【全世代型社会保障に転換を=所得格差の拡大踏まえ】

2017年10月24日
時事通信

厚生労働省は24日の閣議に、2017年版厚生労働白書を報告した。

所得の世代間格差が広がっていると分析し、「現役世代の所得向上支援や全世代型の社会保障への転換が必要だ」と指摘した。

白書は、国民生活基礎調査の家計所得データを利用し、1994~2014年の国民所得の推移を分析。世帯主40歳代の家庭で所得300万円未満の割合が増加する一方、65歳以上の高齢者世帯は100万円未満が減少し、200万~500万円の中所得層が増えている現状を紹介した。

40歳代世帯の所得低下は、未婚や離婚などを原因とするシングルやひとり親家庭の増加が背景にあると指摘。
また、高齢者世帯の所得増は主に年金制度の充実が背景にあるとの見方を示した。
白書はこうした状況を踏まえ、「あらゆる世代が負担を分かち合い、恩恵を感じられる社会保障にすることが重要だ」と強調した。

ユニオンからコメント

厚生労働省が「平成29年版厚生労働白書」を公表したというニュースです。

【ご参考】【平成29年版厚生労働白書(概要版)】厚生労働省(PDF:2.05MB)

白書は、高齢者世帯では所得格差が縮小しているのに対し、現役世代では低所得の割合が膨らんでいると指摘しています。課題として、「高齢者に偏らない全世代型の社会保障への転換」を挙げています。

具体的には、世帯主が40代の現役世代で300万円未満の低所得世帯の割合が、1994年は全体の11.2%でしたが、20年間で5.4ポイント増加し16.6%になりました。
一方で、65歳以上の高齢者世帯では100万円未満の割合が減少し、200万円以上500万円未満の中間所得が約6ポイント増加して、48.2%になっています。

この世代間格差について、概要版P.6「第2章 国民生活と社会保障 第1節 家計所得の動向(2)」では、「ジニ係数」をグラフにして説明しています。

「ジニ係数」は、0から1の範囲で示され、数値が大きいほど格差が大きい状態であるとしています。ジニ係数が「0」である状態は、すべての人の所得が均一で、格差がまったくない状態を表します。逆にジニ係数が「1」であれば、たった1人が集団のすべての所得を一人占めしている状態を表します。社会騒乱が多発する警戒ラインは「0.4」とされています。

ジニ係数は、不平等を示す数値ですが解釈は単純ではありません。例えば、高齢者が増加すると無職・無所得の世帯が増加するのでジニ係数が高くなりますが、イコール不平等が高まったと解釈することには様々な議論があります。「厚生労働白書(完全版)」のP.27~P.35【第3節 「分配」と「成長」の関係】で詳しく解説されていますが、賛成論や反対論のどちらも掲載しているので参考になります。

【ご参考】【平成29年版厚生労働白書】厚生労働省

白書のP.28には「アトキンソンの指摘」として、格差解消のためには給料を引き上げ、最低賃金以上の支払いが通常に行われるルールを作るといった主張が掲載されています。

不平等研究の大家である英国の経済学者アンソニー・アトキンソンは、「21世紀の不平等」(2015(平成27)年)の中で、ヨーロッパでは第2次世界大戦後の数十年間に格差が縮小し、1980年代以降、格差が拡大に転じたとしている。
その理由として、1970年代まで格差の縮小を説明してきた要素(①再分配政策(社会保障制度と累進課税)の拡大、②国民所得に占める賃金のシェアの増大と資本のシェアの縮小、③個人資産の集中の減少、④団体交渉や最低賃金の引上げによる収入の散らばりの縮小)が逆転した、あるいは終わったことにあるとしている。
そして、格差を縮小するため、社会保険制度を刷新し、給付水準を引き上げ、支払範囲を拡大すべきことや、最低賃金以上の報酬慣行規範をつくることなどを主張した。

様々なデータを引用していて網羅している範囲が広いので、とても分量が多い「厚生労働白書」ですが、例えばP.132~P.145には非正規労働や同一労働同一賃金、障害者の就労について詳しく書かれています。時間があるときにぜひ目を通してみてください。あらゆる分野の現状に触れることが出来ます。

出典元:時事通信・厚生労働省