【結局撤回、連合に傷 組織内まとめられず「残業代ゼロ」】
2017年7月27日
朝日新聞
専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を巡る執行部の方針転換を巡って迷走を続ける連合が、再び「反対」に転じる。
執行部の一部が主導し、いったんは「条件付き容認」に傾いたが、組織内をまとめきれなかった。独り相撲の末に組織は大きく混乱し、内外から批判が殺到。「労働者の代表」としての威信は深く傷ついた。
神津氏が安倍晋三首相を官邸に訪ね、働き過ぎを防ぐ対策の拡充を要請したのは13日。連合執行部は「組織内での議論や了承は必要ない」と強気の説明をし、要請を反映した形で政府、経団連と「政労使合意」を19日に結ぶ予定だった。
しかし、執行部の一部の「独走」に対し、組織内や、民進党、過労死遺族の団体などから反対論が続出。連合の事情で政労使合意は延期された。神津氏は20日夜も、翌日の中執委で組織内の了解が得られれば、政労使合意を結べる環境が整うと楽観的な見方を示していた。27日にも政労使合意を結ぶ考えだった。ところが、21日の中執委で10以上の傘下の産別や地方組織が異論を唱えて、了解取り付けに失敗した。
そして、「反対」への回帰。ある産別幹部は「あのまま政労使合意に突き進んだら、組織内のゴタゴタはずっと続いていただろう。最悪の事態は避けられた」と話す一方、「一度要請して、合意の算段を取り付けたことを引っ込めるなんてありえない。向こうのメンツをつぶしたわけだし、当然(執行部の)責任問題になる」との見方を示した。
連合の「容認撤回」に対し、官邸幹部は「連合はいい加減な組織だ。分裂した方がいい」と批判。政権は連合の出方を見極めて、労基法改正案を修正するか判断する構えだ。ただ、高プロについて連合との合意が得られなくても、政権は残業時間の上限規制も含む労基法改正案を臨時国会の「目玉」と位置づけており、成立をめざす方針に変わりはない。
ユニオンからコメント
「実を取る」と(高プロ)を容認した連合が、内部の反発によって方針を撤回したというニュースです。
残業時間の上限規制では、経団連が「100時間以下」、連合が「100時間未満」と対立して譲らず、安倍首相が「99時間59分」で決着させたというシナリオを演じました。今回も同じ構図を思い描いていたのでしょうが、そうはなりませんでした。一転して反対にまわった連合の方針には関係なく、安倍政権は法律を成立させてしまうようです。
【政府、法案修正検討し提出へ 連合合意なしで】
政府は成果型労働制といわれる「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)導入を含む労働基準法改正案について、修正を検討し、秋の臨時国会で、働き方改革関連法案と一括して提出する方針を固めた。連合は高プロを修正のうえ容認する姿勢を一転、政労使合意を見送る方針だが、政府は連合の合意がなくても、法案の修正で歩み寄り、成立を目指す考えだ。国会に提出済みの、高プロの創設を柱とした労基法の改正案はいったん取り下げ、残業時間の罰則付き上限規制などを盛り込んだ働き方改革関連法案と一体化。厚生労働省の労働政策審議会の答申などを踏まえ、臨時国会に提出する。(2017年7月26日 毎日新聞)
長時間労働問題では、罰則強化の具体的な議論を連合から持ち掛けることが不可欠でした。現在の「30万円以下の罰金」から、どの程度重くするかをまったく議論しないまま、「100時間未満」にこだわって決着したせいで、そのルールすら守らない会社が続出しています。
電通事件以後も、ほぼ毎日のように「国立競技場建設現場で200時間を超える残業」などと報道されていますが、違法残業が減る気配はありません。長時間労働是正に取り組むことは、いわば「国家的な宿題」だと政府も認めています。
【違法残業1万272カ所 厚労省が是正勧告】
厚生労働省は26日、月80時間超の時間外労働が疑われる2万3915事業所のうち、43%に当たる1万272事業所で違法な時間外労働を確認し、是正勧告を行ったとする平成28年度の監督指導結果を発表した。月100時間超の時間外労働が疑われる事業所を対象にした前年度に比べ、監督指導の数は大幅に増えた。
厚労省によると、違法な時間外労働があった事業所のうち“過労死ライン”とされる月80時間を超えていたのは7890カ所。月200時間を超えていた事業所も236カ所あった。また、残業代などの賃金不払いが1478カ所、健康診断未実施など健康障害防止措置の不十分が2355カ所で確認された。厚労省は「指導により是正されても違反を繰り返す恐れがあり、粘り強く指導していく」としている。(2017年7月26日 産経新聞)
【ご参考】【長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表します】厚生労働省
【経済財政白書 長時間労働を改め柔軟な働き方導入を】
政府は、今年度の経済財政白書で、国際的には1人当たりの労働時間が短い国ほど生産性が高いとして、長時間労働を前提にした働き方を改め、時間や場所を自由に選択できる柔軟な働き方の導入を進めるべきだとしています。今年度の白書では、1人当たりの労働時間と労働生産性の関係をOECD諸国のデータを使って分析しました。それによりますと、ドイツの年間の総労働時間は、日本のおよそ8割の1300時間だったにもかかわらず、1人当たりの労働生産性は日本の水準を50%近く上回っているとしています。また、単純計算で1人当たりの労働時間が10%短くなると、1時間当たりの労働生産性は25%高まるとしています。また、内閣府が日本の企業を対象に行ったアンケート調査などからも、長時間労働の是正や「テレワーク」の導入など、柔軟な働き方に取り組む企業のほうが生産性が高いという結果が確認できたとしています。こうしたことから、白書では、長時間労働を前提とした働き方を見直し、時間や場所を自由に選択できる柔軟な働き方の導入を進めるとともに、福祉や運輸など特に人手不足が深刻な業種ではロボットやAIなど省力化のための投資を積極的に行う必要があるとしています。(2017年7月21日 NHK)
労働者が健康ではたらくことに、(政・労・使)どの立場であっても関心が高いことに異論はないでしょう。(政・労・使)3者が合意してルールを決めることに価値はありますが、守らない会社ばかりでは意味がありません。連合は、過労死ラインを合法化してしまった感のある長時間労働の議論で、罰則強化を後回しにしたこと、労働者の健康について努力義務に止まったことを改めて問題視すべきです。
労働者代表としての矜持を保つため、連合が一連の経緯を猛省されることに期待します。「どのくらい罰則を強化すれば、指導されなくても会社が是正に取り組むか」、「高プロ導入と引き換えに、インターバル規制を制度化する方策はないか」、「常習・確信犯的に労基法違反を繰り返す会社に、デモやストライキなど労働組合の機能で対抗できないか」など、今からでも間に合う議論は多く残っているはずです。
出典元:朝日新聞・毎日新聞・産経新聞・厚生労働省・NHK・内閣府