【精神障害者、雇いやすくする特例措置 厚労省、来春から】

2017年12月23日
朝日新聞

厚生労働省は22日、企業が精神障害者を雇用しやすくする特例措置を来年4月から設けることを決めた。身体障害者や知的障害者に比べ、職場に定着しにくい精神障害者の働き口を確保しやすくする狙い。

従業員のうち一定割合以上の障害者の雇用を事業主に義務づける法定雇用率は現在2.0%。来年4月から身体障害者と知的障害者に加え、精神障害者の雇用も義務化されることに伴い、2.2%に引き上げられる。

法定雇用率は原則として、週30時間以上働く障害者は1人、週20時間以上30時間未満働く障害者は0.5人に換算して算出される。来年4月以降は精神障害者に限り、週20時間以上30時間未満の労働でも雇用開始から3年以内か、精神障害者保健福祉手帳を取得して3年以内の人は1人と数えることにし、精神障害者の雇用を促す。5年間の時限措置とする。こうした厚労省の案がこの日の労働政策審議会の分科会で示され、妥当と認められた。

精神障害者は短時間労働でないと仕事が長続きしない人が少なくない。厚労省幹部は「事業主が精神障害者を雇うハードルを下げて、働き口を増やしたい」と話す。

ユニオンからコメント

2017年12月22日に開催された「第74回労働政策審議会障害者雇用分科会」で、2018年4月1日から「精神障害者に限り週20時間の短時間労働でも雇用率を1人としてカウントする」ことが決まったというニュースです。

【ご参考】【障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則の一部を改正する省令について】厚生労働省(PDF:388KB)

2017年5月30日に開催された「第73回労働政策審議会障害者雇用分科会」からおよそ6カ月間、何一つ議論されないなか唐突に決定した感のある特例措置です。同措置は、2018年4月1日から施行され、5年間という期限が設けられました。

2016年12月13日に経団連が公表した提言書の「(2)新たに導入すべき方策」には、「2018 年4月以降の法定雇用率の引上げに当たり、以下の方策を早期に導入することが求められる」として、「《Ⅲ》合理的配慮が普及し、働き方の選択肢や雇用機会が一層拡大するように重複カウント制度を拡充する」「②症状が安定しない精神障害者は、短時間勤務に柔軟に移行することで休職・離職を避けたり、短時間勤務であれば働く機会が拡大したりすることが期待されるため、短時間勤務でもシングルカウントにすべきである」と書かれていました。

【ご参考】【障害者雇用率の見直しに向けて ~分け隔てない共生社会の実現~】日本経済団体連合会(PDF:476KB)

厚生労働省が経団連の提言をそのまま特例措置に盛り込んだようにも見えます。つまり、水面下で何らかの動きがあって、経団連の「ギブアップ宣言」に、国が「合理的配慮」を提供していたのでしょう。本来、「合理的配慮」が提供されるべきは障害者なのですが、今回はその原則が無視されてしまいました。

実は、2018年4月からの精神障害者雇用義務、それに伴う雇用率アップは2013年に既に決定しています。ところが、それからの5年間に「誰もが見て見ぬふり」をしてきたので、慌ててその場しのぎの施策が打ち出されたようです。本来であれば、専門家の英知や実践的なアイデアが出され、丁寧な議論を尽くすべき分科会ですが、改正法施行直前になって「時間稼ぎ」という荒業しか出せなかったようです。

今回の特例措置を説明するときに使われる「雇用しやすく」は、精神障害者を「1人の人間として扱わない」と言い換えることができます。企業が雇用率を達成しやすくするためだけの視点で検討された結果、はたらいた収入だけでは生活できない精神障害者を増やしてしまうことにもつながりかねません。

もちろん雇用の門戸が開くという意味では歓迎すべき制度です。多くの精神障害者が就労することで、偏見や誤解が減り、職場の理解が進むことには期待が持てます。また、5年間の時限措置ということですから、雇用率の「激変緩和措置」残り5年間と並んで、企業が本気で取り組むきっかけになってくれればとの思いも強くしています。

懸念されるのは、「週30時間以上働ける人が2人」としてカウントされる訳ではありませんから、企業がコストや手間を考え「週20時間だけの労働契約」ではたらく精神障害者ばかりになってしまわないかということです。特例措置であれば、「週10時間の人を0.5人、週30時間以上なら2人」にすることもできたはずです。

いずれにしても、雇用率2%から2.2%(2021年までに2.3%)への対応を、短時間就労の精神障害者で「急場しのぎ」した会社であれば、2023年には採用した人と同数を雇用するか、週30時間以上はたらいてもらわなければ雇用率の計算が合わなくなってしまいます。さらに、2023年に「激変緩和措置」も終了しますので、雇用率2.6%以上と想定されている事態にも対応を迫られるでしょう。

2023年、どれだけの会社がこうした事態に対処出来るのでしょうか。1つだけ確かなことは、この5年間に課題から目を逸らさず正面から向き合い、適切な対応への試行錯誤をした会社だけが世界のマーケットから投資対象になる時代が訪れるだろうということです。SDGsやESG投資とは、そういうことでもあるのです。

【ご参考】【経団連、国連の開発目標実現へ】

「苦し紛れの施策だったが、思いがけない効果を生んだ」。
そんな「いい意味での期待外れ」が起きてくれることに期待しています。

出典元:朝日新聞・厚生労働省・日本経済団体連合会