【<精神保健福祉法>改正案が廃案に 相模原事件受け政府提出】

2017年9月28日
毎日新聞

衆院が28日、解散されたことで、昨年7月に起きた相模原市の障害者施設殺傷事件を受け、措置入院患者への支援強化を盛り込んだ精神保健福祉法改正案が廃案になった。

厚生労働省は改正案の再提出を検討しているが、野党や障害者団体から改正案への批判が上がっており、衆院選の結果次第では内容が大幅に変わる可能性も出ている。

改正案は、相模原事件を受けて厚労省に設置された有識者検討チームがまとめた報告を踏まえ、今年2月に通常国会に提出された。

殺人罪などで起訴された植松聖被告(27)は事件前、措置入院していたが、退院後、行政などから十分な支援を受けていなかったとする指摘を踏まえ、改正案は措置入院した患者が退院後も継続的な支援を受け、社会復帰できるよう、関係自治体や医療機関、警察などが連携する仕組みを設けることを柱とした。

しかし野党や障害者団体は「監視強化につながる」と反発。5月に参院は通過したものの衆院は審議入りもできずに継続審議となっていた。

ユニオンからコメント

衆議院の解散によって精神保健福祉法の改正案が廃案になったというニュースです。

最大の国難ともいえる過労死や格差問題の解消を目指す、「働き方改革」の進行を遅らせてまで強行された国会解散は、あらゆる余波や混乱を伴います。精神保健福祉法の改正については、成熟した議論を待たず、ただ「重大事件の再発を防止せよ」との掛け声で強引に進められた感がありましたので、むしろ廃案は歓迎すべきことかもしれません。

記事に書かれた「有識者検討チームがまとめた報告書」についてはユニオンでも紹介していますが、有識者が集まって出された結論は「措置入院の解除後の継続支援」「退院後の支援計画」であり、言い換えると「何をするかわからないからずっと見張っている。問題のある精神障害者の個人情報なんて関係ない」という内容でした。

【ご参考】【〈相模原殺傷〉厚労省主導に限界・・・最終報告】

事件の再発防止を願うのは誰もが同じ思いです。しかし、あらゆる角度から丁寧に議論されなければ、「危ない精神障害者は入院させておけ」くらいしか再発防止策が出されません。再発防止のため「隔離してしまう」法改正、繰り返される「病名の報道」に、人権への懸念や反発を抱く人がいるのは当然です。

【熊谷6人殺害ペルー人被告は精神疾患】

埼玉県熊谷市で2015年9月に6人が殺害された事件で、強盗殺人罪などで起訴されたペルー国籍の被告について、さいたま地裁が行った精神鑑定で、精神疾患があるとの鑑定結果が出ていたことが12日、関係者への取材で分かった。
関係者によると、先月までに地裁に提出された鑑定結果では、事件時に被告は統合失調症を発症しており「統合失調症に基づく妄想に支配され、犯行を実行した」などと診断されたという。(2017年9月13日 毎日新聞)

【埼玉少女誘拐の判決延期 「私は妖精」被告、法廷で奇声】

埼玉県朝霞市で中学1年だった少女を誘拐し、2年余り監禁したなどとして未成年者誘拐や監禁致傷などの罪に問われた被告の判決公判が29日、さいたま地裁で予定されていたが、被告がつじつまの合わない発言を繰り返し、裁判長は判決の言い渡しを延期した。
公判では被告の刑事責任能力が争点になり、地裁による鑑定では発達障害の一種である自閉スペクトラム症の傾向があったとされた。弁護側は、地裁とは別の精神科医の診断をもとに「統合失調症で責任能力が限定される状態だった」などと減刑を求めていた。被告はこの日、午前10時半の開廷時刻に奇声をあげて法廷に入り、裁判長から名前や年齢などを聞かれると「私は森の妖精でございます」などと返答。(2017年8月29日 朝日新聞)

無罪や減刑を勝ち取るための法廷戦術であれば許されざる行為ですが、このような報道のされ方に苦しむ人は少なくありません。同じ病名・病気の人にとっては、「自分も同じように見られないか」と恐怖すら覚えるような報道です。再発防止が目的であるなら、精神保健福祉法の改正だけでなく、報道のあり方や、精神科病棟の実態など、置き去りにしてはいけない課題が多く残っているはずです。

【精神科病院での拘束件数、10年で倍増】

厚生労働省の調査によると、精神科のある病院に入院する患者数は減少傾向にあるものの、身体拘束を受けている患者数は2014年6月30日時点で1万682人に上り、10年前の5242人から約2倍に急増しています。拘束される患者の数だけでなく、患者1人あたりの拘束時間も問題です。2015年に国内の11病院に実施した調査では、調査日に身体拘束を受けていた記録のある患者数は245人。いつから拘束されているかを遡って調べたところ、平均の日数は96日。拘束の方法は不明ですが、最も長い人は1096日にも及んでいました。
2009年に発表された日本の論文によると、海外の精神科病院で患者1人あたりの平均拘束時間は、スイス48.7時間、フィンランドとドイツが9.6時間、米カリフォルニア州4時間との報告がありました。日本で患者さんやご家族の話を伺うと、同じような状態で入院しても病院によって対応が違うようで、すべての病院が長時間の身体拘束をしているとは限りません。ただ、「暴れそうだから」「暴れるかもしれないから」拘束されたという話も聞きます。この「かもしれない」という理由での「予防的な拘束」が日本では多いのではないかとみています。(2017年8月31日 読売新聞)

精神保健福祉法改正法を廃案にさせた国会の解散ですが、安倍首相は「国難突破解散」と名付けました。安倍首相の考える「国難」は、「北朝鮮問題」と「少子高齢化問題」の2つのようです。

国難とは、多くの国民が同意した「あるべき国の姿」があって、それが脅かされるような状態をいうのが普通です。あるべき姿がなければ、そもそも国難は存在しようがありません。「少子高齢化」を国難と呼ぶなら、理想の国家が「多子若年化」でなければならないということですが、そんな言葉は誰も聞いたことがありません。安倍首相も、つい先日「人生100年時代」と言ったばかりです。また、政治はゲームやスマホをいじっている訳ではありませんから「リセット」もできません。国の将来やあるべき姿を明確に丁寧に示し、多くの国民から同意を得て、地道な検証を重ね1つづつ「リスタート」させていくしかないのです。

政治家を目指す人に求められているのは、「滅私奉公」の心構えで国民のためにいかに尽くせるかだといえます。本当の国難は、国会議員から地方議員に至るまで、高い志ではなく高い収入を求める目立ちたがりの人が増えてしまった現状に潜んでいるのかもしれません。選挙が終わったあと、「国難去って、また国難」にならないことを願うばかりです。

出典元:毎日新聞・朝日新聞・読売新聞