【解雇の金銭解決、本格議論へ 反発の中、厚労省押し切る】

2017年5月22日
朝日新聞

解雇のトラブルをお金で解決する「解雇の金銭解決制度」を巡り、厚生労働省は22日、解雇された労働者が職場復帰を求めなくても、解決金の支払いを要求できる権利を与える新たな制度の導入について本格的に議論する方針を明らかにした。厚労省の労働政策審議会で、今夏にも法改正に向けた議論が始まる見通しになった。

厚労省は「金銭解決制度」の有識者検討会に提出した報告書案で、労政審で議論するよう提言した。解決金額に上限と下限を設定することも検討事項にすると明記した。

検討会のこの日の会合で、労働側は「会社が解決金に近い金額を示して労働者に退職を迫るリストラの手段に使われる」と制度の導入に猛反発。経営側にも「企業によって支払い能力に違いがあり、一律に定めるのは難しい」などとして、解決金に限度額を設定することに慎重な意見がある。

労働側は、労政審で本格的な議論を始める必要はないと主張。議論は紛糾したが、厚労省は異論を押し切って労政審で議論を始める構えだ。検討会は月内に報告書をまとめる予定で、報告書には「検討会の委員のコンセンサス(合意)が必ずしも得られたわけではない」と明記する見通し。

金銭解決制度は2002~03年と05年の過去2回、導入が検討されたが、実現しなかった。政府は15年6月に閣議決定した日本再興戦略に金銭解決制度の議論を再び始める方針を盛り込み、厚労省が有識者検討会を設置して議論してきた。

労働法制の改正には、原則として労使の代表者が参加する労政審での議論を経る必要がある。労働側の反発は根強く、議論は曲折が予想される。

ユニオンからコメント

厚生労働省が、当事者双方からの異論や反発を押し切る形で「解雇の金銭解決制度」を導入する方針を決めたというニュースです。

【ご参考】【第19回透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会】厚生労働省

【ご参考】【第19回透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会 報告書】厚生労働省(PDF:3.09MB)

解雇の金銭解決制度をめぐる議論については、ユニオンでも紹介しています。

【ご参考】【解雇の金銭解決制度 異論噴出】

議論が紛糾するなか、検討会の岡野委員から出された「解雇無効時における金銭救済制度の導入は不可欠である」との主張がそのまま通った形です。岡野氏は経済同友会の常務理事を務めていますが、その経済同友会が「労働契約を、契約自由の原則に沿った法改正」と主張する提言が「働き方改革」の原案になっていますから、当然と言えば当然です。

【ご参考】【岡野委員提出資料】厚生労働省(PDF:20KB)

【ご参考】【新産業革命による労働市場のパラダイムシフトへの対応】公益社団法人経済同友会(PDF:492KB)

労働基準監督業務の民間委託も、議論が不十分なまま押し切られてしまいそうな気配です。

【労基署業務の一部、社労士委託を提案】

政府の「規制改革推進会議」(議長・大田弘子政策研究大学院大教授)が安倍首相に提出する答申案が22日、明らかになった。政府が2019年度からの導入を目指す罰則付きの時間外労働(残業)規制の実効性を高めるため、社会保険労務士らが労働基準監督署の業務の一部を受託できるようにすることなどが柱だ。23日に答申され、政府は答申を基に6月に規制改革実施計画を閣議決定する。(2017年5月22日 読売新聞)

【ご参考】【労働監督の民間委託提言】

働き方改革やオリンピック開催を理由に挙げ、制度改革や規制緩和を推し進める安倍政権の強引な手法には、国際社会からの苦言が目立ち始めています。

【「恣意的運用」国際視点から警告 国連報告者、首相に書簡】

プライバシーの権利に関する国連特別報告者ケナタッチ氏が、「共謀罪」法案に対し、プライバシーや表現の自由を制約する恐れがあると強い懸念を示す書簡を安倍晋三首相あてに送付した。法案の「計画」や「準備行為」の文言が抽象的で恣意(しい)的に適用されかねないなどと警告しており、国際的な視点から問題点を明示された形だ。
「国家安全保障のために行われる監視活動を事前に許可するための独立機関の設置が想定されていない」と問題視した。ケナタッチ氏は、情報技術(IT)に関する法律の専門家で、マルタ共和国出身。国連の人権理事会が2015年7月、プライバシー権に関する特別報告者に任命した。(2017年5月20日 東京新聞)

この書簡について、日本政府は正式に抗議しました。書簡を送った国連特別報告者は日本政府の抗議を「中身のないただの怒り」と批判し、「プライバシーや他の欠陥など、私が多々挙げた懸念に一つも言及がなかった」と指摘しました。

同氏は「透明性の欠如と、今月中に法案を採択させようとする政府の圧力によって、十分な国民的議論の促進が損なわれている」と強調し、「日本政府はいったん立ち止まって熟考し、必要な保護措置を導入することで、世界に名だたる民主主義国家として行動する時だ」と訴えています。

オリンピック開催に向けて受動喫煙を規制する法案の今国会提出を目指す日本政府には、WHO幹部が「日本の対策は時代遅れだ」と苦言を呈し、国連の拷問禁止委員会や女性差別撤廃委員会からは物言いがついたようです。

【五輪契機に建物内の完全禁煙を WHOが厚労相に要請】

世界保健機関(WHO)のアサモア・バー事務局次長は7日、厚生労働省を訪れ、2020年の東京五輪・パラリンピックを契機に飲食店を含む公共の建物内での完全禁煙を実施するよう塩崎恭久厚労相に要請した。
要請後、記者会見したWHOのダグラス・ベッチャー部長は「日本は現在、受動喫煙対策の評価で最下位のグループだが、厚労省案でも下から2番目のグループになるだけだ」と指摘。「喫煙室を設けても煙が漏れるなどして受動喫煙の被害は完全に防げない」と強調し、抜本的な規制強化が必要だと訴えた。(2017年4月8日 日本経済新聞)

【国連委員会が「慰安婦」日韓合意見直しを勧告】

国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会は12日、慰安婦問題をめぐる2015年の日韓合意について、被害者への補償などが不十分として、合意の見直しを勧告する報告書を発表した。在ジュネーブ日本政府代表部も確認した。報告書は韓国に対する審査を記したもので、同合意について「元慰安婦は現在も生存者がおり、被害者への補償や名誉回復、再発防止策が十分とはいえない」と指摘。日韓両国政府に対して、「被害者の補償と名誉回復が行われるように尽力すべきだ」と強調した。同委員会は拷問等禁止条約の批准国家が履行義務を果たしているかを監視するため1987年に国連に設置された。日本は1999年に条約を批准した。国連では昨年3月にも、女子差別撤廃委員会が「日韓合意によって問題が解決したとみることはできない」と勧告している。(2017年5月13日 産経新聞)

【政府、慰安婦合意見直し勧告の国連委に反論】

日本政府は22日、慰安婦問題を巡る日韓合意の見直しを勧告した国連の拷問禁止委員会に対し、「日韓両政府は合意が『最終的かつ不可逆』であることを確認している」と反論する文書を公開した。日本政府は文書を委員会の事務を担う国連人権高等弁務官事務所に提出。22日に同事務所のホームページに掲載された。(2017年05月22日 読売新聞)

【優生保護法「国は謝罪と補償を」】

「不良な子孫の出生を防止する」と定めた旧優生保護法(1948~96年)の下、障害や遺伝性疾患を理由に不妊手術などを受けさせられた人たちがいた。このうち、ハンセン病患者には国が謝罪・補償をしているが、他の人たちは取り残されたままだ。16歳で不妊手術をされた宮城県の女性(71)による人権救済の申し立てを機に、謝罪・補償を求める声が高まっている。強制不妊手術に対しては、国際的な批判も高まっている。昨年3月、国連女性差別撤廃委員会が政府に対し、強制不妊手術を受けた人への補償を勧告した。しかし、日本政府は「当時は適法に行われていたため、補償は困難」との立場だ。(2017年5月1日 東京新聞)

国際社会からの忠告に真摯に耳を傾けず、抗議や反論を繰り返す安倍政権への不満は、国内からも聞こえ始めています。

【退位議論に「ショック」 宮内庁幹部「生き方否定」】

天皇陛下の退位を巡る政府の有識者会議で、昨年11月のヒアリングの際に保守系の専門家から「天皇は祈っているだけでよい」などの意見が出たことに、陛下が「ヒアリングで批判をされたことがショックだった」との強い不満を漏らされていたことが明らかになった。陛下の考えは宮内庁側の関係者を通じて首相官邸に伝えられた。
陛下は、有識者会議の議論が一代限りで退位を実現する方向で進んでいたことについて「一代限りでは自分のわがままと思われるのでよくない。制度化でなければならない」と語り、制度化を実現するよう求めた。「自分の意志が曲げられるとは思っていなかった」とも話していて、政府方針に不満を示したという。宮内庁関係者は「陛下はやるせない気持ちになっていた。陛下のやってこられた活動を知らないのか」と話す。
ヒアリングでは、安倍晋三首相の意向を反映して対象に選ばれた平川祐弘東京大名誉教授ら保守系の専門家が、「天皇家は続くことと祈ることに意味がある。それ以上を天皇の役割と考えるのはいかがなものか」などと発言。陛下と個人的にも親しい関係者は「陛下に対して失礼だ」と話す。陛下の生き方を「全否定する内容」(宮内庁幹部)だったため、陛下は強い不満を感じたとみられる。(2017年5月21日 毎日新聞)

私たちがもっとも気になるのは、働き方改革は大丈夫か?本当に働く人の視点にたった改革が行われるのか?ということです。

【〝世界の労働トップ″「過労死」世界で悪名】

来日中のILO(国際労働機関)の事務局長が、「〝過労死″は悪い意味で世界中に知られている」として、働き方改革に期待を示した。ガイ・ライダー事務局長の単独インタビューの要旨は次の通り。
■残業時間の上限規制について。
――残念ながら、過労死(KAROSHI)という日本語は、悪い意味で世界中に知られている。過労死の問題は、残業を含めた長時間労働が、広く社会で行われていることが背景にある。今回、残業時間に上限規制が設けられたことは歓迎するが、国際的な比較でみれば、まだ長すぎると思う。
■長時間労働の問題はどこにあるのか。
――長時間労働の問題を考える際の原則が2つある。1つ目は、いかなる仕事も労働時間も、人々の健康や福利厚生を害するものであってはならない、ということ。2つ目は、残業は義務や強制ではなく、自発的に労働者側が選べるものでなければいけない、ということだ。
■勤務と勤務の間に一定時間を空ける「インターバル制度」については。
――勤務と勤務の間に十分な休息と余暇の時間を確保する、というのは世界的にも確立された原則で、ILOも重視している。(2017年5月12日 NNN)

労働者側の反発が根強い解雇金銭解決は強引に導入され、困った労働者が最後に頼る労基署業務がビジネスとして民間委託された。そこから「いつの間にか労働に関するルール全般が労働者側に不利になっていた」にならないよう注視し続けなければいけません。

無機転換したくないと雇い止めをする会社、金銭による解雇を繰り返す会社、そのような会社には人が集まらないような、健全で対等な労使関係を作り上げるには、はたらく人一人一人の知識と覚悟が必要になります。

安倍政権が「どう思われても構わない」と開き直って、慎重な議論や丁寧な手続きを放棄し、あらゆる規制改革を推し進めてしまうかも知れません。ここで重要なのは、私たちが選んだ政府の行動で、私たちが国際社会から苦言を呈されているということです。世論調査や内閣支持率ではなく、私たちが気にしなければならないのは投票率です。国政選挙の投票率がもう少し上がれば、政治も国民の顔色を窺うようになるはずです。

出典元:朝日新聞・厚生労働省・公益社団法人経済同友会・読売新聞・東京新聞・日本経済新聞・産経新聞・毎日新聞・NNN