【障害者への賃金、7割が助成金頼み 就労事業所】

2018年3月15日
朝日新聞

障害者が働きながら技能を身につける「就労継続支援A型事業所」の約7割が、事業活動の利益だけでは利用者の賃金をまかなえず、国や自治体から受けとる運営費や助成金で補っていることが分かった。公費は原則賃金に回せず、厚生労働省はこうした事業所に昨春から経営改善計画書の提出を義務づけ、原則1年以内の改善を求めている。

■障害者の事業所、相次ぐ閉鎖 背景に「助成金頼み」?

厚労省が14日、A型事業所のうち2016年度の経営状況が把握できた3036カ所を調べた結果を公表した。71%が経営改善計画書の提出が必要な状態で、そのうち82%が昨年末までに提出した。

A型事業所には作業所を借りたり支援員を雇ったりする運営費として、国と自治体が利用者1人あたり平均月12万円を払っている。ハローワークなどを通じて障害者を雇うと、3年間で1人あたり最大240万円の助成金もでる。だが、障害者に短時間の仕事しかさせず、運営費などでもうける不適切な事業所があるとして調査した。

ユニオンからコメント

厚生労働省が、就労継続支援A型事業所「経営状況・経営改善計画書の提出状況」の調査結果を公表しました。

【ご参考】【就労継続支援A型事業所の経営改善計画書の提出状況等を公表します】厚生労働省

【ご参考】【指定就労継続支援A型における経営改善計画書の提出状況】厚生労働省(PDF:116KB)

調査結果によれば、71.0%の事業所が「経営改善計画を提出する必要がある」とされています。つまり、7割以上の事業所に問題があったということになります。2017年4月に厚生労働省が省令を改正したことから、問題のある事業者は経営が立ち行かなくなりました。このような事業者が淘汰され、健全経営されている事業所が増えることを願っています。

【障害者解雇 「しあわせの庭」破産2カ月 続く波紋】

広島県の福山、府中市で障害者就労継続支援A型事業所を運営する一般社団法人「しあわせの庭」が破産し、利用者106人と従業員31人が解雇されて2カ月が過ぎた。県によると、12日までに再就職先を見つけることができた元利用者は44人。元利用者や元従業員が自助グループを作るなど連携を模索する一方、別のA型事業所が新たに福山市からの撤退を表明するなど、波紋は続いている。
■負債2.8億円
しあわせの庭は昨年11月16日、全利用者の解雇を通告。今年1月には、岡山県倉敷市の株式会社「フィル」が、福山市内で運営するA型事業所「しあわせ工房 福山事業所」などの閉鎖を明らかにした。しあわせの庭は昨年12月、広島地裁福山支部に破産を申し立てた。破産手続開始申立書によると、負債は2億8000万円以上。しあわせの庭の10、11月分の未払い賃金については、独立行政法人「労働者健康安全機構」の制度を使い、給与の8割までが支払われる見通しだ。
■情報公開
福山市内のA型事業所(しあわせの庭を除く)は21事業所あり、うち12事業所が昨年12月までに経営改善計画書を提出した。計画書について福山市は、平均月額賃金などとともにホームページで公開している。他の自治体に先駆けた情報公開の取り組みだが、公開された資料には、改善計画期間の年号が重複する記載ミスや、各事業所の経費算出の際に人件費を含めるところとそうでないところが混在するなどばらつきがみられる。「公開はいいことだが、提出された資料をそのまま公開するだけで十分なのか」という福祉関係者の指摘もある。
計画書の内容への疑問を呈する人も。福山小規模作業所連絡会の池田正則会長は「内職仕事の単価を上げる、施設外就労を増やすなどは、(雇用契約に基づく就労が困難な障害者の授産的な活動に工賃を支払う)B型事業所が年額1000円、2000円の工賃アップを目指すものと変わらない。B型と同じ労働内容で最低賃金が出せるわけがない」と首をかしげ、影響の大きさを指摘する。「一連の閉鎖で注意しないといけないのは、利用者の働く意識ではないか。B型と同じ作業内容で最低賃金がもらえた。働いてお金をもらう、人間としての尊厳がゆがめられた人がいるのではないか。フォローには時間が必要だ」。
■主な経緯
2017年4月 厚生労働省が省令改正。A型事業所に対し、障害者福祉サービスの給付金や国の特定求職者雇用開発助成金を賃金に充てることを禁止。
2017年7月 岡山県倉敷市の5事業所で224人が、高松市の2事業所で59人が解雇。
2017年8月 愛知県の2事業所で69人が、埼玉県の2事業所で53人が失職。
2018年1月 岡山、広島両県でA型事業所を運営する「フィル」(倉敷市)が「しあわせ工房 福山事業所」を含む3事業所の閉鎖方針を発表。(2018年1月21日 毎日新聞)

【<放り出された障害者>「もうかる」安易な参入】

本業のもうけを増やす努力をせずに、国の給付金や助成金で会社を運営する―。
名古屋市北区の就労継続支援A型事業所「パドマ」の利用者だった精神障害がある男性(62)にとって、それは以前、市内の別のA型で見たのと同じだった。男性は元々、名古屋市内の会社で働いていたが、上司の言動からうつ病になり、53歳で退職。就労支援施設などを経てそのA型に就職した。社長に「マッサージの事業をする」と言われ、一日中、机の上にタオルをしいて指圧の練習をした。しかし、にわか事業は計画倒れ。梅干し、らっきょう作りも始めたが「塩辛くて食べられなかった」。
社長はコンサルタント業も始め、経営者向けの雑誌に広告を載せた。そこには、こんな文句があった。「国の給付金等で(中略)潰(つぶ)れることのない経営」「年間3千万円以上の利益も狙えます」。A型を「もうかる事業」と宣伝していた。
男性が違和感を募らせたのとは裏腹に、この広告への反応は上々。事業拡大を図る異業種の会社からの問い合わせが相次いだ。
厚生労働省によると、A型は2013年4月に全国約1600カ所だったのが、今年4月には約3600カ所と倍以上に増えた。この背景には、A型を障害者が働く場というよりも、もうけ話と捉えて参入する事業者が多かったという指摘もある。障害者向け作業所の組織「きょうされん」愛知支部事務局長大野健志さん(46)は「利用者は仕事をするのではなく、折り紙をして勤務時間が終わるのを待つだけのところもあった」と話す。
厚労省が3月、A型への指導強化を地方自治体に通知したのは、こうした実態を受けての措置だった。運営に問題があった事業者は、自治体を通じて「経営改善計画書」を提出し、立て直しを急いでいる。
ただ、改善する意欲に乏しい経営者もいる。10月末で閉鎖した東海地方のA型で管理者をしていた男性は「運営会社の社長が、計画書の『どのような改善をするか』の欄を埋められなかった」と、閉鎖した理由を説明する。男性によると、運営会社は元々、福祉とは無関係のリサイクル業だった。社長がA型を営む同業の知人に「助成金があり、もうかる」と勧められ、3年前に参入した。運営会社からの下請け仕事と内職をしていたが、利用者に最低賃金を払うと赤字。男性が社長に迫っても、改善されなかった。それでも続けられたのは「給付金などがあったから。それらがあって初めて成り立っていた」。
「悪しきA型」が広がった状況での厳格化を、冒頭の男性は心配する。「こうなってからA型の首を絞めても、解雇される利用者がつらいだけ。経営者は、給付金に頼らずに給料を払う方法を持っていないのだから」(2017年11月17日 東京新聞)

出典元:朝日新聞・厚生労働省・毎日新聞・東京新聞