【バリアフリー、街変える サポート多様化】

2017年8月26日
朝日新聞

■2020東京パラリンピック

1万800円の劇団四季の「ライオンキング」のチケット50席分が、ネット販売開始1分で売り切れた。セリフが字幕で見られる端末を貸し出す11月の特別公演。「演劇を鑑賞したい聴覚障害者がたくさんいることの表れ」。特別公演を企画したNPO「シアター・アクセシビリティ・ネットワーク」の広川麻子理事長は言う。

演劇や演奏会で字幕や音声ガイド、バリアフリーなどのサポートがあるかどうかの情報を提供するサイト「TA‐net」を運営する。立ち上げたのは、東京パラリンピック開催が決まった翌年の2014年7月。当初は広川さんが情報を集めていたが、最近は劇場側からの掲載依頼が増えたという。視覚障害者向けの触れる舞台模型、耳が不自由な人向けの台本の貸し出しなどサポートも多様化してきている。

3年後、日本にはさまざまな人が訪れる。生まれつき耳が聞こえない広川さんは「誰もが楽しむためにはどうしたらいいか、見せる側の意識が変われば、会場も街もきっと変わっていくはず」と期待する。

日本のホテルのバリアフリー設備などを紹介する英語サイト「アクセシブルジャパン」を開設したグリズデイル・バリージョシュアさん(36)は「バリアフリーツアー」の監修にも携わる。東京・浅草のツアー開発では、浅草文化観光センターにある多目的トイレを推奨。場所によっては「英語の案内がないのは残念」とも指摘した。

■観光業界は「道半ば」

東京都は、20年に2500万人の外国人観光客の訪問を目指す。一方、ホテルなど観光業界のバリアフリーはなかなか進んでいない。都は、宿泊施設が手すりを付けたり段差をなくしたりする改修のための補助金制度を設けるが、都産業労働局によると、パラリンピック開催が決まった後も制度の利用は毎年十数件で横ばいのままだ。

昨年から開催する「東京の観光振興を考える有識者会議」では、パラリンピック出場経験のある車いすの選手から「バリアフリーの客室でも、タオルが手の届かない高さに置かれていた」と、設備だけではない「心のバリアフリー」も求められた。浦崎秀行・観光振興担当部長は「バリアフリーの整備は多様な客を受け入れ、利益にもつながる。障害者や高齢者が安心して楽しめる環境整備の価値を伝えたい」と話す。

 

ユニオンからコメント

3年後に迫った東京パラリンピック開催に関連して、バリアフリーや障害者サポートが多様化しているという記事です。共生社会の実現に向けて、官民一体の取り組みは着実に進んでいるようです。

一方で、パラリンピックが「障害者への偏見を助長している」、「観客が来ない」という報道がありました。「心のバリアフリー」教育が、過小評価と過大評価の二極化を招いてしまい悪影響を及ぼしていると指摘されています。

【障害者への偏見、悪化も パラリンピック・ロンドン大会調査】

パラリンピックは障害者への偏見を助長する――。
成功したと伝えられる2012年ロンドン大会後に行われた障害者への調査で、そんな結果が出た。25日で開幕まで3年となった東京大会で、心のバリアフリーは実現できるか。ロンドン大会後、英国の民間団体が障害者に対して健常者の態度が変化したかを尋ねたところ「変化がない」が59%、「悪化した」が22%だった。さらに、ロンドン大会が選手以外の障害者のスポーツ参加への動機づけにはならなかったとのデータも出た。
東京大会に向けて、決して看過できるデータではない。内閣官房の委託を受け、ロンドン大会や16年リオデジャネイロ大会後の影響についての調査をした、一般社団法人コ・イノベーション研究所の橋本大佑代表理事も同様の問題意識を抱く。
「東京パラリンピック開催決定後に心のバリアフリー教育が増えたことはいいことだ。ただ、障害者への偏見が助長されるものも多い」と話す。なぜなのか。橋本代表は「高度な運動能力を持つパラリンピック選手と、そうでない障害者との間に、隔たりが生じている」と指摘する。現状の心のバリアフリー教育が「障害者は能力が劣っていてかわいそう」と極端に過小評価するか、「障害者には特別な能力がある」と過大に評価する二極化を招き、悪影響を及ぼしかねないという。
■ロンドン大会を通してスポーツに取り組みたいと感じましたか?
(2013年6月、18歳以上の障害者1014人に調査)

  • 〇スポーツに取り組みたいと感じなかった   【79%】
  • 〇大会に関わらず、現在スポーツを行っている 【7%】
  • 〇新しいスポーツに取り組みたいと感じた   【3%】

※英国の民間団体による障害者への調査から (2017年8月25日 朝日新聞)

【観客来ない・・・パラ陸上ため息】

障害者陸上の日本パラ陸上選手権第1日は10日、東京・駒沢陸上競技場で行われた。昨年のリオデジャネイロ・パラリンピックのメダリストらを目当てに多くの報道陣が集まったが、メダリストによるビラ配りもむなしく、観客席には空席が目立った。
「観客が少ない。どうしたら集まりますか」。
リオ大会の男子走り幅跳び(切断など)で銀メダル、400メートルリレーで銅メダルを獲得した山本篤(スズキ浜松AC)がため息をついた。この日は梅雨の中の晴れ間で、報道が55社約240人だった一方で、入場者数は約1300人。日本パラ陸上競技連盟の三井利仁理事長は「昨年の鳥取大会で2千を超えたので、目標は2千だった。もっと入ると思っていたが、少ない」。
2020年に東京パラリンピック開催が決まり、露出が増えた。陸上ではリオ大会後初の日本選手権で、しかも東京開催。前日に記者会見をし、400メートルリレー銅メダリストの芦田創(トヨタ自動車)が自らビラを配るなどしたが、効果は薄かった。近隣の学校や住民への告知で、東京都との連携不足を指摘する関係者もいた。三井理事長は「一般の方に開催をどう知ってもらうか」と課題を口にした。(2017年6月10日 朝日新聞)

安倍政権の掲げる「心のバリアフリー」は、ボランティア制度の創設です。2018年度から始まるこの制度では、希望者が研修を受け、修了者には「統一マーク」が配布されます。ボランティア育成を「民間企業と連携する」ことが明言されましたが、数百万人規模の研修という大掛かりなプロジェクトですから、投入される税金は莫大になるのでしょう。既に、安倍首相の友人が経営する人材派遣会社あたりに業務委託が内定しているのではないかと勘繰ってしまうほど唐突に発表されました。

【ご参考】【障害者支援 ボランティア数百万人】

東京パラリンピック成功のカギは、ボランティアの人たちが大会にどう関わるかであって、大量に育成することには意味がありません。政府には、思ったような効果が上がらなかった「認知症サポーター制度」を検証することを勧めます。

パラリンピックを通じて共生社会の実現を目指すなら、多様な意見を取り入れる必要があることは言うまでもありません。「パラリンピックの成功」と一口に言っても、正解が1つではないはずです。「開催を告知すれば来場者が増える」以外に、アイデアが出てこないことが課題です。多くの人が参加できる議論の場が圧倒的に不足しているのでしょう。

(知名度の高い人・障害者支援に携わる人・有識者)からの意見を密室で聞いているだけでは、ロンドン大会の教訓を生かせません。例えば、経団連がバリアフリーに取り組むなら、経団連会員企業に就労している10万人すべての障害者から知恵や意見を出してもらう。障害者に偏見を持つ人の意見にも耳を傾ける。あらゆる声を聞くことが、「共生社会」や「心のバリアフリー」という言葉を一人歩きさせないことにつながります。

【ご参考】【バリアフリー社会の実現=東京五輪を視野、経団連が検討】

出典元:朝日新聞