【残業、月60~80時間を上限 罰則設け順守促す】

2017年1月20日
日本経済新聞

政府は企業の残業時間に上限を導入する。月60~80時間を軸に検討する。現在は労働基準法の特別な条項を使えば事実上、青天井で従業員を残業させることが可能。同法を改正して違反企業に対する罰則も設け、過重な長時間労働の是正につなげる。労使ともに働き方の大幅な見直しを迫られる。

2月1日の働き方改革実現会議で議論を始め、厚生労働省が年内に労働基準法改正案を提出する。政府内では2019年度にも施行を目指す案があり、経済界と調整する。

労基法では1日の労働時間を8時間まで、1週間で40時間までと定めている。同法36条にもとづき労使協定(さぶろく協定)を結べば残業や休日労働が認められる。さらにこの協定に特別条項を付ければ残業時間を制限なく延ばせる。特別条項を締結している企業は全体の2割に上り、深刻な長時間労働や過労死などを引き起こしているとの指摘がある。

政府はこうした特別条項の締結企業に法律上、強制力のある上限規制を設ける。厚労省は過労死の認定基準を「月80時間超の残業が2~6カ月間続く状態」としている。違法な長時間労働をさせている企業への立ち入り調査の基準も月80時間超としており、政府内では上限規制として月80時間を支持する声が多い。

一方、月60時間超の残業には割増賃金の割増率を上げなければいけないルールがある。残業規制の強化を求める労働界などに配慮し、月60時間にすべきだとの意見もある。

1カ月単位の上限規制だけだと企業の繁閑に対応できない恐れがあるため、半年や1年単位での上限も設け企業がいずれかを満たすようにする。年間の場合は連合が参考として示した750時間などを参考にする。

実際の労働時間ではなく、あらかじめ定めた労働時間に対し時間外労働分などを加味した賃金を支払う「裁量労働制」の適用企業は規制の対象になる。

この制度が適用される労働者は研究開発職やデザイナーなど全体の1%強。労基法改正で労使で定めるみなしの労働時間に同様の上限規制をかける方向で検討する。

政府が提出済みの労基法改正案には、働いた時間ではなく成果で評価する「脱時間給」の導入が盛り込まれている。為替ディーラーや金融商品の開発などに携わる一定年収以上が対象だ。こうした脱時間給の労働者は既存の時間規制がかからないため、今回の上限規制の対象にもならない。

現行の36協定の上限規制から除外されているトラック運転手や建設労働者ら一部の職種に上限規制を適用するかは今後、詰める。

ユニオンからコメント

罰則付きで残業時間に上限を定める労働基準法改正案を、厚生労働省が提出するというニュースです。

違法な長時間労働が蔓延している実態が調査で明らかになり、それに対応する取り組みとして効果が望めるものと考えられます。罰則のある規制が出来れば、企業は当然対応します。つまり、職場で様々なアイデアや知恵が出され、結果、健康的な労働環境が生み出され維持される可能性が高くなると期待できます。

長時間労働の問題は、繰り返される過労死や過労自殺のニュースによって高い関心を集めたという側面があります。自殺については、「自殺対策基本法」に沿って、自殺予防を自治体に義務付けたことが奏功しています。

(自殺対策基本法とは、1998年から年間の自殺者数が3万人を超えたことを受け、2006年に成立した法律で、自殺対策を国や自治体の責務とし、防止策を総合的に推進すると定めました)

【自殺者、22年ぶり「低水準」16年2万1764人】

昨年1年間の全国の自殺者は前年より2261人少ない2万1764人で、7年連続の減少となったことが20日、警察庁の集計(速報値)で分かった。減少率は9.4%で、1978年に統計を始めてから最大。2万2千人を下回るのも94年以来で、22年ぶりの「低水準」となった。(2017年1月20日 日本経済新聞)

重大な問題には「法律を改正して、本気で取り組めば効果があることが数字に表れた」と捉えることが出来ます。同様に、長時間労働の是正にも法改正による効果が期待できます。ただし、「抜け道のない」改正でなければならないことは言うまでもありません。

また、今回の改正案に、いわゆる「残業代ゼロ法案」が盛り込まれていることには注意が必要です。「長時間労働をなくす」の気運で法改正したはずが、いつの間にか「残業代ゼロ法案」や「解雇の金銭解決制度」も成立していた、そのような事態にならないよう引き続き注視していく必要があります。

長時間労働については、厚生労働省が自己診断できるポータルサイトを開設しています。
自分がはたらき過ぎていないか、職場に問題はないか、客観的な判断をする方法の一つとして参考にしてください。

【ご参考】【働き方・休み方改善ポータルサイト】厚生労働省

出典元:日本経済新聞・厚生労働省