【JR東労組、スト検討 春闘「定額ベア」永続要求 来月中旬か】

2018年2月12日
産経新聞

JR東日本の最大労働組合「東日本旅客鉄道労働組合(JR東労組)」が今年の春闘で、ストライキ権行使の可能性を検討すると会社側に通告していたことが11日、JR関係者への取材で分かった。実際に行使されればJRの最大労組で初めて。ストの可能性があるのは会社側の回答が見込まれる3月中旬で、組合員を限定して行うとみられる。

JR関係者らによると、6日に行われた団体交渉でJR東労組は組合員の「一律定額ベア」の将来にわたる実施などを要求。会社側が否定的な見解を示したため、この場で「スト権行使を含めたあらゆる戦術行使に必要な手続きに入る」と通告したという。

JR東労組は職場や組合員を限定する「指名スト」を検討しているもようで、地域によってはJR東の一部列車で運休が発生する可能性もあるとみられる。

JR東労組は平成28年末、全組合員投票を行い、約8割の賛成を得て実質的なスト権を確立したとみられる。同労組は昨春の産経新聞の取材に対し、「(昨年の)春闘に関するスト権は確立していない」と否定していたが、支部が今年1月に発行した機関紙では執行委員長名で「(昨年の)春闘で確立した『ストライキ権』を背景にしてあらゆる手段を講じて(中略)たち上がっていく」などと記載している。

民営化されたJRではスト権が保障されているが、旧国鉄時代には労組が乱立し経営側と激しく対立。昭和50年の「スト権スト」などで国民の反発を招き、62年の国鉄分割民営化へとつながった経緯がある。JR関係者は「交渉の場で組合がスト権行使に言及したのは初めて。話し合いを基本とする路線を逸脱する行為で利用客を無視している」と反発している。

JR東労組は産経新聞の取材に対し、「組織内で議論していることなので特に話すことはない」とした。

一方、JR東日本は「組合情報についてのコメントは差し控えるが、労使間の問題については平和裏に解決を図り、利用客に迷惑をかけないよう全力を挙げて臨むことが会社の責務と考える」とコメントした。

ユニオンからコメント

JR東日本の労働組合(組合員数約46,000人)が、賃上げ等の要求に応じない会社に対し、ストライキを行う可能性があると通告したというニュースです。

鉄道という公共性の高い業種で行われるストライキとなると、一般利用客に迷惑がかかるのも事実ですから、賛否両論はあるでしょう。しかし、本来の賃上げ交渉は、こうした労使間ギリギリのつばぜり合いで決まっていくものです。あくまでも「平和裏に解決」するためのストライキ予告であることを願っています。

「官製春闘」と呼ばれる異常事態がここ数年続いていますが、これは裏返すと労働者の不利益変更も話し合いがないまま決まりかねないということになります。事実、「働き方改革」の議題には、労働者にとって圧倒的に不利益になる施策が、美辞麗句で粉飾されながら紛れ込んでいます。

ストライキ(同盟罷業)とは、労働者側が会社に対する要求を通す目的で、集団的に仕事を放棄することを言います。憲法や労働組合法によって認められている「労働者が会社との交渉で使うことが許されている」権利です。当然、労働者を代表する連合(傘下労組)にも認められている権利です。長時間労働や過労死の問題では、立場の違う政・労・使で議論するだけでなく、「常習・確信犯的に労基法違反を繰り返す会社に、デモやストライキなど労働組合の機能で対抗すること」の議論を避けず、早期改善を目指すべきだとユニオンでは指摘しました。その連合では組織率の低下が深刻な問題になっています。

【ご参考】【結局撤回、連合に傷】

【非正社員、守らぬ労組】

「働く人の味方」だった労働組合が、平成に入って大きく変わった。
長期不況でリストラの嵐が吹き荒れるなか、余裕を失った「正社員クラブ」は、自らの職や賃金を守るため非正社員の拡大を黙認した。働く人の間に分断ができ、その溝を埋める役割を労組は果たせていない。

■改正法骨抜き「問題ない」

労組ならば非正社員でも味方になってくれる――。そんな期待は裏切られた。
東日本の自動車部品メーカー工場で期間従業員として働く40代男性は昨年秋、社内の労組を初めて訪ねた。改正労働契約法の「5年ルール」の趣旨を骨抜きにする会社の規則を変えてもらうためだ。この会社では、継続して働ける期間の上限を2年11カ月としている。その後は6カ月の「空白期間」がないと仕事に戻れないため、いつまでたっても通算勤務期間が無期雇用の権利を得られる5年を超えない。「半年の空白期間があるので、無期転換の権利を得られない。組合としてどう考えているのか」。そう質問したが、対応した労組幹部は「制度に問題はない」という立場を変えない。けんもほろろの労組を前に、この男性は制度変更をあきらめざるを得なかった。事を荒立てて会社ににらまれれば、いまの契約すら更新を拒まれ、雇い止めになりかねないからだ。
実際、雇い止めされる非正社員も少なくない。凸版印刷の男性契約社員(56)は昨年1月、雇い止めを通告された。雇用期間は18年3月末まで。無期転換の権利を手にできる1日前に打ち切られることになった。上司から「法律でここまでしか雇えない」と説明されたという。夜も眠れないほど悩むが、社内の労組には相談しなかった。「うちの労組に契約社員は相談できない」。以前、組合員の同僚に言われたことが記憶にあるからだ。毎年春闘の時期になると、職場は賃上げの話で盛り上がるが、自分の給料は働き始めた7年前から1円も上がっていない。「下手に労組に相談したら、会社に筒抜けになる」とすら思う。いまは社外の労組に入り、会社に雇い止めの撤回を求めている。

■組織率の低下、止まらず

労働組合の中央組織、連合が誕生したのは、平成が始まった1989年だ。
労働者のなかで労組に加入している人の割合(組織率)は49年にピークの55.8%にのぼったが、89年には25.9%に落ち込み、運動を立て直すことにした。だが、連合発足後も組織率の低下に歯止めをかけられず、17年は17.1%と過去最低を更新した。
「大企業で働く正社員の利益のみを代弁している」「変化に十分に対応できていないことは明らか」。03年にまとまった報告書は、厳しく連合を批判し、改革を求めた。それから10年余。神野直彦・東大名誉教授は「報告書の指摘はほとんど実行されず、いまも課題がそのまま残っている」と話す。連合の非正社員の組合員は、全体の15%の106万人。自動車総連の組合員に占める非正社員の割合は3%、電機連合はわずか0.4%だ。
トヨタ自動車やホンダなど大手自動車メーカー全8社が「5年ルール」を避ける仕組みにしていることが昨年11月、朝日新聞の報道で判明した。報道直後、連合は「残念」とコメントしたが、傘下の自動車総連に改善は求めなかった。自動車総連も、自動車大手に期間従業員の正社員への登用制度があることなどから、「問題ない」との考えだ。しかし、非公表のホンダを除く大手7社の16年度の正社員登用は、期間従業員全体の8%にとどまる。取材に自動車総連首脳は言った。
「法律に書いてあるとおりにやって何が悪い」(2018年2月11日 朝日新聞)

【ご参考】【無期雇用 法改正、骨抜きに】

間もなく施行される無期転換ルールは、非正規労働者が「いつ雇止めされるのか」という不安を解消させることが制度の趣旨であり目的です。抜け穴を利用する会社に、法の趣旨を守るよう求めるストライキには正当な理由があるといえます。会社に向かって「法律に書いてあるとおりにやって何が悪い」と言い放つ気概が、労働者側に必要な時代が再び訪れているのかもしれません。

【存在意義、問われる連合】

平成に入って労働運動の土台もぐらついた。89年にベルリンの壁が崩壊、社会主義が一気に色あせた。そこにバブル崩壊後の長期停滞がのしかかる。わずかな賃上げしか獲得できない春闘は、労組の求心力を失わせていった。
02年の春闘では、空前の利益をあげたトヨタ自動車がベースアップ要求にゼロ回答。
大企業が一斉に追随し、トヨタ出身の奥田碩・経団連会長は「春闘は死語」と言い切った。

戦後、日本の労働運動は企業別に組織した労組を中心に展開してきた。欧米で主流の企業をまたぐ労組に比べ、「企業の成長が第一」という目標を労使で共有しやすい。労使協調は生産性向上に貢献し、企業別労組は、終身雇用、年功序列と並ぶ日本型経営の「三種の神器」とされた。だが、右肩上がりの経済成長が終わると、弊害が目立つようになる。労使協調につかった労組はリストラの嵐に抵抗できず、非正社員や中小企業の社員に手をさしのべなかった。
ある連合の元幹部は、連合を国際連合に例える。もともと連合は、政権奪取のために路線が違う労組が「数合わせ」で合流した側面が強い。対立を防ぐため有力産別に「拒否権」を持たせた。有力産別代表らによる三役会は、一人でも反対すれば決定できない慣例を続けてきた。
連合は今春闘で、賃金格差の縮小に重点を置く。抜本的な解決には、大企業に利益が集中する経済構造の変革が欠かせない。それでも大手労組の動きは鈍い。「自分たちの組合員のボーナスを減らしてでも、下請けの利益を増やせとは言えない」(大手自動車労組幹部)からだ。こうした現状に、日本総合研究所の寺島実郎会長は警鐘を鳴らす。「自分の給料がいくら上がるかだけに関心を持った運動が、若い情熱を持った人を引きつけるわけがない。連合は存在意義を問われている」(2018年2月11日 朝日新聞)

出典元:産経新聞・朝日新聞