【過労で「心の病」若年層に多く 女性は20代の自殺最多】

2017年10月6日
産経新聞

平成22年1月~27年3月までの約5年間に、過労による心の病(精神障害)で労災と認定された労働者の割合が30代以下の若年層で高かったことが、厚生労働省が6日に公表した「過労死等防止対策白書」で分かった。心の病から自殺に至った事例は男性で40代、女性で29歳以下に多かった。

調査は全国の労働局や労働基準監督署に保管されている脳・心臓疾患と精神障害による労災調査資料を元に、労働安全衛生総合研究所が分析した。

白書によると、精神障害の労災認定は「業務による強い心理的負荷」を要件とし、「3カ月連続で残業月100時間以上」などと例示。男性の発症時の年齢では「30~39歳」が最も多く、雇用者100万人当たりの事例数では12.4件。女性では「29歳以下」と「30~39歳」で7.7件と最も多かった。

脳・心臓疾患で労災認定された人を世代別でみると、50代が100万人当たり11.2人で最多。業種別では漁業(100万人当たり38.4人)▽運輸業(同28.3人)▽建設業(同7.9人)―の順だった。

一方、精神障害による労災は漁業(同16.4人)▽情報通信業(同13.5人)▽運輸業(同13人)―の順。要因別では1カ月160時間を超えるような極度の長時間労働(122件)や、労災ラインとされる80時間以上の時間外労働(143件)など長時間労働に起因するものが目立った。

漁業が脳・心臓疾患と精神障害の両方で最多となったことについて、厚労省は「漁は長時間労働になりがちで、従事者の高齢化が進んでいることも要因と考えられる」と分析している。

白書は昨年初めて作成された。昨年9月には電通の新入社員が過労死と認定されており、白書はこの事案にも触れ、政府の取り組みを紹介した。

ユニオンからコメント

厚生労働省が「過労死等防止対策白書」を公表したというニュースです。

【ご参考】【平成29年版過労死等防止対策白書概要】厚生労働省(PDF:1.80MB)

過労死やパワハラが労災認定されたというニュースが報道されない日はないくらいです。NHKでは、記者の死亡を過労死と認定されていましたが、およそ3年間その事実を公表していませんでした。遺族の意向だったそうですが、匿名や勤務地を伏せてでも公表に踏み切りたい、二度と同じ過ちを犯したくないという姿勢に欠けていたのでしょう。結局、公表せざるを得なくなったのですから、「このままバレなければいい」くらいに考えていたのかもしれません。

【NHK女性記者に労災認定 過労死、残業159時間】

NHKは4日、2013年7月に首都圏放送センターの記者だった佐戸未和さん(当時31)がうっ血性心不全で死亡したのは長時間労働による過労死だとして、渋谷労働基準監督署が14年5月に労災認定していたと発表した。
NHKによると、労基署は佐戸さんが亡くなる1カ月前、時間外労働が159時間に上ったと認定した。佐戸さんは東京都庁を担当、13年6~7月の都議選や参院選を取材。参院選の投開票があった3日後の24日に死亡した。選挙取材で土日も勤務、死亡前1カ月の休日は2日だけだった。記者会見でNHKの山内昌彦・編成局計画管理部長は「個々人の問題ではなく、勤務制度や選挙取材態勢など組織全体の問題と受け止めている」と話し、佐戸さんが亡くなった後、働き方改革を進めているとした。(2017年10月4日 日本経済新聞)

NHK記者は選挙報道の最中、過労死に追い込まれてしまいました。現在の解散総選挙に伴う混乱と報道の過熱ぶりは当時と同じかそれ以上でしょう。多くの取材記者が朝から晩まではたらいている、はたらき過ぎている人もいるであろうことは容易に想像できます。このタイミングでの公表を求めた遺族は、再発防止の強いメッセージを込めたのかもしれません。

【企業の過労死、問題は氷山の一角】

大手広告会社の電通で新入社員が過労自殺したことをきっかけに、「働き方改革」が一躍注目を集めた。違法残業に対し、国も厳しい目を光らせるようになったが、明るみに出る企業の過労問題は氷山の一角だ。
電通の高橋まつりさんは平成27年のクリスマスに都内の社宅から飛び降りた。激務が続き、「眠りたい以外の感情を失った」といった悲痛な叫びをツイッターに投稿。鬱病を発症する1カ月前の残業が月105時間に達していたとして28年9月に労災認定された。同社では3年にも入社2年目の男性社員が過労で自殺し、最高裁が12年に会社側の責任を認める判決を出している。これが契機となり、過労死など国の判断基準が見直された。だが、悲劇は繰り返される。20年6月、居酒屋チェーン「ワタミ」子会社の女性社員が自殺。休日がほとんどなく午後から早朝にかけて長時間勤務を続け、24年2月に労災認定された。昨年4月には、関西電力高浜原発1、2号機(福井県)の運転延長の審査対応をしていた課長職の40代男性が自殺し、同年10月に過労自殺として認定されている。厚生労働省が昨年初めてまとめた「過労死等防止対策白書」によると、27年度に過労自殺(未遂も含む)で労災認定されたのは93件。一方で勤務問題を原因の1つとする自殺は2159件に上っており、過労死の全体像は明確になっていない。(2017年10月5日 産経新聞)

NHKは今回の事実を公表する際に「佐戸さんの死をきっかけに働き方改革を推進中」とした文書を出しました。電通では「働き方改革に取り組む」として違法残業の撲滅を、ヤマト運輸は「働き方改革の一環」と称して未払い残業代を払いました。いずれの企業でも、「働き方改革」を、反省した、これから責任を果たすという便利な言葉として都合よく使っています。いわば、改革の旗印にされてしまった遺族の思いは複雑でしょう。「働き方改革」の使用法を見ていると、多くの企業は、労働者を置き去りにする働き方改革の本質や正体をすでに見抜いているのかもしれません。

はたらく人が、自分には関係ないと思わず「過労死等防止対策白書」の隅々に目を通すことも重要な意味があります。どのような業種で多いのか、どのあたりが危険水域なのか、自分に置き換えて過労死の実態を知り、自己防衛の意識を持つことが大切です。

出典元:産経新聞・厚生労働省・日本経済新聞