【<解雇の金銭解決制度>事務局原案に労使双方から異論噴出】

2017年5月15日
毎日新聞

裁判で「解雇無効」などとされた労働者に対し、企業が一定の金額を支払って解雇できるようにする「解雇の金銭解決制度」について、厚生労働省の有識者検討会は15日、報告書の事務局原案を示した。出席した労使双方の委員から異論が噴出し、検討会は議論への賛否を併記した形で報告書を今月中にまとめる。

原案は、補償金に当たる「労働契約解消金」の支払いと解雇無効を一括して裁判所が命じる仕組みについて「相対的には選択肢として考え得る」とした。
一方、使用者からの申し立ては「不当な解雇や退職勧奨を招く」として「現状では導入は困難」とした。さらに解消金に上限と下限を設けることを「適当」とした。

しかし、労働者側委員からは「公平ではない」、使用者側委員からも「現時点で一つの方向性が示されたとは言えない」などの異論が相次いだ。

ユニオンからコメント

厚生労働省の検討会が示した「解雇の金銭解決制度」に関する報告書をめぐって労使双方から異論が出ているというニュースです。

【ご参考】【透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会 報告書】厚生労働省(PDF:3.07MB)

「解雇の金銭解決制度」の議論は、平成13年9月19日に厚生労働省が設置した「今後の労働条件に係る制度の在り方について」から始まりました。現在の旗振り役は、政府の規制改革推進会議で「労働基準監督署業務の民間委託」を推し進めている八代尚宏氏です。

【ご参考】【解雇に関するルールの明確化について 八代尚宏】厚生労働省(PDF:84KB)

【ご参考】【労働監督の民間委託提言】

議論が始まってからおよそ15年が経過しています。それでも、労使といういわば立場が正反対の双方から異論が出てしまうということは、いまだ議論が成熟していないということです。その理由の一つは、人手不足なのに給料が上がらないことかもしれません。

雇用の環境はバブル期並みに良い半面、消費や物価上昇は弱いままです。3月の完全失業率は2.8%と、完全雇用に近い状態にあります。しかし、「雇用情勢の改善が消費の増加につながる」と考えたアベノミクスの「経済の好循環」は実現していません。

【昨年度完全失業率3.0%・・・0.3ポイント改善】

総務省が28日午前に発表した労働力調査によると、2016年度平均の完全失業率は3.0%で前年度より0.3ポイント改善した。1994年度(2.9%)以来、22年ぶりの低水準となり、年度ベースでの改善は7年連続となった。完全失業者数は203万人で前年度から15万人減少した。(2017年4月28日 読売新聞)

【ご参考】【労働力調査(基本集計) 平成29年(2017年)3月分】総務省統計局

【3月経済統計 求人倍率1.45倍、バブル期以来の高水準】

厚生労働省が28日発表した3月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.02ポイント上昇の1.45倍と、バブル経済末期の平成2年11月以来26年4カ月ぶりの高水準に達した。
有効求人倍率は求職者1人当たりの求人数を示す。バブル期の最高は2年7月の1.46倍だった。28年度平均は前年度比0.16ポイント上昇の1.39倍と7年連続の改善だった。
ただ、同省が同日発表した3月の2人以上世帯の家計調査によると、1世帯当たりの消費支出は29万7942円。物価変動の影響を除いた実質で前年同月比1.3%減となった。エネルギー関連価格の上昇などによる物価高で、家計の実質的な購買力が落ちているとする。(2017年4月29日 産経新聞)

【ご参考】【一般職業紹介状況(平成29年3月分及び平成28年度分)について】厚生労働省

【ご参考】【家計調査(二人以上の世帯)平成29年(2017年)3月分速報】総務省統計局

【実質賃金、0.8%減=下落幅1年9カ月ぶり】

厚生労働省が9日発表した3月の毎月勤労統計調査(速報値)によると、賃金の伸びから物価変動の影響を差し引いた実質賃金は前年同月比0.8%減となり、2カ月ぶりのマイナスだった。賃金が下落した一方、物価が上昇し、実質賃金の下落幅は2015年6月(3.0%減)以来、1年9カ月ぶりの大きさとなった。厚労省は「賃金が基調として緩やかに増加しているとの判断は変わらないが、今後の動向を注視する必要がある」(雇用・賃金福祉統計室)と説明している。(2017年5月9日 時事通信)

【ご参考】【毎月勤労統計調査 平成29年3月分結果速報】厚生労働省(PDF:444KB)

「解雇のルール」を議論するのであれば、「次の仕事を見つけやすくする」議論がセットでなければうまくいきません。「転職しやすい」多様なはたらき方を実現するには、「転職したら給料が下がった」にならない経済政策が不可欠です。

そして、「解雇の金銭解決制度」に双方から異論が出される最大の理由は、「当事者の話し合いに任せていたら、いつまでも決まらない」と考える政府の本音にあります。「終わりなき挑戦」と大げさな副題が掲げられた文書には、「重点的に政府がフォローアップする」項目に挙げられています。

―平成 27 年6月の規制改革実施計画に記載された「一定の手続の下で行われる転職やスキル形成に対し、政府が支援する制度の整備」、「労使双方が納得する雇用終了の在り方」を重点的フォローアップ対象事項とし、所管省庁における検討状況について検証した。
―さらに、「労使双方が納得する雇用終了の在り方」についても、雇用ワーキング・グループにおいて厚生労働省から検討状況についてヒアリングを行い、着実なフォローアップを行った。
―今後は、「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」における検討等について、引き続き、規制改革実施計画の趣旨に沿った取組がなされるよう、フォローアップを行っていく必要がある。

【ご参考】【規制改革に関する第4次答申】内閣府(PDF:324KB)

「解雇規制緩和」を進めようとする政府方針の前提には、「多様な働き方を通じて得られる個人の利益」があり、「慎重に議論をすすめる」とも書かれています。現在、働き方改革が注目を集め、また無期転換ルールの実施が近いこともあってか、前提が崩れた(金銭解決ありき)の議論へと変質しつつあります。

「労働者の人権や健康を守る」「公平・公正な社会のため」には必要な規制もあります。「何でもかんでも規制をなくせばいい」というものではないでしょう。「終わりなき挑戦」とまでいうなら、まず、「何に(誰に)戦いを挑むのか」を示さなければいけません。そして、「その挑戦は本当に必要なのか?」について、国民の共感を得られなければいけません。

「必要な規制まで壊そうとするから【終わりなき挑戦】になってしまうのではないか?」そんな疑問に答えることが政府に求められる説明責任です。国連に加盟するすべての国が守らなければならない(2030アジェンダ)(SDGs)は、透明性の高い説明責任と適切な意思決定の手順を求めています。もちろん日本も例外ではありません。

2030アジェンダ(目標16)
持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する。
SDGs(16-6)
あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる。
SDGs(16-7)
あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する。

出典元:毎日新聞・厚生労働省・読売新聞・総務省統計局・産経新聞・時事通信・内閣府