第3034号【第12回 うつ病②】

経験語り説得はNG
下手な知識が墓穴を掘る

線引きしつつ要求に対応

一般的に、うつ病のみの診断で精神障害者手帳を取得するハードルは高く、もともと重症のケースが多い。また、うつ病の裏に潜む発達障害や別の精神疾患が本当の問題である場合が多数存在する。聞きかじった程度の知識で「うつ病にはこうすれば良いだろう」と対処した結果、それが間違っていて想定外の大きなトラブルになることもある。

うつ病の診断は現代の医療でも判断が難しい問題で、会社は、うつ病という病名にとらわれずに精神障害者全般の雇用問題として扱うべきだと思う。うつ病と診断された患者が十人いれば十通りの症状があり、重症化すればまた違う精神疾患へつながっていく。

私どもが関わった事例からいうと、うつ病の精神障害者は、必ずといっていいほど就労して間もなく(1週間程度や試用期間後など)会社に苦情や要求を伝えている。ところが、内容が「あの上司と一緒に働きたくない」「福利厚生が悪い」など子どもじみている場合が多く、好き嫌いをいっているように感じてしまい担当者や会社が真摯に取り合おうとしない。多くは、同僚や上司が自らの人生経験を語りながら「そんなことを我慢できないでどうする、頑張れ」で済ませてしまう。そのタイミングで問題を認知し、「どうしたい。ここまでは対応できる」と線引きをしつつも、休職や勤務時間の変更など適切な対応ができていれば、普通に就労可能な場合が多い。

うつ病に関する情報が世間には氾濫している。医学的には、様ざまな治療法の効果が認められ、抗うつ剤など薬物治療の効果も高いため、一定期間で寛解するとの判断もある。福祉的には、たとえば「頑張れ」がNGワードとされる。しかし、雇用問題としては不必要な情報も相当に多く、下手を打つことにもつながりかねない。そのため、担当者や会社の配慮や努力だけで問題を解決することは非常に難しい。会社が精神障害者雇用に取り組む姿勢を示したり、毎月面談をするたびに双方で就業規則の確認を徹底したりとメッセージを発信し、障害者自身も社会人としての自覚を持つことで、障害と闘いつつも継続して就労できる。原因や症状は様ざまだから、精神障害者との適正な距離感を作ることが配慮として求められている。

原因確認し対策を練って

極端ないい方をすれば、うつ病は働くことができない病気である。様ざまな治療や投薬で一般就労ができるまでに回復していることを前提として働く意思を表示しているが、何かあればまた発病する可能性が高い。できれば面接や入社時に「何が原因でうつ病になったのか。それを自覚しているか」聞く必要がある。また、症状が悪化して出社できなくなった際の対応など、当然想定できる事態についてのルール(休職できる期間など)を明確にし、双方で共有することが重要になる。

会社も初期対応マニュアル程度は作成しておく必要がある。加えて、同僚や直属上司が状況判断や問題解決を担うのではなく、専門的な部署が担当に当たるなどの仕組みを作ることが急務となる。

平成26年度の自殺などの精神障害者の労災請求件数は1456件、支給決定件数は497件と過去最多となっている。今後もこの傾向は続くと予定されている。

出典元:労働新聞 2015年10月5日