【うつ病 症状の重さに関連する血中代謝物 九州大などの研究チームが発見】

2016年12月17日
毎日新聞

九州大などの研究チームは16日、うつ病の症状の重さに関連する血中代謝物を発見したと発表した。研究成果は同日(現地時間)、米オンライン科学誌に掲載された。症状の重さは、患者の申告に基づいて専門家の面接でその程度を判断しているが、今回の発見で症状の客観的評価法の確立や新薬開発につながることが期待される。

発見したのは九州大や大阪大、国立精神・神経医療研究センターの共同研究チーム。

発表によると、九州大病院や大阪大病院、同センター病院を受診した抑うつ症状がある計90人の患者から採血し、うつ病症状の重さと血中代謝物との関係を調べた。その結果、症状の重さによって、血液の中で量が変化する20種類の代謝物を特定した。特に「3-ヒドロキシ酪酸」や「ベタイン」など5種類は3病院のいずれでも強く関連していることが確認された。

さらに「抑うつ気分」「罪悪感」「自殺念慮」(自殺したい気持ち)など症状別で量が変化する代謝物が異なることも分かった。

九州大大学院医学研究院の加藤隆弘・特任准教授(精神医学)は今後、大規模な研究での検証が必要とした上で、「うつ病の早期発見や病態メカニズムの解明、新薬開発につながる可能性もある」と話している。

ユニオンからコメント

うつ病患者の血液に含まれる物質の中に重症度に関連するものがあることを、九州大学などのチームが見つけたというニュースです。この研究が進むと、うつ病の重症度を採血で診断できる方法の開発に役立つ可能性が高く、うつ病の解明や新薬・治療法の開発にも期待できると報じています。

現在、うつ病の重症度の判定は、面談などによる患者本人の主観的な訴えに基づく方法が一般的です。より客観的な評価技術が望まれるなか、今回、うつ病の重症度に関連する血中代謝物、罪悪感・自殺念慮などそれぞれに関連する代謝物が異なることが発見されました。また、自殺念慮の有無や強さを予測するアルゴリズムも開発されました。

【ご参考】【うつ病の重症度、および「死にたい気持ち(自殺念慮)」に関連する血中代謝物を同定 ~うつ病の客観的診断法開発への応用に期待~】国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター

うつ病は、抑うつ気分(気分の落ち込み)、意欲低下(喜びや意欲の喪失)に加えて、罪悪感、自殺念慮(死にたい気持ち)など様々な症状を伴う、自殺に至る危険が高い精神疾患です。厚生労働省の調査によると、うつ病を含む気分障害の患者数は、1996年に約43万人だったものが、2008年には約104万人へと急増しました。2014年度の調査では、患者数は約112万人と、患者数の増加は深刻な問題になっています。

一方で、薬の多剤大量処方を問題視されているのが「うつ病の治療」です。うつ病で精神科や心療内科等を受診している患者が、処方された向精神薬(抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬)を、指示された量よりも過量に摂取する問題が指摘されています。この問題は国の自殺対策に関わるとして、2010年に厚生労働省(自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム)が過量服薬への取組を公表しました。

【ご参考】【過量服薬への取組 ―薬物治療のみに頼らない診療体制の構築に向けて―】厚生労働省(PDF:444KB)

薬の多剤大量処方については、患者と医師のコミュニケーションに原因があると考えられます。患者側は、「症状が改善しないので仕方なく薬の量や種類が多くなってしまう」「長期間の投与により依存的な状況になっている」「薬の効果について十分な説明を受けられない」といった、薬物依存への認識不足から医師に処方を求めてしまう事情があります。

また、診療する側も、「患者の症状にあわせて投薬をした結果、投薬量が増えた」「薬の処方を強く望む患者に対して説得が困難」など、結果として過量服薬のリスクのある患者に対して多種類の薬剤を投与せざるを得ないような状況があります。

「患者の症状にあわせて投薬をする」には、重症度の評価が不可欠になります。面接で本人が訴える主観的な内容に基づいて重症度を評価するしかない現状では、(話された内容)で薬の量が決まるともいえます。つまり、苦しんでいるエピソードを大げさに話せば、大量の薬が処方されてしまう可能性があるということです。

うつ病は、寛解(かんかい:症状が一時的に軽減状態・収まった状態)と発病を繰り返す、長期の治療が必要になる深刻な病気です。今回発表された研究が進んで、血液検査で客観的に症状が判定できるようになれば、うつ病の早期発見・早期治療につながります。さらに、過剰投薬や薬物依存による二次的な精神疾患の予防につながることにも期待します。

 

出典元:毎日新聞・国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター・厚生労働省