【賃上げ「年収ベースで」 榊原経団連会長、ベアに慎重】

2016年11月23日
日本経済新聞

経団連の榊原定征会長は22日の記者会見で、2017年の春季労使交渉で会員企業に「年収ベースでの賃上げ」を呼びかける方針を明らかにした。基本給を一律引き上げるベースアップ(ベア)は長期的に企業負担が増すため慎重に検討する考えを改めて表明した。将来の物価上昇率も労使交渉の材料として考慮する考えを示唆した。

経団連は来年1月に経営側の労使交渉の方針を決める。経団連は今年の労使交渉でも「昨年を上回る年収ベースの賃上げ」を呼びかけていた。

榊原氏は企業業績は現状の円安水準が続けば「下期に向けては各企業とも持ち直す」と述べた。賃上げは企業業績と連動しやすい賞与や手当の引き上げが軸になるとの見方も示した。ベアは「一度決めてしまうといろんな形でずっと(負担が)くる」と指摘。「(ベアは)できる企業とできない企業が当然ある」と強調した。

環太平洋経済連携協定(TPP)に関してはトランプ次期米大統領が離脱を明言したが「TPPは日本の成長戦略の中核だ。なんとしても実現する方向で手を尽くすべきだ」と述べた。

ユニオンからコメント

2017年の春闘について、経団連会長が会員企業に賃上げを呼びかける方針を決めたというニュースです。「年収ベースでの賃上げ」が経営者側の方針で、政府や労働組合が求めている「ベースアップ」には慎重な姿勢です。

ベースアップ(ベア)は、基本給が上がりますから、残業代や退職金など給料水準が全体的に上がります。会社が、一度上げた給料を下げようとしても現実には難しいことですから、「ベア=将来にわたって給料を上げる」ことになります。ですから、労働者側はベアを強く求め、会社はベアに慎重になります。
一方、年収ベースの賃上げならボーナスなどで対応できますから、経営状況の変化に対応しやすくなります。会社が応じやすい反面、会社次第ともいえますから、労働者側には一時的な不安定なものという印象を与えます。

2017年の春闘をめぐる動きをこれまでの報道で見てみます。労働者側の代表である労働組合は、ここ数年連続でベアを要求しています。

【17年春闘 連合「2%程度」ベア要求「水準下げられない」】
労働組合の中央組織である連合は18日、幹部会合を開き2017年春闘で、従業員の基本給を一律に引き上げるベースアップ(ベア)の引き上げ幅を「2%程度を基準」とすることで合意した。「2%」のベア要求は3年連続となる。20日に開く中央執行委員会で「基本構想」案としてまとめる。(2016年10月19日 産経新聞)

【UAゼンセン、ベア統一要求「2%」基準 17年春交渉で 】
流通や外食、繊維などの労働組合が加盟するUAゼンセンは22日、2017年の春季労使交渉で4年連続のベースアップ(ベア)を統一要求に掲げると発表した。賃上げ幅は16年と同水準となる「2%基準」とした。パート・アルバイトなど短時間労働者にも同等の賃上げ幅を求める。(2016年11月22日 日本経済新聞)※UAゼンセンは連合に加盟する組織では最大規模の労働組合です。

【金属労協ベア要求3千円軸…今春と同水準で調整】
自動車や電機など主な産業別労働組合(産別労組)でつくる全日本金属産業労働組合協議会(金属労協)が、2017年春闘でも基本給を底上げするベースアップ(ベア)を要求する方針で調整していることが、10日分かった。(2016年11月10日 読売新聞)※金属労協は組合員数約200万人の労働組合で、春闘の相場づくりをリードする立場にあります。

実は、賃金アップで消費を拡大して景気を良くしたいと願う政府も、企業にベアを求めています。本来であれば、労働者と雇用者の間で決める賃上げを、首相自らが直接求める「官製春闘」が4年連続している異例の事態が続いています。政府は、賃上げに応じてもらう代わりに、(前年以上に給料を払った会社には法人税控除)などを行っていますが、中小企業にはさらなる減税を用意しました。

【首相が4年連続のベア要請 経団連は難色】
安倍晋三首相は16日、官邸で開いた「働き方改革実現会議」で、2017年春闘に関し「少なくとも今年並みの水準の賃上げを期待したい」と2%以上アップを経済界に求めた。さらに基本給のベースアップ(ベア)について「実施をお願いしたい」と異例の要請もした。(2016年11月17日 東京新聞)

【中小の法人税制見直し 政府、賃上げ率高ければ減税額拡大】
政府は16日、2017年度税制改正で、賃上げした中小企業の法人税を減額する制度を見直し、賃上げ率が高い企業ほど減税額を拡大する方針を明らかにした。賃上げ率が前年度比で大企業並みの2%以上を達成した中小企業に、賃上げ総額の20%分を法人税から差し引くことなどを検討。その基準以下の企業に対しては現状の10%の減税率も維持することで、中小企業の賃上げ意欲を高める狙いだ。(2016年11月17日 産経新聞)

はたらく人が給料を上げてほしいと願うのは当然と言えば当然ですが、現在は、日本政府が税金を安くするから給料を上げてほしいと会社に願い、大手企業は給料を上げると言い、中小企業も給料を上げやすくなっているという状況です。つまり、「給料が上がる=景気が良くなる」が、すべての人の思惑と一致してるということです。

世の中全体が給料を上げようとしているニュースは決して他人事ではありません。このような風潮は、長年給料が上がっていないという人には、「給料が上がらない理由」を明確にする良い機会といえます。そして、給料が上がらない理由が「障害者だから」だけでは通用しません。平成28年4月に施行された「改正障害者雇用促進法」は、障害者であることを理由とする差別を明確に禁止し、禁止する差別には(賃金・昇進)も含まれているからです。

出典元:日本経済新聞