【ジョブ型正社員は条件明確化を=規制改革会議が公開討論】

2017年4月13日
時事通信

政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大教授)は13日、職務や勤務地を限定して働くことのできる「ジョブ型正社員」の普及に向け、同会議委員と経団連、連合、厚生労働省の関係者らによる公開討論会を東京都内で開催した。

委員からは「限定する条件を具体的に明示するなどのルールが必要」との意見が相次いだ。 

ユニオンからコメント

政府の規制改革推進会議が「ジョブ型正社員の雇用ルールの確立」に向け、公開ディスカッションを開催したというニュースです。

【ご参考】【公開ディスカッション 議事次第】内閣府

労働者側を代表する連合は、「(ジョブ型正社員)は、既に導入している。政府が画一的なルールを設け、制度導入の後押しすることは必要ないのではないか」として導入に反対の立場です。

【ご参考】【日本労働組合総連合会 提出資料】内閣府(PDF:116KB)

経営者側を代表する経団連は、「無期転換ルールのもと、5年を超えて有期労働契約を更新するかは企業の判断であるが、無期転換の仕組みを整備することは労働者への大きなアピールとなり、前向きに検討すべきである」として導入に賛成の立場です。

【ご参考】【一般社団法人日本経済団体連合会 提出資料】内閣府(PDF:112KB)

【「ジョブ型正社員」普及へ議論=規制改革会議】

政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大教授)の人材作業部会は10日、職務や勤務地を限定して働くことのできる「ジョブ型正社員」の普及に向け、既に導入している民間企業3社からヒアリングした。同会議は6月の政府答申に盛り込むことも視野に検討を進める。(2017年3月10日 時事通信)

【ご参考】【第11回人材ワーキング・グループ 議事次第】内閣府

普及ありきで、法整備を急いでいる感のある(ジョブ型正社員)ですが、実は、多くの企業が「地域限定社員制度」などの呼び名で既に導入しています。平成24年3月に厚生労働省が公表した資料によると、およそ半数の大手企業が(ジョブ型正社員)制度を活用していました。

【ご参考】【「多様な形態による正社員」企業アンケート調査結果概要】厚生労働省(PDF:980KB)

これまで多くの企業で導入されているのに、安倍政権が今更「限定正社員制度の導入」を強く推し進める真意は、「従来の正社員を限定正社員に転換させることで、正社員を解雇しやすくすることにある」との見方が根強く残っています。

政府が(ジョブ型正社員)を導入する最終的な狙いは「解雇規制緩和」にある、労働者側がそう考え反対しているのには理由があります。それは「ジョブ型正社員の雇用ルールの整備」が盛り込まれた、「規制改革実施計画(平成25年6月14日閣議決定)」です。

計画書には、「行き過ぎた雇用維持型」から「労働移動支援型」に雇用政策を大転換し、個人が活躍する場を徹底的に探せるように、と明記されています。(行き過ぎた雇用維持型=解雇しにくい)ですから、(解雇しやすい)へ大転換するものと捉えられたのです。

【ご参考】【日本再興戦略について】首相官邸(PDF:1.56MB)

事実、平成25年9月18日に公表された資料には、「解雇ルール(解雇無効判決後の事後的な金銭解決の仕組みなど)について検討する際は、政策目的・政策効果などを踏まえ、諸外国の制度や改革の状況を十分に調査・分析し、多様な働き方の個人の利益も踏まえつつ、慎重に行うこととする」と、一歩踏み込んだ記述が登場しています。

【ご参考】【産業競争力会議「雇用・人材分科会」の今後の検討について】首相官邸(PDF:204KB)

「ジョブ型正社員」の提唱者である濱口桂一郎氏(独立行政法人労働政策研究・研修機構所長)は、次のようにコメントしています。

「第 2 次安倍内閣の下で、矢継ぎ早に創設された規制改革会議や産業競争力会議で企業経営者らが(解雇自由化論)を積極的に打ち上げた後に、それに代わる形でこの(ジョブ型正社員)が持ち出されてきたという経過があり、労組側が不信感を持つことにも理由がある」

「実際、規制改革会議の答申には現れていないが、途中の議事録を見ると、(ジョブ型正社員)であるということを理由にして、仕事がなくなった場合の整理解雇だけでなく、仕事がちゃんとあってもパフォーマンスが悪いという理由で自由に解雇できるようにすべきとの意見が繰り返し表明されている」

「パフォーマンスを理由とする解雇をどうするかは本来(ジョブ型正社員)とは別の論点であり、このような暗黙の意図を持った形で(ジョブ型正社員)が提示されるのであれば、反発するのは当然であろう」

【ご参考】【研究員プロフィール】独立行政法人労働政策研究・研修機構

【ご参考】【濱口桂一郎氏 提出資料】首相官邸(PDF:244KB)

濱口氏は、「不本意に非正規労働者に追いやられてきた若者に、ある程度の安定した収入と雇用を保障する(ジョブ型正社員)を積極的に拡大していくべきである」と提言しました。それと同時に、「仕事がなくなれば整理解雇されることもやむを得ないので、この点をマクロ社会的に支えるために、日本ではこれまで極めて未発達であった外部労働市場メカニズム(労働者が異なる企業間を移動する労働市場メカニズム)を張り巡らせていくことが不可欠となる」とも述べています。

規制改革推進会議は、(行政・農業・医療・介護・投資など)様々な分野について議論する、内閣府設置法に基づいて設置された公的機関です。賛否や利害が対立するような議題では、当事者不在のまま少々乱暴に議論されているのではと感じることもあります。

【ご参考】【労基署業務の一部民間委託を提言へ 規制改革会議】

「多様な働き方」は、「仕事がなくなれば解雇されても仕方がない働き方」でもあります。
「多様な」「活躍」などの美辞麗句を並べるばかりで、失業や再就職についての議論をおろそかにしてしまっては本末転倒です。「(ジョブ型正社員)制度を導入すると、解雇しやすくなる」一面があることを認め、課題から逃げず、仕事に就きやすくなるための議論を同時に進めるべきでしょう。

「不本意ながら非正規ではたらいている若者を救済したい」
「長期的な雇用保障と引き替えに無限定的な労働を若者に押しつける、ブラック企業の原因である現在の正社員制度を見直したい」
そんな、(ジョブ型正社員)を提唱した専門家の思いが置き去りにされることのないよう、規制改革会議で丁寧に取り扱われることに期待します。

出典元:時事通信・内閣府・厚生労働省・首相官邸・独立行政法人労働政策研究・研修機構