【異例の組織的犯罪 福岡市被害1.6億円 給付金不正、9事業所取り消し】

2016年12月28日
西日本新聞

福岡市は27日、障害者に就労支援などを提供している市内の計10事業所が、架空請求や水増し請求の手口で給付金計1億1530万円を不正受給していたと発表した。うち9事業所について、障害者総合支援法に基づく指定を取り消した。就労に向け、障害者のサービス利用計画を作る「特定相談支援事業所ことのは」(福岡市博多区)の関係者ら男2人が不正受給の主導役とみている。被害は北九州市、佐賀県江北町などでも確認され、総額は1億6375万円に上る。

市によると、障害者に職業訓練する7カ所の「就労移行支援事業所」は活動実態がなく、最初から架空請求の目的で設立された疑いが強い。全国的にも異例の組織的犯罪とみて、来年1月にも、8事業所の代表と主導役を詐欺容疑などで福岡県警に告訴する。

■無資格でサービス利用計画も策定

市の説明では、7事業所は昨年5月~今年9月に相次ぎ設立され、直後から運営実態がないにもかかわらず、計63人にサービスを提供したように装った書類を市に提出。うち5事業所が給付金として、15万~3320万円を不正に受け取っていた。

「ことのは」の事務補助員A男と知人のB男が主導して7事業所の代表者たちに開設を持ち掛け、障害者にはサービス申請を勧誘。無資格でサービス利用計画も策定していた。市が10月、架空請求の疑いがあった1事業所を監査し、組織的な不正受給を確認した。

この監査で、これとは別に一般企業での就労が困難な障害者に就労機会を提供する「就労継続支援A型」などの1事業所と、障害児に生活能力向上の訓練を行っている「放課後等デイサービス」の1事業所が、水増し請求を行っていた事実も発覚。同法などで義務付けられた管理責任者を置かずに昨年3月~今年9月、計約1200万円を不正受給していたという。

福岡市によると、不正受給の被害に遭ったのは、ほかに福岡県内の久留米、直方、筑紫野、春日、大野城、太宰府、北九州の7市と、那珂川、宇美、粕屋、佐賀県江北の4町。

福岡市はこれらの事業所に対し、加算金も含め計約1億6100万円の返還を請求した。北九州市は、同じくこの2人の男が主導し、障害者7人分の給付金約83万円を不正に受けていたとして、北九州市八幡西区の就労移行支援事業所「まごころ」の指定を9月にさかのぼり取り消した。

  • (福岡市が指定を取り消した主な事業所)
  • 一般社団法人 さくら社会福祉協議会
  • 一般社団法人 アドバンス
  • 就労移行支援施設 サプリ
  • 就労移行支援施設 つばき
  • 就労移行支援施設 Bright future

ユニオンからコメント

福岡市で、障害者就労移行支援施設運営者らの組織的な不正が判明し、市が詐欺容疑で警察に告訴するというニュースです。

就労移行支援事業は「障害者総合支援法」で定められた福祉サービスの一つで、「仕事をするうえで必要な知識や能力を身につけられる場所」を提供しています。
実際に、就労移行支援事業者に一定期間通って、スキルや自信を身に付けてから、会社に就職している人が数多くいます。特に、職場で長くはたらくことが難しい精神障害者にとっては、いわば「最後の頼みの綱」になっているケースもあるようです。

事業者の多くは、まじめに規律通りの運営を行っていますが、残念ながら制度を悪用する事業者もいることがニュースから明らかになりました。
ソーシャルハートフルユニオンへ相談に訪れる人の話を聞いていると、「事業者と会社がグルになって、障害者・税金を食い物にしている」と疑われても仕方がないような運営をしている事業者が、ごく稀に存在している事実を知ることができます。

「一日中、ずっとアニメを見ているだけ」など、就労移行支援とは程遠いサービスを提供している事業者の実態を教えてくれた人もいました。
「そもそも支援員のスキルが低い。障害に対する無知・無理解がひどい」
「職場でトラブルになり思いつめて相談したら、会社の言い分を鵜吞みにされて逆に責められた」このようなエピソードも、これまで数多く寄せられました。

就労移行支援事業者を利用して、やっと就職した。ところが、職場の問題で事業者を頼って相談したことからトラブルが大きくなって退職せざるを得なくなってしまった。そのようなケースが多いのは事実です。

そうなってしまう理由の一つは、(就職は会社との労働契約ですから)本来、福祉サービスを行う事業者が現場に介入できないという原則にあります。職場トラブルを仲裁したり、本人を代理して交渉・解決したりする法的根拠や資格がないまま、言ってみれば「どちらの顔も立てよう」とするあまり事態が悪化してしまうことが少なくないのです。

障害者就労移行支援事業は、あくまでも利用する障害者が料金を支払うことでサービスを受けられる福祉事業です。原則として、利用料の1割を自己負担するので、事業者は障害者が支払った料金の約9倍の金銭を税金から受け取っています。つまり、料金を受け取って障害者にサービスを提供することでビジネスが成り立っている、民間事業者の一つに過ぎません。

そうであれば、利用する障害者側にも事業者を見極める目が求められます。外食するときに、お店を探したり、値段を比べたりするのと同じような「消費者としての目線」がカギになります。就労移行支援事業者選びに失敗しないよう、多くの情報を集めたり色々な話を聞いたりして、納得できる自分にあった事業者を見つけ出すことが何より大切です。

出典元:西日本新聞