【亡くなる前の半年間、休日4日…女性を労災認定】

2017年5月6日
読売新聞

亡くなる前の半年間に休日が4日しかなかった女性会社員(当時50歳)について、山口労働基準監督署(山口市)が過労による労災と認定していたことがわかった。

女性の平均残業時間は国の過労死認定基準を下回っていたが、休みが少ない労働実態が重視されたという。遺族側代理人の松丸正弁護士(大阪弁護士会)によると、女性は山口県防府市の斎藤友己(ともみ)さんで、同市の弁当製造販売会社で2007年頃から働き、弁当の配送などを担当していたが、15年11月に心臓疾患の疑いで自宅で死亡した。

死亡前の1~6か月間の残業時間は、国が過労の労災認定の目安とする「発症前1か月間に100時間」「2~6か月で月あたり80時間」をいずれも下回った。一方、休日は半年間で4日しかなく、15年8月14日から連続で91日間勤務だったなどとして労災申請した。

同労基署は今年2月、労災と認定。松丸弁護士には、連続勤務の過重性を考慮したなどと説明したという。

労働基準法では、労使間でいわゆる「36(サブロク)協定」を結べば、残業や休日出勤が可能。斎藤さんの勤務先の協定には法定休日での労働日数に限度はなかった。同社は取材に対し、「コメントは差し控える」としている。松丸弁護士は「国は休日労働の日数についても規制を設けるべきだ」と話している。

ユニオンからコメント

休日を取らず連続勤務していたことを考慮した労働基準監督署が、「残業時間が国の過労死ライン未満」だった女性会社員の「過労死」を認定したというニュースです。

過労死した女性会社員の残業時間は、(働き方改革で新たに決められる上限)よりも短い時間でした。有識者は、残業時間の上限を規制するだけでなく、休日労働の規制に踏み込まなければ、過労死を防げないと指摘しています。

【半年で休み4日「過労死」 残業が国の上限未満でも認定】

2015年に亡くなった女性会社員(当時50)について、山口労働基準監督署が労災(過労死)と認定したことがわかった。女性の残業時間の平均は国の過労死認定ライン未満だったが、死亡前の半年で4日しか休めなかったことなどを考慮した異例の認定となった。
電通の過労自殺を機に、「働き方」をめぐる論議が高まった。政府は関連法令の改正・整備に向け3月28日、残業時間の罰則付き上限規制などを新たに盛り込んだ「働き方改革実行計画」を決めた。ただ、年間上限「720時間」に休日労働は含まれず、法定休日をつぶす形の連続勤務に上限は設けられていない。休日労働抑制については事業者の努力義務とする方向で検討が進んでいる。森岡孝二・関西大名誉教授は「休日労働の規制に手をつけない『改革』では過労死を防げないことが証明された。国は議論の出発点に戻り、実効性ある対策を検討すべきだ」と話している。(2017年5月5日 朝日新聞)

【ご参考】【働き方改革実行計画】首相官(PDF:752KB)

産経新聞が、「罰則付き残業時間の上限規制導入」をどう見ているか、主要企業にアンケート調査をしました。ほとんどの企業が「残業時間規制」を評価すると答えています。

【罰則付き残業規制、評価96% 上限「80時間」最多】

「働き方改革」で長時間労働を是正しようと、政府は労働基準法改正案など関連法案を今国会に提出し、「罰則付きの残業時間の上限規制」を導入する方向だ。産経新聞社が主要企業123社を対象にしたアンケートでこうした動きへの見方を聞いたところ、無回答を除き、「評価する」「ある程度評価する」との回答は計96%に上った。
望ましい残業時間の上限については、「80時間」が40%と最も多く、「60時間」と「60時間未満」がそれぞれ19%、「100時間」は11%だった。政府は繁忙期の残業時間の上限を「100時間未満」とする方向だ。これに対し、「評価する」「ある程度評価する」との回答は計90%を占めた。「突発事項への対応が考慮されている」(商社)などの意見があった。
2月には、月末金曜の仕事を早く切り上げる「プレミアムフライデー」が導入された。国を挙げたPRにもかかわらず、「特に対応はしなかった」と回答した企業が3分の1。「業務特性上、早帰りは難しい」(流通)、「本社勤務と工場勤務で差が出るのは望ましくない」(素材)といった事情があるようだ。(2017年5月4日 産経新聞)

アンケート結果を見てみると、「罰則を科して残業時間規制すること」を評価しているのではなく、「上限を100時間未満にしたこと」を評価していることがわかります。「原則45時間まで」とする現在の労働基準法で決められている残業時間を守るべきと回答した会社はなく、半数以上の会社が「過労死ラインまで合法になった」ことを評価したようです。

つまり、政府の働き方改革実行計画に盛り込まれているのは、「会社に都合の良い案」でした。それが透けて見えるような結果です。法律で上限が決められた場合、その範囲内なら、原則として「残業命令を拒否した従業員はクビ」になります。

本気で過労死を防ぎたいのなら、残業時間の上限規制と同時に、「不利益に取り扱われない、残業を拒否するルール」などが検討されるべきでしょう。正当事由など議論を重ねる必要はありますが、はたらく側に「残業を拒否する権利を保障する」など、柔軟な選択肢を与えることで労・使が建設的に話し合う余地が生まれます。

【「働き方改革」のズレまくりな議論にモノ申す】

―「国を挙げた最大のチャレンジ」である「働き方改革」。ところが、その中身は問題だらけだ。安倍晋三政権は働き方改革を「国を挙げた最大のチャレンジ」と位置づけました。しかし、今行われている議論は、当初、掲げていたこととズレているのではないかと感じます。
―当初は「ワーク・ライフ・バランス」の充実などが掲げられ、働きながら育児や社会活動のような「ライフ」の充実を可能にできる社会を目指していたはずです。しかし、電通過労自死事件が明るみに出たのをきっかけに、議論の方向性が変わっていきました。
―残業時間に規制をかけるとして「100時間以上か未満か」「過労死ラインの80時間を容認するか」といった、「生きるか死ぬか」という意味の「ライフ」についてです。職場で人が死なない社会を実現することは大事であることは間違いありません。ただ、このまま「働き方改革」が進んだところで、われわれの生活が楽しくなって、わくわくするイメージはほとんど浮かびません。
―そもそも、単に労働時間を短くしてすべて解決するのでしょうか。『平成28年版過労死等防止対策白書』においても、残業が発生する理由として仕事の絶対量の問題が指摘されています。根本的な問題を改善せずに、単に労働時間を短くしてうまくいくのか疑問です。サービス残業が誘発されるのは目に見えています。
―この手の議論をする際に、よく「日本の労働生産性は低い」「だから変わらなくてはならない」という話になります。その理由として「労働生産性が悪いのは労働者が効率的に働いていないから」と思っている方が多いのではないでしょうか。
―しかし、これは大きな間違いです。労働生産性とは生み出した付加価値を労働投入量で割ったものです。儲からない産業で働いていれば、個人がいかに頑張っても労働生産性の上昇は微々たるものです。労働者が勤勉か、無駄がないかどうかだけでなく、効率化のためにたとえばITに投資しているのかどうかなどが問われます。暴論を言うと、リーズナブルでおいしい料理を出す居酒屋よりも、ぼったくりバーのほうが労働生産性は高い。
―大手代理店に限らず、今まで日本企業は「社員の頑張り」のような精神論でいろんなことを乗り切ってしまったんじゃないか。働き方改革を見ていても、その根底に「もっと生産性上げて頑張れ」と個人に責任を押し付ける思想があるように思えるんです。
―従業員側にも「頑張る」以外の意識改革が必要です。日本の社会では、出勤日や休みは会社が設定するものとして認識されています。特に正社員は自分で休みを取ろうとしていない。正社員の約16%が年次有給休暇を1日も取得していない。週労働時間が 60 時間以上の労働者では 27.7%が年次有給休暇を1日も取得していない。
―今はあまりに休みを取ることを意識しなすぎる。自分がどういうふうに働きたいか。ちゃんと子どものPTA活動のために仕事を休めるような、会社と交渉できる大人であってほしいと思っています。(2017年5月2日 東洋経済オンライン)

記事は、法律や会社が休日を規制しないなら、自らが「どのように休むか」を会社と交渉するくらいの意識が必要だと主張します。それは「小中学校の教員」にもいえることです。

【中学教諭57%「過労死ライン」 文科省調査】

文部科学省は28日、小中学校の教員を対象とした平成28年度の勤務実態調査結果(速報値)を公表した。18年度の前回調査と比べ、小中の教員とも勤務時間が増加し、週60時間以上だった教諭は小学校で33.5%、中学校では57.7%に上った。
公立校教員の勤務時間は週38時間45分と規定。これらの教諭は週20時間以上の時間外労働が常態化しており、おおむね月80時間超が目安の「過労死ライン」を上回っていることになる。文科省は「学校を支える教員の負担は限界に近い」とし、結果を分析した上で、中教審などで今後対策を議論する。
今回の調査は、全国の小中各400校の約2万人に、28年10、11月の連続する7日間の勤務状況を聞いた。文科省は「教諭が生徒の安全管理を重視し、担当する部活動を見る時間が延びたのではないか」との見方を示した。(2017年4月28日 産経新聞)

【ご参考】【教員勤務実態調査(平成28年度)の集計(速報値)】文部科学省(PDF:2.45MB)

「働く人の視点に立った」が大前提だったはずの働き方改革は、勤務間インターバル規制や休日労働規制など、はたらく人の心身の健康に直結するルールをすべて努力義務にしました。労働基準法に書かれた努力義務を守る会社が少数だった現実を考えると、「働く人の視点」で努力しようとする会社は皆無でしょう。

長時間労働は話題に上らなくなり、これからは同一労働同一賃金の議論や、ジョブ型正社員・テレワークに注目が集まっていくはずです。いずれも、(はたらく側の選択肢)を丁寧に議論すべきテーマです。どのようなはたらき方をしている人、どのような職種に就いている人も、一人も取りこぼさない「働く人の視点に立った、多様で柔軟な働き方」の議論に立ち返ってくれることを期待しています。

出典元:読売新聞・朝日新聞・首相官邸・産経新聞・東洋経済オンライン・文部科学省