【有期契約労働者に関する調査】

2017年7月20日
日本労働組合総連合会

2018年4月1日から「無期転換ルール」が導入されることを受け、日本労働組合総連合会(連合)が有期契約労働者の意識調査を行い結果を公表しました。「無期転換ルール」の内容を知らないと回答した人の割合は84%に上りました。

【ご参考】【有期契約労働者に関する調査】日本労働組合総連合会(PDF:496KB)

【ご参考】【「無期転換ルール」と有期雇用契約の更新について】

連合の調査結果では、正社員になれない人の約80%が「働き方に不満がある」と回答し、およそ75%の人が「正社員を希望する」と答えています。一方、「契約期間が無期になるだけで待遇が正社員と同等になるわけではないから意味が無い」と答えた人が50%以上いました。無期転換ルールを前向きに受け止めている人もいれば、雇止めによってはたらけなくなるのではないか不安に感じている人もいるようです。

民間会社の調査でも非正規労働者の多くが無期雇用を希望しているという結果が出ています。現在、非正規雇用されている人の多く(パート・アルバイト67.7%、契約社員84.5%)が「無期雇用転換したい」と回答しています。

【ご参考】【無期雇用転換に関する調査】アイデム人と仕事研究所(PDF:2.07MB)

一方、企業への調査では、約60%の会社が「何らかの形で無期契約にする」と回答しています。実際に、「地域限定正社員」「ジョブ型正社員」と呼ばれる「限定正社員」の制度を採用する会社は確実に増えてますが、批判的な立場の人も少なくありません。

【ご参考】【多様な正社員の活用状況に関する調査結果】独立行政法人労働政策研究・研修機構

【転勤なし正社員、制度広がる 待遇面では懸念】

転勤のない正社員の制度を、全国展開する企業が相次いで導入している。子育てや介護の制約があっても働き続けられると評価する声がある一方、給与のカットや昇進の制限など、待遇引き下げへの懸念もつきまとう。
■給料減るが「家族と」
コールセンター大手、ベルシステム24で正社員として全国転勤をしてきた杉浦弘幸さん(41)は今年3月から、転勤のない地域限定正社員になった。入社20年目。福岡に勤務していた昨秋、地域限定正社員への転換を募る初の社内募集があり、手を挙げた。だが、待遇が下がるのは悩ましかった。地域限定正社員になると、基本給が5%減り、ボーナスは6割も減る。管理職にも登用されなくなる。「上をめざしたい気持ちはあったが、家族との時間を大切にしたい」と決断した。地域限定正社員の導入は他社にも広がる。企業によって浸透具合はまちまちだが、人手不足を見据えた対応である点は共通している。
■人生に見通し/格差固定も
地域限定正社員はさらに広がり、企業に定着していくのか。専門家の見方は割れている。
労働政策研究・研修機構の荻野登副所長は「ライフプランの見通しが立てやすくなる」と評価する。共働きでの子育てや親の介護など転勤しにくい事情を抱える人が増えている現状を踏まえた取り組みだととらえている。一方、賃下げや解雇につながると警戒する向きもある。東京管理職ユニオンの鈴木剛委員長は「転勤できるかどうかで社員を分類し、転勤できない人の給料を下げる人件費の抑制策の面がある」と指摘。働く地域が限定されると、仮に勤め先の拠点が閉鎖されれば解雇のおそれが高まるため、「雇用が不安定になりかねない」とも危惧する。企業の転勤制度に詳しい法政大の武石恵美子教授は、地域限定正社員の制度はうまく運用しないと、かつての総合職と一般職のような身分格差の固定化を招く可能性があるとみる。
■地域限定正社員制度を導入した企業
<高島屋>2017年3月/給料は1割少なく、管理職にはなれない
<イオンリテール>2016年8月/基本給は同じだが、転勤の範囲に応じて払われる「エリア給」はない
<モスストアカンパニー>2014年4月/支社のエリア内の転勤がある社員より基本給が1万円少ない
<ベルシステム24>2016年3月/全国を6エリアに分け、物価水準などに応じて基本給が最大で25%低くなる。管理職にはなれない(2017年7月17日 朝日新聞)

【限定正社員は「全員非正規化」につながる危険がある】

安倍晋三首相は、「日本から非正規という言葉をなくしたい」と再三、言明している。そのような雇用環境を作り出せれば、確かに望ましいだろう。ただし問題は、現実の世界では、そのような雇用形態を維持することが困難になっていることだ。人口の年齢構成の変化も、「日本型雇用システム」の維持を困難にしている。そうした条件変化に正面から対応することなく、形式的に正規・非正規の差をなくそうとすれば、実際には「全員非正規化」という事態が将来されることもありえなくはない。
■過半数の企業が導入した「限定正社員」は「全員非正規化」に進む事態も
実際、産業界は、正規雇用でなく、非正規雇用を求めている。最近では正規社員の採用が増えているが、それは新卒者が中心だ。若い人材は確保したいが、給与が高くなった中高年は切りたいというのが、企業の本音だろう。また、「正社員の存在が雇用の柔軟性を奪っている」という議論も、しばしば出されている。そして、「限定正社員」という仕組みが提案された。「限定正社員」とは、勤務地や職種、労働時間などをあらかじめ限定した雇用形態で、正社員と非正規労働者の間の中間的なものだ。「多様な正社員」とか「ジョブ型正社員」と呼ばれることもある。正社員について、これまでより柔軟な働き方を導入するのは十分に意味がある。しかし、「限定正社員」は、勤務地や職種、労働時間などが限定されるがゆえに、正社員よりも解雇されやすいことにも注意が必要だ。その意味で、これは「正社員の非正規化」と解釈できなくもない。正規と非正規での格差をなくそうという「同一労働同一賃金」も「限定正社員」も、両刃の剣なのであり、「全員正社員化」ではなく、逆に「全員非正規労働化」を可能にするものでもある。(2017年6月22日 ダイヤモンド・オンライン)

【ご参考】【ジョブ型正社員は条件明確化を】

現在、労働契約法は不合理な労働条件そのものを禁止していますが、連合のアンケート結果では、正規・非正規の「不合理な労働条件の禁止」について、内容まで知らないと答えた人がおよそ90%いました。

【ご参考】【不合理な労働条件の禁止(第20条)】厚生労働省(PDF:772KB)

改正労働契約法は平成25年4月1日から施行されていますが、調査結果からは、非正規労働者への不合理な条件が存在している実態が明らかになりました。具体的には、通勤手当の不支給(39.2%)、ボーナスの不支給(71.1%)、退職金の不支給(88.4%)などです。福利厚生についても、会社の食堂を利用できない(40%)、慶弔休暇なし(44.9%)、健康診断なし(32.2%)となり、教育訓練は(51%)の人が対象外と答えています。

「格差のグレーゾーン」が広い労働契約法では不合理な格差を解消することが難しいことから、議論され始めたのが「同一労働同一賃金」です。安倍政権が作成した指針案も、通勤手当や社内食堂の利用などで正社員と非正社員に差をつけてはいけない等、「合理的な理由なしに正社員と非正社員の待遇に差をつけることを禁じる」としています。

【ご参考】【「同一労働同一賃金」政府指針案、道筋見えず】

【非正規の8割「同一労働同一賃金」に賛成】

ディップ株式会社は、自社で運営する総合求人情報サイト「はたらこねっと」において、「はたらこねっとユーザーアンケート―同一労働同一賃金について―」を実施しました。
「同じ仕事をしている人は、雇用形態に関わらず同じ給与・待遇であるべき」という考え方である同一労働同一賃金。これについて賛成か反対か質問したところ、非正規で働く人の79%が「賛成」と答える結果となりました。
同一労働同一賃金について期待していることを「雇用形態、年齢、役職」による「給料、福利厚生、責任」の差に分けて質問したところ、「雇用形態による給与の差がなくなること」「雇用形態による福利厚生の差がなくなること」など、〝雇用形態″の違いによって発生する差の回答が上位を占めました。「年齢」や「役職」よりも、「雇用形態」による差の改善を期待していることが伺えます。非正規で働く方に、同一労働同一賃金の思想であれば同水準の給与を貰うべき正社員がいるか、また同じ業務内容、同じ業務量で働く正社員が自身の周囲にいるかを聞いたところ、49%が「いる」と回答しました。「いる」と回答した方に、給与差(年収)の予想を聞きました。約半数が50万円以上、約30%が100万円以上違うと予想する結果となりました。(2017年7月14日 産経新聞)

【ご参考】【はたらこねっとアンケート結果】ディップ株式会社

働き方改革実現会議は、「正社員の60%程度である現在の非正規労働者の賃金を、ヨーロッパ並みの80%程度にまで引き上げることを目指す」としています。これだけなら、SDGsに書かれた「すべての人にディーセント・ワークを」、ILOの掲げる(同一価値労働同一賃金)を目指すようにも聞こえます。

【ご参考】【持続可能な開発目標(SDGs)目標8】GCNJ

【ご参考】【同一価値労働同一報酬のためのガイドブック】ILO駐日事務所(PDF:2.37MB)

同一労働同一賃金でもっとも重要なことは、日本の正規・非正規の賃金格差が大き過ぎることに尽きます。安倍首相が、「非正規という言葉をこの国から一掃する」と宣言したのも、非正規労働者の賃金が低すぎるからだったはずです。非正規(有期)雇用の人を無期雇用して賃金が下がるなら、「非正規という言葉だけをなくす」ことに他なりません。「非正規雇用ではなくなったが、給料が減った」では、何一つ解決しないのです。

【働き方改革は企業の人材戦略、成長戦略の中核】

安倍晋三首相は24日、神戸市中央区の神戸ポートピアホテルで開かれた神戸「正論」懇話会の設立記念特別講演会で講演した。講演の詳報は次の通り。「不合理な待遇差を是正することで、人のやる気につなげていく。同一労働同一賃金を実現します。この同一労働同一賃金は先ほど申し上げましたように、非正規のときには無かった責任感が、正規になって生まれてくる。これはまさに経営側にとっても生産性が上がっていく。売り上げが増えていく、利益が増えていく、成長していく、必ずプラスになるはずである。それはもう経営者の手腕にかかっていると思います。」(2017年6月24日 産経新聞)

【安倍首相は現場知らないと批判】

安倍晋三首相が憲法改正や残業規制などに意欲を示した24日の神戸市の講演で、非正規労働者は責任感ややる気がないと受け取られかねない発言があり、非正規で働く人や専門家から「責任感を持って仕事をしている」「非正規の現場を知らない無神経な発言だ」といった批判が出ている。首相は講演で、憲法への自衛隊明記の必要性や成長戦略などを語ったほか、正社員と非正規労働者の不合理な待遇差の解消を目指す同一労働同一賃金実現の重要性に触れ「非正規の時にはなかった責任感や、やる気が正規になって生まれていく」と述べた。(2017年6月27日 共同通信)

【非正規雇用者めぐる首相発言を「とんでもない暴言」と批判】

民進党の山井和則国対委員長は28日、安倍晋三首相が24日の神戸「正論」懇話会で講演した内容に非正規雇用者に責任感がないと受け取れる部分があったとして、「とんでもない暴言だ。今の日本社会を支えている人の多くは非正規だ」と批判し、発言の撤回と非正規雇用者への謝罪を求めた。国会内で記者団に語った。山井氏は「自民党政権が非正規社員を増やす政策を採りながら、その人たちに『やる気がない』とか『責任感がない』とよく言えたものだ」と憤りを口にした。首相は講演で、非正規雇用者の賃金などを正社員並みに引き上げることで「非正規のときにはなかった責任感が、正規になって生まれてくる」と述べ、同一労働同一賃金の必要性を訴えた。共同通信社などは、その発言をとらえて「非正規労働者は責任感ややる気がないと受け取られかねない」と報じていた。(2017年6月28日 産経新聞)

安倍首相の心ない発言に対し、ネット上では「馬鹿にしている」「非正規に対する侮辱」といった批判の声が上がりました。同一労働同一賃金で大切なのは、(責任感・やる気)ではなく、国家公務員への処遇(事実上の賃上げ)を民間に浸透させる政策でしょう。

労政審の建議(政府に意見を申し述べること)には「正規・非正規雇用の間には賃金、福利厚生、教育訓練などの面で待遇格差があるが、こうした格差は、若い世代の結婚・出産への影響により少子化の一要因となるとともに、ひとり親家庭の貧困の要因となる等、将来にわたり社会全体へ影響を及ぼすに至っている」と書かれています。欧州諸国に比べて低い日本の非正規雇用労働者の賃金水準を上げていく、この実現こそが最優先課題です。

【非常勤のボーナス増額=国家公務員、18年度から】

非常勤の国家公務員に支給するボーナスについて、政府は12日、2018年度から増額する方針を固めた。「同一労働同一賃金」を掲げ、民間に正規・非正規社員の格差是正を要請していることを踏まえ、人事院が期末手当に相当する分だけでなく、勤勉手当分も支給するよう指針を改正。これを受け、各府省が18年度予算概算要求に必要額を計上する。一方、給与法は非常勤職員の給与に関し、常勤との均衡を考慮して支給すると規定。しかし、具体的な対応は各府省に委ねられているため、常勤と比べて待遇が悪いケースもあった。そこで人事院は08年、各府省に「相当長期にわたって勤務する非常勤職員に対しては、期末手当に相当する給与を支給するよう努める」ことを要請。今回はさらに踏み込み、勤勉手当に関しても対応を求めた。人事院は併せて、月給についても常勤により近づけるよう要請した。(2017年7月13日 時事通信)

【ご参考】【労働政策審議会建議 同一労働同一賃金に関する法整備について】厚生労働省

【ご参考】【同一労働同一賃金特集ページ】厚生労働省

出典元:日本労働組合総連合会・アイデム人と仕事研究所・独立行政法人労働政策研究研修機構・朝日新聞・ダイヤモンドオンライン・厚生労働省・産経新聞・ディップ株式会社・GCNJ・ILO駐日事務所・共同通信・時事通信