【ILO(国際労働機関)との協力に関する覚書に署名】

2017年5月11日
厚生労働省

5月11日(木)、塩崎厚生労働大臣は、ガイ・ライダーILO(国際労働機関)事務局長と「日本国厚生労働省と国際労働機関との間の協力覚書」の署名を行いました。

本覚書により、(1)年次戦略協議を東京又はジュネーブで交互に実施すること、(2)ILOにおける日本人職員の積極的な採用及び昇進について両者で協議すること、(3)「労働の未来」に関する議論等の促進について協力することを厚生労働省とILOとの間で確認しました。

【ご参考】【日本国厚生労働省と国際労働機関との間の協力覚書(日本語仮訳)】厚生労働省(PDF:88KB)

ユニオンからコメント

厚生労働省がILOと覚書を交わしたというニュースです。

覚書に書かれた目的を言い換えると、「国連で採決された【2030 アジェンダ】【SDGs】に【全ての人々の完全かつ生産的な雇用及びディーセント・ワークの促進】が書かれた」、「これは、これまでのILOの取り組みそのもので、改めて重要性が確認された」、「日本政府も【SDGs 推進本部】を立ち上げ、SDGs 実施を推進していくこと約束した」、「だから日本と ILO の協力関係をより強固にしよう」と迫る内容です。

【ご参考】【SDGsへの取り組み「日本企業これから」】

さらに、「ILO がこれから議論を深めようとしている【労働の未来】は、日本の【働き方の未来2035】の議論と、立場や方向が同じである」と書かれています。

【ご参考】【働き方の未来2035】厚生労働省(PDF:368KB)

これまでユニオンで取り上げてきたニュースには、(ILO)や(国連)という言葉がよく登場します。労基署業務の民間委託が話し合われている場でも、委員から「日本の雇用者当たりの監督官の比率が(ILOの基準)を著しく下回っていて、極端な監督官不足にある」との指摘がありました。

ユニオンでは、「労働は商品ではない」と宣言するILOの重要条約に日本が批准していない事実を紹介しています。

【ご参考】【教えて!働き方改革】

また、国連が以前から日本の過労死や過労自殺を問題視していて、なかなか労働環境が改善しないことにいら立ち、条約違反を勧告したこともあると紹介しました。

【ご参考】【残業上限「100時間未満」】

つまり、安倍政権が進めている「働き方改革」は、日本だけの問題ではなく、ILOや国連など世界が関心を持って経過を見守っているということです。

【同一労働同一賃金 実現に向け議論開始】

同じ内容の仕事に対して同じ水準の賃金を支払う、同一労働同一賃金の実現に向けて、厚生労働省の審議会で28日から具体的な議論が始まりました。同一労働同一賃金をめぐっては、正社員と非正規労働者の間の不合理な賃金格差をなくすため、政府は去年示したガイドラインの案を基に必要な法律を改正する方針で、28日に労使が参加する厚生労働省の審議会で法案の策定に向けた議論が行われました。
経営側の委員からは、「定年退職後に再雇用された社員も同じように扱うのは疑問だ」という意見や、「待遇に差をつける場合、労働者に理由を説明する義務を課されれば、労務担当者が不足している中小企業には負担が大きい」といった意見が出されました。
これに対して労働側の委員は、「比較の対象となる正社員を明確にし、企業が理由を説明すべきだ」と反論しました。(2017年4月28日 NHK)

ILOが提唱する「同一価値労働同一賃金」の原則は、「仕事が違っても、その価値が同じであれば同じ賃金を支払うべきだ」という考え方です。特に、「女性の仕事は安くてもいい」というような偏見を根絶させるため、ガイドブックを作成し、具体的な評価法や是正策を提示しています。

【ご参考】【同一価値労働・同一報酬のためのガイドブック】ILO駐日事務所(PDF:1.8MB)

待遇に差をつけることを前提に、その根拠を作り出そうとしている現在の議論は、ILOの理念と本質が微妙にずれている印象を受けます。非正規ではたらいている女性の実情は、ILOが懸念する実態そのものに近いようです。

【シングルマザー年収223万円の現実】

母子世帯の母親の平均年収は223万円で、シングルマザーの多くが貧困状態です。
母子世帯の母親の8割が就業していますが、「正規の職員・従業員」は約4割で、「パート・アルバイト」「派遣社員」などの非正規雇用が5割を超えています(2011年度全国母子世帯調査)。経済学者の遠藤公嗣さんは、正規雇用の賃金が高く、非正規雇用の賃金が安いのは、「男性が外で稼ぎ、女性は家事・育児」という性別役割分業と関係しているからだと指摘しています。家族を養うのは正社員の夫であって、パート主婦は家計を補助するために働いているので、賃金は低くてもかまわないと考えられてきました。しかし今では、シングルマザーを含め、家族を養わなければならない非正規雇用者が増えています。
女性が1人で子育てをしながら、残業のある正社員として働き続けることは困難です。子どもの世話のために早く帰れる非正規雇用で働かざるを得ず、賃金の低さから貧困に陥りやすいといえます。非正規の賃金はヨーロッパでは正規の8割程度です。これに対し日本では6割程度と低くなっています。この不平等な状態を変えるため、野党は「同一価値労働同一賃金」原則の導入を提案しています。「同一価値」の原則がなぜ重要なのでしょうか。その理由の一つは、男性と女性では異なる職につく傾向があり、介護士など女性が多く就いている仕事は過小評価され、賃金が低い傾向にあることです。働き方改革で示された「同一労働同一賃金」を実現するため、「実行計画」は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消を目指すとしています。しかし、そのガイドライン案に実効性はあるのか、非正規雇用の女性の貧困問題を解決するには不十分ではないか、という声もあがっています。「欧州諸国に遜色のない水準を」と提言するならば、相応の覚悟で実現してほしいものです。(2017年4月22日 毎日新聞)

【働き方改革 安倍政権に騙されるな!】

これまで安倍政権が主張してきたこと、やってきたことを振り返ろう。
第1次安倍政権では、小泉政権の後を受け、より労働の規制緩和を進めるとして「労働ビッグバン」をぶち上げた。宇宙が始まる時にあったとされる「ビッグバン」(大爆発)を労働政策の分野で起こすというわけだ。
大げさな言葉を用いるのはこの政権の特徴で、第2次安倍政権では、労働分野などの規制改革を「岩盤規制にドリルで穴を開ける」とぶち上げた。ちなみに岩盤規制といわれる規制は、1日8時間、週40時間の労働時間規制など、労働者を守る規制である。
筆者は、安倍政権が「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指す」を掲げ、労働時間や解雇規制の緩和を目指した「雇用特区」の創設を打ち出した時から、「フィラデルフィア宣言の破壊を志向しているのでは」と批判してきた。
フィラデルフィア宣言とは、1944年5月10日に国際労働機関(ILO)が、その根本原則を確認した宣言として知られる。中心をなすのは、「労働は商品ではない」や「表現及び結社の自由は不断の進歩のために欠くことができない」など四つの原則だ。その中でも「労働は商品ではない」が危機に瀕している。
それは、これから始まる労働力不足が深刻なことが背景にある。人材会社の試算によると、2025年には583万人の労働力不足が生じるとしている。こんな状況では経済成長など期待するべくもない。不足を補うためには女性労働者を増やし(350万人の供給増)、高齢者には70歳まで働いてもらう(167万人増)、生産性の向上、外国人労働者の増加などで補う必要があるという。状況は逼迫(ひっぱく)している。そんな中で、現状のような長時間過重労働、非正規労働者の低い処遇が、働くことのモデルになっているような労働の在り方を改めなければ、女性や高齢者の労働市場への参入が見込めないからだ。しかし、急きょ、言い始めたそれらの施策は功を奏するのか。同一労働同一賃金の実現に向けたガイドライン(指針)は、非正規であることを理由とした「不合理な待遇差を認めない」ことを基本に据えた。だが、賃金の骨格となる基本給では「能力、経験が正社員と同一なら同一の支給を、違うなら違いに応じた支給」を基準として示し、同じ仕事でも賃金差を認めるとした。賃金差が生じる場合、その理由を労働者に説明する義務を雇い主に負わせていないことから、効果を疑問視する声も多い。(2017年1月31日 サンデー毎日)

ILOは「全ての人にディーセント・ワークを」を理念に掲げます。ディーセント・ワークとは「働きがいのある人間らしい仕事」のことです。国連で採択された【2030アジェンダ】は「誰一人取り残さない」を基本理念とし、若者・障害者・高齢者などへの均等な取り組みを加盟国に求め、【SDGs】は「所得下位40%の人々に所得の伸びを実現」「国内の不平等を減らす」「安全で働きがいのある仕事の提供」を求めています。

労働には「世界標準のルール」が存在します。もちろん国ごとに事情が違いますが、これから議論される(働き方改革)の各テーマでは、時に立ち止まったり振り返ったりしながら世界標準に近づける努力も必要です。「協力の結びつきを強化する」ためILOと交わした覚書を違えることがないよう、世界の常識に見合った改革が実現することを期待します。

出典元:厚生労働省・NHK・ILO駐日事務所・毎日新聞・サンデー毎日