【自殺者10年で3割減らせ 厚労省が目標設定】
2017年4月27日
日本経済新聞
厚生労働省の有識者検討会は26日、自殺対策の国の指針となる「自殺総合対策大綱」の見直しに向けた報告書を大筋で了承した。今後10年間で、人口10万人当たりの自殺者数である「自殺死亡率」を2015年と比べて30%以上減らす目標を掲げた。このため過労自殺対策などの推進を盛り込んだ。今夏に新たな大綱を閣議決定する。
国内の自殺者数は16年が2万1897人と7年連続で減少した。しかし報告書は「年間2万人を超える深刻な状況で、主要先進7カ国の中で日本の自殺死亡率は最も高い」と国内の現状を問題視した。
世界保健機関(WHO)の調査によると、米国の自殺死亡率は14年に13.4人、英国は13年に7.5人。日本は15年が18.5人だった。このため26年までに13.0人以下へと15年比で30%以上減らすべきだとする新たな目標を掲げた。
現在の大綱に基づく目標は、16年までの10年間で自殺死亡率を20%以上減少させるとしていた。15年の18.5人と05年の24.2人を比べると23.6%減少しており、報告書は「目標が十分に達成されている」とした上で、新たな目標の達成に向けてさらなる取り組みの推進が必要だとしている。
今後の重点テーマとしては、電通の違法残業事件などを踏まえ、過労自殺や職場での人間関係による自殺の対策に取り組むことを挙げた。長時間労働の是正に加え、企業のメンタルヘルス対策を充実させていく方針を明記した。
また妊産婦の自殺が問題になっていることも指摘。産後うつの早期発見や、乳幼児健診を通じて育児に悩みを抱える母親への支援を強化するなど対策を充実させるべきだとしている。このほか報告書は地域で自殺対策を推進していく中で、都道府県や市町村は独自の数値目標を掲げ、目標を達成できたかどうか検証するよう求めた。
自殺総合対策大綱は、06年施行の自殺対策基本法に基づき、07年に初めて策定。12年に現在の大綱を閣議決定した。
ユニオンからコメント
厚生労働省が、過労自殺対策などを盛り込んだ「自殺総合対策大綱」の見直し案をまとめたというニュースです。
【ご参考】【新たな自殺総合対策の在り方に関する検討会(第6回)】厚生労働省
【ご参考】【新たな自殺総合対策大綱の在り方に関する検討会報告書(案)】厚生労働省(PDF:536KB)
数値目標を設定して、自殺者を減らそうとしている政府の取り組みについてはユニオンでも紹介しています。
自殺の背景には、過労、生活困窮、いじめや孤立などの様々な社会的要因があるとして、新たに見直される「自殺総合対策大綱」には、「長時間労働の是正、企業のメンタルヘルス対策」が明記されることになります。
報告書が、「過労死等をもたらす主な原因である」と指摘している長時間労働ですが、是正に向けた意識のズレが今後の課題になるでしょう。
【悪質長時間労働「罰則厳格に」90%・・・読売調査】
読売新聞社は、「働き方」に関する全国世論調査(郵送方式)を実施した。正規雇用、非正規雇用を問わず、能力や成果、勤続年数が同じ場合に同じ賃金を払う「同一労働同一賃金」にすべきだと「思う」人は71%に上り、「思わない」の27%を大きく上回った。
今の日本の社会で、長時間労働が「問題だ」と思う人は「大いに」と「多少は」を合わせて90%。悪質な長時間労働をさせた企業に対する罰則を厳格に適用することに「賛成」は90%、「反対」は8%だった。(2017年4月24日 読売新聞)
【残業規制で4割が支障、働き方改革5割が費用増】
4月ロイター企業調査によると、新たに導入される残業上限規制の結果、事業に支障が出ると回答した企業が約4割にのぼった。非正規雇用の待遇改善なども合わせた「働き方改革」によって労働コストが増加するとの回答も5割にのぼる。
政府がまとめた「働き方改革実行計画」では、残業時間の上限が年間720時間に規制された。これが法制化されると従業員の一人でもそれを上回れば罰則が科される。しかし、労働集約型の事業が中心の非製造業では、これが適用されれば現行の事業のやり方では支障が出るとの回答が全体の46%にのぼった。(2017年4月21日 ロイター通信)
長時間労働の是正と並んで、職場に推進を求めるもう一つの柱がメンタルヘルス対策です。
メンタルヘルスとは「こころの健康」のことで、企業のメンタルヘルス対策とは「会社が行う、ストレス・うつ病など精神疾患への対策」です。
労働安全衛生法で「ストレスチェック制度」が義務化されていますが、長時間労働などの量的なストレスのチェックだけではなく、職場の人間関係といった心理的な質的ストレスのチェックも重要だと報告書は指摘しています。
こころの健康で大切なのは、「ストレスと上手につきあう」ことです。ストレスについて知ることや、自らが工夫することも必要になります。厚生労働省のホームページで詳しく解説していますので、参考にしてください。
長時間労働と、こころの健康は密接に関連しています。長時間労働は人を疲れさせ、気力を奪い、物事を深く考えなくしてしまう。そうなってしまった人は、「こころが健康だ」とは言い難い状態です。
【働き盛りが読書しない日本に、やがて訪れる「思考停止」社会】
日本の30代~40代の読書率が、21世紀に入ってからの10年間で大きく下がっている。
「長時間労働で疲弊した人は新聞を読む気力もなく、物事を深く考えなくなる。少しの情報だけで自分の意見を決める。それが世論になってしまう。欧州では家族で食事をとりながら会話をしたり、広場やカフェで自由に議論をしたりする。時間に余裕があるかどうかは、民主主義の成熟と深く関わっている可能性がある。(福井新聞2017年3月20日)」
日々の仕事に精一杯で、知識の「肥やし」を得ることができずにいる、日本の労働者の現状を言い当てている。福井新聞の記事では新聞に触れているが、国民の読書の頻度も減ってきている。その傾向は、働き盛りの年齢層で顕著だ。どの年齢層も、この10年間で読書の実施率が下がっている。全国的に「知の剥奪」が進んでいる、と言ったら言い過ぎだろうか。国を挙げて、読書を推進する取組が進められているが、現実はこの通りだ。
とりわけ働き盛りの層で読書離れが進んでいるのだから、モノ言わぬ労働者が増えていることが数値的に示されている。こうした現状のなかで、やりたい放題のブラック企業がはびこることになる。まとまった分量(深み)のある本を読まず、スマホのネットニュースで短いタイトル(リード文)だけを見て、自分の考えを決めてしまう。
モノを深く考えない国民が増えることは、政治の方向を誤らせることにも繋がるのではないか。この傾向が次世代にも受け継がれるとしたら、甚だ恐ろしい。無知とは恐ろしいことで、知識を得るための学習は権利であることを子供たちに教え、政府は国民の学習権を保障する条件を整えなければならない。労働時間の短縮は、そのなかでも特に重要な項目の一つだ。(2017年4月12日 ニューズウィーク日本版)
「自殺を減らす」と「自殺を防ぐ」は、少し違います。社会で減らしていこう、ではなかなか減りません。身近な人の自殺を何とかして防ごう、とするから減るのです。報告書には、若者の自殺対策として「SOSの出し方教育」が挙げられています。「SOSの出し方」を教えることも大切ですが、「SOSに気づく」方法を教えることも重要です。
あまり物事を考えない日が続いている。自分は疲れている。そう感じたときに、スマホから目を離して読書してみるのもセルフケアの一つの方法です。最後に、ロス・ドゥザットというコラムニストがNYタイムズに寄稿したコラムを紹介します。
【ネット中毒 スマホ規制、あなたを取り戻す】
あなたは、インターネットのしもべだ。
自分の気持ちを探ってみれば、思い当たるふしがあるだろう。
若い人ならもちろん、年配の人でもますます、メールやツイッター、フェイスブック、インスタグラムを頻繁にチェックしたい衝動に支配されている。
衝動が無害であることはめったにない。
ネットはあなたを殺さないし、荒廃や貧困に陥らせることもないだろう。
だが、小さな画面にたえず集中することを強いる。配偶者や友人、子ども、自然、食事、芸術といった昔ながらの恵みを、常に気が散っている状態で感じざるを得なくなる。
分別ある使い方をすれば、ネットは新たな恵みをもたらしてくれる。
だが、私たちは機器を使うのではなく、使われている。社会心理学者アダム・オルターが新著で指摘するように、こうした機器は中毒になるように作られている。
私たちを狂わせ、気を散らし、刺激し、そして欺くのだ。
私たちは、求められるがままにプライバシーを差し出し、やきもきしながら「(フェイスブックの)いいね」がつくのを待っている。
いくらかでも主導権を取り戻すため、社会的、政治的な運動が必要だ。いわば、デジタル規制だ。「禁酒法みたいな? 日々の仕事、生活で頼りにしているのに」などと異論が出るかもしれない。だが規制は禁酒法とは違う。特定の製品を適切に機能させようとする自制の文化を意味する。
インターネットに接続されたオンライン生活は、社会的な恩恵や知的利益をもたらし、経済成長にも大きく寄与している。
ただ一方で、自己愛を増長させ、疎外感や鬱(うつ)を生み、想像力や熟考に利するより害する方が大きいと考えるに足るだけの根拠もある。
デジタル規制運動は、ネット利用が違法だったり抑制されたりする空間をつくるものになろう。車での携帯電話の使用を禁止する法律を強化し、企業では会議中のメールチェックを厳しく牽制(けんせい)するルールを作る。さらに段階が進むと、小学校からパソコンを排除する。児童には、研究でインターネットが必要になるまで本で学習させよう。仮想空間に取り込まれるまでは現実世界で遊ばせよう。
ローテクの学校に自分の子どもを通わせるシリコンバレーの巨頭たちに人々が同調したらどうだろう。運動を起こさなければ、ポケットの中の暴君から身を守ることはできない。(2017年3月11日 NYタイムズ)
出典元:日本経済新聞・厚生労働省・読売新聞・ロイター通信・ニューズウィーク日本版・NYタイムズ