮できる社会を創る」
  • 「最大のチャレンジは、一人ひとりの事情に応じた、多様で柔軟な働き方を可能とする、労働制度の大胆な改革。働き方改革です」
  • 「雇用情勢が好転している今こそ、働き方改革を一気に進める大きなチャンスです。3月に実行計画を決定し、改革を加速します」
  • 「同一労働同一賃金を実現します」
  • 「二度と悲劇を繰り返さないとの強い決意で、長時間労働の是正に取り組みます。いわゆる三六協定でも超えることができない、罰則付きの時間外労働の限度を定める法改正に向けて、作業を加速します」

演説で語られた内容は、安倍首相が公に約束をしたと考えることが出来ます。今後、どのように進むのか、私たちはしっかり見届けなければいけません。

【ご参考】【第百九十三回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説】首相官邸

安倍首相は演説のなかで、繰り返し自らの成果を強調しています。

  • 「安倍内閣は、この4年間、3本の矢を放ち、「壁」への挑戦を続けてきました。その結果、名目GDPは44兆円増加」

GDPについては、計算方法が変わることで「GDPが増加する」という、数字のトリックに注意する必要があるとユニオンで紹介しました。

【ご参考】【<GDP>景気、依然綱渡り・・・年2.2%増】

  • 「長らく言葉すら忘れられていた「ベースアップ」が3年連続で実現しました」

首相自らが企業にベアを求める「官製春闘」そのものが異例であり、問題点が多いことも紹介しています。

【ご参考】【賃上げ「年収ベースで」 榊原経団連会長、ベアに慎重】

「働き方改革」で取り上げている項目は、どれをとっても実現するには大きな困難を伴う課題です。安倍首相には、成果を誇って自画自賛に終始することなく、より良い改革が実現するにはどうすればいいか、多くの意見を聞き、しっかりとした議論がされることを期待します。

出典元:産経新聞・首相官邸