第3029号【第7回 身体(上下肢体)①】

休憩の合図を定めて
通勤時にも配慮が必要に

理由分からず生じた溝

厚生労働省指針―机の高さを調節することなど作業を可能にする工夫を行うこと―

「バリアフリー」は誰もが知る言葉となった。健常者が身体障害者に持つイメージは、障害部位に配慮ができていれば健常者と変わらないというものではないだろうか。

労使問題が少ないと思われるだろうが、実際には多くの相談が来ている。その内容は、身体障害に関するものはほとんどない。実際、私どもの事務所は急な階段を上る2階にあるものの、問題にする方はいない。

上場企業に勤務している下肢障害者A(脊髄損傷)は、車椅子で勤務することにとくにストレスを感じておらず、重要な業務も担当し責任感も強かった。多少の段差は慣れており、会社から通勤時間にも配慮してもらって支障はないと考えられていた。

Aが相談に来たきっかけは、トイレの問題だった。脊髄損傷という障害では、尿意や便意を自覚することや感じることができない場合がある。職場の皆に迷惑をかけたくないとの思いから、日常的に食事や水分摂取に気を使うだけではなく、早めにトイレに行って用便が済むまで待ち、それを目で確認する必要があり、長い時間費やしていた。申し訳ない気持ちでいるため、理由もいいにくいままだった。

しかし。同僚の「いつもサボっている」という心ない一言で精神的に深刻な問題を抱えてしまい、トイレに行けないなど体調も崩してしまった。理由が職場で理解されていれば多少は気にせずに済んだだろう。また、Aにはトイレに行くたびに宣言し席を離れることが恥ずかしくもあった。

心理負担ない仕組みを

障害者手帳を脊髄損傷や関節機能全廃と書かれている障害の場合、ときに激痛が襲ってくることがあり、少しの時間横になることで痛みを和らげることができる。しかし、休憩をとり横になる様子が周りにどうみられているかを気にして、無理している方が非常に多い。

このように、障害に対する無理解から「サボっている」「わがままをいっている」と認識されてしまったケースがかなり多く存在する。トラブルの多数くはここから始まり、後に重大な問題に発展している。障害により独自の休憩が必要だという情報を共有し、気兼ねせず休息できるように―たとえば休憩に行くとき自分の机にマスコットを置くなど―何かの合図を決める簡単な工夫があれば、双方が気にせずに済む。

通勤にも問題はある。車椅子を使用する場合、少しの段差でも大変で通勤電車に乗ると周囲の目などで不快な思いをするためにストレスが多いと聞く。本来は車椅子で生活すべき程の障害であっても厳しい訓練をして装具や杖でなんとか歩けるようになると、今度は動作の速度などで途端に邪魔者扱いをされるケースが多い。車椅子でない人が抱える通勤時の問題のほうが深刻で、時間帯の配慮などを必要としている場合が多い。

重たさの感覚の違いが問題になった事例もある。障害者には空のコップ程度でも激痛を伴う重いものだった。このように、休憩やトイレ、重たさに対する障害者と健常者の価値観が違うことで生じる問題が深刻である。

出典元:労働新聞 2015年8月31日