【パーキンソン病患者iPS、ゲノム編集で修復】
2017年4月3日
読売新聞
遺伝性パーキンソン病の患者から作製したiPS細胞(人工多能性幹細胞)を、遺伝子を効率よく改変できる「ゲノム編集技術」を使って修復し、正常な神経細胞に変えることができたとの研究成果を、慶応大と北里大などのグループがまとめた。
パーキンソン病の原因解明や、新たな治療法開発につながることが期待される。
パーキンソン病は、脳の神経細胞と神経伝達物質が減り、体を動かしにくくなる病気で、根本的な治療法はない。高齢者の発症例が多く、患者数は約16万人。このうち1割が遺伝性と見られている。
慶応大の岡野栄之教授(生理学)と北里大の太田悦朗講師(免疫学)らのグループは、遺伝性パーキンソン病患者の神経細胞では、たんぱく質の働きの制御に関わる遺伝子に異常があることに着目した。
患者の皮膚からiPS細胞を作成し、そのまま神経細胞に変えると、情報をやりとりする「軸索(じくさく)」や「樹状(じゅじょう)突起」と呼ばれる部分が通常より短いことが確認できた。そこで、ゲノム編集技術を使ってiPS 細胞の遺伝子異常を修復し、神経細胞に変えると、軸索や樹状突起の長さが正常になった。
村松慎一・自治医科大特命教授(神経内科)の話「すぐに治療につなげるのは難しいだろうが、異常のある細胞と正常な細胞を比較して、創薬につなげる研究などが期待できる」
ユニオンからコメント
難病患者から作製したiPS細胞を、「ゲノム編集」技術を使って修復することで、正常な神経細胞に変えることができたというニュースです。
この研究が進むと、治療法が存在しなかった病気の原因解明や、新しい薬・治療法の開発が期待できます。また、様々な病気に対する再生医療技術が飛躍的に進歩しています。動物実験の段階を過ぎ、まもなく「人間での臨床」の段階にまで到達しつつあるようです。
【iPS移植で血糖値低下・・・東大などサル実験成功】
糖尿病治療のため、iPS細胞から作った膵島(すいとう)をサルに移植し、血糖値を下げることに成功したとする研究成果を東京大学などがまとめた。
5年後に患者に移植する臨床研究を始めることを目指しており、7日から仙台市で始まる日本再生医療学会で発表する。膵島は、膵臓にある細胞の集まりで、血糖値を下げるインスリンを分泌する。宮島篤・東大教授(分子細胞生物学)らは、人のiPS細胞で作った膵島数万個を極細のチューブに封入し、糖尿病の小型サル「マーモセット」3匹の腹部に移植。数日後に血糖値が正常値に下がり、20日後まで持続したことを確認した。糖尿病治療では、脳死した人からの膵島移植が行われているが、提供者が不足している。iPS細胞を使えば、人工の膵島を大量に作れる可能性がある。(2017年3月7日 読売新聞)
【<再生医療>iPS細胞を使った難病治療の可能性】
iPS細胞を使った再生医療研究が新たな段階に入っている。脊髄(せきずい)損傷患者へのiPS細胞移植の臨床研究が、2018年前半にも始まる見通しとなったのだ。
人工培養した細胞や組織を使って失われた組織を修復・再生する「再生医療」の研究が、いま大きく前に進み始めている。iPS細胞から神経細胞のもとになる「神経前駆細胞」を作り、患者の脊髄の損傷部分に移植する。脊髄を損傷してから2~4週間が経過した患者を対象に、2018年前半の開始を目指すという。交通事故や転落・転倒により脊髄が損傷すると、手足が動かなくなったり、感覚がまひしたりする。国内の患者数は約10万人で、毎年5000人の患者が新たに発生している。
現在の医療では根本的な治療法がなく、再生医療に寄せられる期待は大きい。
iPS細胞を提供するのは、京都大学iPS細胞研究所だ。同研究所は、拒絶反応が起きにくいタイプの健康な人から作って保存しており、22年度までに日本人の大半をカバーできるiPS細胞ストックを作る目標を立てている。iPS細胞でこれまで実際に移植が行われたのは、患者本人から採取した例だけ。他人由来の細胞を使うと、治療までの時間を大幅に短縮し、コストを下げる可能性がある。再生医療は、研究の段階から新時代の医療市場へと成長する最初の時期を迎えようとしている。(2017年3月16日 毎日新聞)
【パーキンソン病、ALSなど231種類の難病iPS・・・京大が作製】
京都大学iPS細胞研究所は、国が指定する難病(306種類)の約8割にあたる231種類について、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製したことを明らかにした。
それぞれの難病の遺伝情報を持つ患者の血液などを用いて作った。研究機関に提供し、難病の原因解明や薬の開発に役立ててもらう。作製したのは、パーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)、腸に潰瘍や炎症が起きるクローン病などのiPS細胞。約5年かけて作った。患者が少ない難病は、薬の利益が見込めず、製薬企業が新薬開発を行いにくい。患者のiPS細胞を使えば、試験管内で病気を再現でき、薬の候補物質を試す研究が進むと期待される。難病のiPS細胞は、理化学研究所バイオリソースセンター(茨城県)の細胞バンクに保存し、大学や製薬企業に提供する。(2017年3月10日 読売新聞)
驚異的な医療技術の進歩によって、近い将来、多くの難病や脊髄損傷・糖尿病などを治療することができるようになるかも知れません。しかし、夢のような話ばかりではありません。「自由にゲノム編集研究を進めるのは危険な社会実験。一般の人々との対話を深め、生殖医療と関連研究を国会で議論し、法律を制定すべき」と指摘する専門家もいます。そして、法律違反の再生医療を行なったとして業務の一部停止を命じられた医療機関があるのです。
【進むゲノム編集技術 法整備へ、まずは議論を】
遺伝子を自在に改変できる「ゲノム編集」技術が世界的に普及し、農業や医療で応用が進んでいる。この技術はヒト受精卵にも使われ、中国から既に3例が論文になった。2015、16年の二つの論文は不正確な遺伝子改変など技術上の課題を示したが、今年3月の3本目の論文は「生殖医療」への応用につながる可能性を示した。
人類は自らの遺伝子を変える力を手にしつつある。
これらの研究の目的は、受精卵の段階で遺伝子疾患の原因となる変異を修復して、生まれてくる子の発症を予防することであり、一見、妥当にみえる。しかし、ゲノム編集は誤って新たな変異を起こすこともある。その結果は子の全身の細胞に影響し、想定外の疾患を起こす恐れがある。
胎児や受精卵を犠牲にしても、健康な子が持てるなら研究は容認するという人もいるかもしれない。でも、受精卵診断の例を見てほしい。1998年、日本では社会の合意がないまま、疾患変異の検査目的で研究が始まり、今年は不妊治療目的にも拡大する。海外では既に男女産み分けサービスに堕落した。技術は当初の目的にとどまらず、容易に別の目的に転用できる。
受精卵のゲノム編集が、親が望む容姿や資質を持つ「デザイナーベビー」製造に転落しないとは誰も断言できない。日本は、内閣府調査会が検討を始めたが、中間まとめで、世論を十分に聞かないまま、受精卵ゲノム編集の基礎研究を学会審査に委ねようとしており、極めて奇異だ。日本はクリニック数および治療回数ともに、世界一の生殖医療超大国だ。にもかかわらず、生殖医療に直接関係する法律はない。厚生労働省指針は生殖細胞、受精卵の遺伝子改変を禁ずるが、受精卵ゲノム編集は規制対象外の部分がある。技術の進歩が規制を超えたのだ。(2017年3月23日 朝日新聞)
【法律違反の再生医療、注意呼びかけ 日本再生医療学会】
法律に反した再生医療に対して厚生労働省の緊急命令が相次いだことを受け、日本再生医療学会は6日、患者に注意を呼び掛ける声明を発表した。
声明では「触法行為や不誠実な医療の排除には、国民の厳しい視線が欠かせない」として、細胞の移植などの治療法を勧められた場合は、法律に基づいた対応をしているか、日本再生医療学会の認定医であるかを医師に確認し、治療を慎重に検討するよう呼び掛けている。
2014年11月に施行された「再生医療安全性確保法」では、細胞や組織を移植する再生医療を実施する医療機関に対して、国への治療計画の提出を義務付け、細胞加工施設の要件などを定めた。しかし昨年10月、法律で定められた基準を満たさない無許可施設で細胞を加工し、治療を行ったなどとして、厚労省は東京都の「アクティクリニック」と、運営する「医療法人社団慈涌会」に再生医療の一時停止と細胞製造の停止を命じた。また今年2月には、法律で義務付けられた計画書を提出しないまま、他人の臍帯血(さいたいけつ)を使った再生医療を行っていたとして、埼玉県の「埼玉メディカルクリニック」に治療の一時停止を命じた。(2017年3月6日 朝日新聞)
【ご参考】【再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について】厚生労働省
【ご参考】【再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について】厚生労働省
平成 29 年3月1日に、厚生労働省が「第22回生命表(完全生命表)」を公表しました。
生命表とは、各年齢の人が1年以内に死亡する確率や、平均してあと何年生きられるかという期待値などを、死亡率や平均余命などの指標によって表したものです。0歳の平均余命である「平均寿命」は、全ての年齢での死亡状況を集約したものです。
【ご参考】【第22回生命表について(結果の概要)】厚生労働省(PDF:1.16MB)
「第 22 回生命表(完全生命表)」では、日本人の男性の平均寿命が80.75年で、第21回(平成 22 年)調査から1.20 年上回りました。女性の平均寿命は 86.99 年で、前回調査より0.69年上回っています。
また、余命率を見てみると、男女ともに20歳時点での余命年数は60年を超え、平均寿命より長くなっています(男性81.13年・女性87.31年)。つまり、20歳を過ぎた人のほとんどが、80歳を過ぎるまで生きているということです。
「患者のiPS細胞をゲノム編集で修復し、ビッグデータをAIで解析して治療していく」。革新的な医療技術の進歩は、さらに寿命や余命率を伸ばすことになるでしょう。これからの数十年は、AIやiPS・ゲノム編集など、これまで私たちの社会に存在しなかった技術や概念をどう受け入れるかが問われます。新しい技術が生み出す脅威、技術者のモラルなど、一人一人が長い時間をかけて考え続けなければならない課題です。
出典元:読売新聞・毎日新聞・朝日新聞・厚生労働省