第3023号【第1回 現状と展望】

「合理的配慮」と解説
大半の紛争は回避可能に

”採用=ゴール!”ではない

「うちの会社で働いている障害者は幸せだ」「わが社は障害者とうまくやっている」-こういわれたことがある。一方で、私どものところへ働く障害者からの相談が毎日のように届いており、その件数は確実に増えている。

現在、障害を抱えながら働いている人は、障害者人口に対する比率が約5%、労働者人口に対する比率では約0.6%と非常に少数だ。そのため、障害者が職場で問題を抱えてしまった場合、不本意に職を失うことや、ときには誰にも相談できずに苦悩から自殺するなど悲惨な事件も起きている。一方で企業側も「障害者雇用に積極的に取り組んで障害者雇用率を達成し・維持したい」「雇い入れた障害者には長く働いてもらいたい」と思いつつも上手くいかず、ときには障害者からの無理難題ともいえる要求や無茶な主張のために苦慮しているなど、課題を抱えていることも少なくないのではないだろうか。

その理由として、「障害者が働く」ことは障害者の”就職”がゴールであり、「障害者を雇う」ことは障害者を”採用”することがゴールになってしまっている場合が非常に多いのではないかと思う。障害者が働きたいと考えたときには、福祉はもちろん民間の職業紹介会社など様ざまな支援態勢がある。企業が障害者を雇う際も同様に様ざまな支援が受けられるが、障害者と企業の双方が努力をして就職・就労した後はお互いの自己責任となってしまう。

小さなすれ違いが生む溝

些細なきっかけや小さな問題でもお互いがどうすればいいのか判断しづらく、相談すらできずに困っているケースが少なくない。その方向性の違いが、採用から退職までの就労期間に溝を作っているのではないだろうか。障害者の求職者から希望や要望を聞くことも大切だが、できないことや苦手なことをしっかりと聞き出し、雇い入れた後にその情報を共有することができるのかを検討することが就労環境を整えることにつながる。

平成27年3月25日に厚生労働省が、改正障害者雇用促進法に基づく「障害者差別禁止指針」と「合理的配慮指針」を策定した。一方で、多数の障害者を雇用している企業からは、この指針では実践に対応しきれないとの感想も聞いている。私ども働く障害者専門の労働組合であるソーシャルハートフルユニオンが実際にかかわった事例を交えながら、合理的配慮についてはその障害別に、障害者差別禁止については噛み砕いた表現で独自の視点から解説していきたい。

個人的には、障害者雇用全般に関して企業が想像力や知恵と工夫をもって取り組めば、ほとんどのトラブルは回避・解決できると実感している。ここでいう想像力とは、自分(家族や友人)が病気(事故や先天的に)で障害者になったときに普通に生活するのはどれだけ大変なのだろうかと想像してみることをいい、知恵と工夫は、障害者や担当者の資質(我慢強さ)や性格(面倒見のよさ)に頼らないルールや仕組みを構築することをいう。そのような企業の取組みが「障害者が普通に働く」ことにつながることを願ってやまない。

ソーシャルハートフルユニオン 書記長 久保修一
1965年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学法学部政治学科中退。 日本で初めての障害者のための労働組合「ソーシャルハートフルユニオン」書記長。
会社と対立することが多い労働者側ユニオンという立場でありながら、円滑な職場こそが働く障害者のためになるとの信念から、 会社の苦心や努力にも理解を示し、会社側からも信頼されている障害者雇用問題のスペシャリスト。

出典元:労働新聞 2015年7月20日