【変わる目玉、変わらぬ財源問題 人生100年会議、初会合】

2017年9月12日
朝日新聞

安倍晋三首相が改造内閣の目玉として打ち出した「人づくり革命」。
その具体策を話し合う有識者会議が11日、初会合を開いた。「みんなにチャンス!」から「人生100年時代」に旗印を変えて、教育や社会保障の制度を抜本的に見直す壮大な構想だが、問題はやはり財源だ。

安倍首相は「人生100年時代構想会議」のあいさつで、「人生100年時代を見据えた『人づくり革命』は、安倍内閣が目指す1億総活躍社会をつくり上げるうえでの本丸であり、安倍内閣の最大のテーマだ」と強調した。

メンバーは、近著で新しい人生設計について論じたリンダ・グラットン英ロンドン・ビジネススクール教授、ITシステム開発の企業を経営する大学生ら19~82歳の13人。
グラットン氏は会合後、「私たちはもっと健康的に年老いていくことについて考えないといけない」と記者団に語った。

論点は、教育無償化などの拡充▽高等教育改革▽企業の人材採用の見直し▽全世代型社会保障への改革の四つ。年内に中間報告、来年6月をめどに最終報告をまとめ、約3年間で政策の詳細を詰める算段を描く。

首相は6月の記者会見では構想会議の名称について「みんなにチャンス!」と表明。当初は若者支援に軸足を置いていた。その後、改造で入閣した茂木敏充人づくり革命担当相と首相との間で「超長寿社会の時代を迎え、世界に先駆けて新しい生き方のモデルを構築する」と決め、会議名も「人生100年時代」に変更した。

安倍政権は2014年以降、「地方創生」「1億総活躍」「働き方改革」と毎年のように新たな名前で看板政策を打ち出してきたが、いずれも道半ば。今回はさらに壮大で、教育無償化一つとっても、実現が難しいテーマが並んでいる。

■保育の無償化、年7千億円超

たとえば幼児教育や保育を無償化するには、対象を3~5歳児に絞っても年間7千億円超かかる。仮に大学など高等教育の無償化にまで踏み込めば、さらに年3兆7千億円の財源が必要との試算がある。

幼児教育や保育の財源としては、増税や、自民党の小泉進次郎氏ら若手が提案した「こども保険」のように社会保険料率を引き上げることも検討する。しかし、新たな負担増には世論の反発も予想され、「こども保険」も現役世代に負担が偏ることへの批判がある。

そもそも幼児教育や保育の無償化を議論するよりも前に、保育所を増やし、待機児童問題を解決することが先だとの意見も政府内にはある。

高等教育の負担軽減策としては、返済がいらない給付型奨学金の拡充や、在学時の授業料を無料にする代わりに卒業後に所得に応じてお金を返してもらう「出世払い」制度の導入を検討する。

十分な財源が確保できなければ政策は小粒になり、かけ声倒れに終わりかねない。茂木担当相はこの日、朝日新聞の単独インタビューで「どれぐらいの財源が必要か、どう確保するか、しっかり検討したい」と強調したが、調整は難航が予想される。

ユニオンからコメント

安倍首相が唐突に言い出した「人づくり革命」について、具体策を話し合う有識者会議が開催されたというニュースです。

【ご参考】【人生100年時代構想会議】首相官邸

これまで「地方創生」「女性活躍」「1億総活躍」「働き方改革」と続いた政策についての検証がされないまま、今度は「人づくり革命」にのめり込むようです。既に、「バラ撒き」にも見えてしまう減税については、周到に準備されています。

【18年度税制改正要望 「人づくり」など政権後押し】

2018年度税制改正要望が31日、出そろった。「人づくり革命」や「働き方改革」「生産性向上」など安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の主要政策を後押しする施策が目立つ。経済産業省は、人材育成や生産性向上のため、社員教育に積極的に取り組んだ企業の法人税を軽減する措置を求めた。社員の留学や研修、資格取得などにかかった費用の一部を法人税から控除する。企業の生産性を高め、人手不足の解消につなげる狙いだ。働き方改革関連では、仕事と育児の両立を支援するため、内閣府や厚生労働省は事業所内保育所を設置する企業に対する法人税や所得税の軽減措置などを盛り込んだ。積極的に設置に取り組む企業に対しては、優遇措置の拡大も検討する。(2017年9月1日 産経新聞)

安倍政権が掲げる政策について、身内からも批判の声が聞こえるようになりました。『「改善」や「改革」に過ぎないことを「革命」と呼び、ワンフレーズをはやらせようとしているだけではないか。そろそろポエム化した政治を終わらせるべき』と酷評する専門家もいます。「人づくり革命」も現実離れした議論と新たな利権ビジネスを産みだす程度で終わってしまうのでしょう。

【日銀緩和「そら恐ろしい」 出口を不安視】

野田聖子総務相は30日、BS朝日の番組収録で「日銀がやっている異次元(金融緩和)の出口はどこかというと正直、そら恐ろしい」と述べ、国債を大量購入してきた金融政策の今後に不安があると指摘した。経済への混乱を引き起こさずに政策を平時に戻す「出口戦略」の説明が必要だとの持論も強調した。異次元緩和は安倍政権の経済政策の支柱で、閣僚から否定的な発言が出るのは異例。(2017年8月30日 毎日新聞)

【<アベノミクス>浜田氏「インフレ目標1%でも」の仰天発言】

日銀の異次元緩和もむなしく、インフレ目標の2%は遠い。安倍晋三政権の政策ブレーンである浜田宏一・内閣官房参与はこの状況をどう見るか。アベノミクスに関するシンポジウムで浜田氏からビックリ発言が飛び出した。
アベノミクスの効果や問題点を考えようと、神戸大学主催のシンポジウム「アベノミクス再考:グローバル日本の金融・財政政策」が8月8日開かれ、安倍政権の経済政策のブレーンである浜田宏一・内閣官房参与(米エール大学名誉教授)とアベノミクスに懐疑的な元日銀金融研究所長の高橋亘・大阪経済大学教授が激突した。
浜田、高橋氏の直接対談では、「必ずしもインフレ率2%にこだわる必要がないのではないか」という高橋氏の指摘に対し、浜田氏は「インフレは我々にとっていいことではない。雇用がよければインフレ率は低くてもいいのでは。(エネルギーや食料品を除いた)『コアコア』の物価指数で、場合によっては1%(の目標)でもいいかもしれない」と2%にこだわらない考えを表明。日銀が目標としてきた根幹が揺らぎかねず、アベノミクスに転機が訪れていることを示唆した。(2017年8月24日 毎日新聞)

革命とは「被支配階級が時の支配階級を倒して政治権力を握り、政治・経済・社会体制を根本的に変革すること」をいいます。フランス革命(1789年~1799年)や文化大革命(1966年~1976年)などが代表的です。

つまり、革命とは現在の体制をひっくり返して、権力者を引きずり下ろすということです。ところが、安倍政権の閣僚や国会議員を見ると、驚くほど2世3世議員が多いのが現実です。よほど「うまい汁を吸える」のでしょう、既得権益や家業を継ぐように議員になっている人たちばかりともいえます。本来の使い方をするなら、「革命」とは権力の座にある彼らが嫌うはずの言葉です。

その権力の座にある側の安倍政権が「革命」という音葉を使う以上、「ひっくり返したい何か」があるのでしょう。そして、引きずり下ろす対象は私たち一般国民になっているはずです。今の日本が平和だと感じている人にとって、安倍政権が行う「革命」はその思いをひっくり返してしまう脅威になるかもしれません。

「ひっくり返したい何か」は、人生100年時代構想会議で具体策として掲げられた4つの項目に隠されているのかもしれません。人生100年時代には、将来の年金デフォルト(債務不履行)や社会保障制度の破たん(民営化)が潜んでいないか。高等教育の無償化には、教育の自由を制限して教育勅語の復活や徴兵制度の緩やかな導入への思惑が隠れていないか。財源がない中、教育・社会保障制度を根本的に変革させる議論を始めるのですから、そんな懸念を抱かれても仕方ないでしょう。

野党の混乱や北朝鮮問題が騒がれている今なら、数々のスキャンダルが風化する「勝てる」絶好の機会と捉え、間もなく解散総選挙が行われるかもしれません。そのとき、私たちは投票所に行くことができます。支持率ではなく投票率を上げることが、時の政府に説明責任を真摯に果たさせることにつながります。誰に投票するかも大切ですが、投票に行くことそのものに大きな価値があります。

「人づくり革命」のテーマには「企業の人材採用の見直し」が掲げられています。会議のメンバーとして神津連合会長が参加していますから、労働分野に関することも話し合われていくのでしょう。「新卒一括採用をやめろ」が「年功序列の完全廃止」に変わり、「労働者の総非正規化」にならないよう、連合の頑張りに改めて期待しています。

【ご参考】【神津里季生議員提出資料】首相官邸(PDF:296KB)

人生100年時代の構想の中に「第4次産業革命」が登場しています。「第4次産業革命」には、AIやIoT、ビッグデータなどの技術革新によって、様々な社会問題を解決することが期待される。AIやロボットが、これまで人間が行っていた労働の補助・代替を可能にすると書かれています。これから本当に起きる革命はAIなどの技術革新なのかもしれません。

【ご参考】【第4次産業革命のインパクト】内閣府

【AIの指示で働けますか 痛烈ダメ出しも】

人工知能(AI)活用を目指す企業が増えている。人の判断を補ったり単純作業を代行したりするだけでなく、人の仕事のやり方を分析し、効率アップの方法をアドバイスするAIも登場。「同僚はAI」という日も遠からず来そうだが、それで私たちは幸せになるのだろうか。
日本マイクロソフトは社員一人一人の就業時間の使い方を分析、助言するAIを開発した。「会議の20%を内職していた。本当に必要な会議か」「あなたが送ったメールは開封されるまでに5時間かかり、4秒で斜め読みされた。本当に必要か」という具合だ。
日立製作所が開発を進めるAIは名札型のウエアラブルセンサーを身につけた人の行動や会話を観察し、どう業績と結びつくのかを深層学習。一定期間後に本人への助言を開始する。会話の中身を判断し、話すべき相手まで勧める。
AIは、データを与えれば瞬時に最適解をはじき出す。採用活動に導入する企業もある。短期的にはAIが人の働き方を効率化し、私たちを長時間労働から解放するかもしれない。その先に何が待つのか。今後10~20年間で日本の労働人口の49%はAIやロボットで代替可能――。野村総研が2年前に公表した試算が世間を驚かせた。多くの業種でAIが人に取って代わり、人が残る業種でもAIが指示を出す。そんな時代がやってくる。
「組織や社会を良くするための指示を、人間が出すかAIが出すかは大きな問題ではありません」。こう語るのは、AI研究をけん引するドワンゴ人工知能研究所の山川宏所長だ。「大事なのは、AIに指示されることを人間が納得し選択しているかどうかです」。人は働くことで、食いぶちだけでなく自己肯定感も得ている。日本では少子化で急減する労働人口をAIが補うという楽観論もあるが、AIに仕事を奪われ生きる意味も見失ったと感じる人も出てきかねない。「仕事以外で他人に認められたいという承認欲求をどう満たすのか」と山川さんは難題を提起する。ボランティア、趣味、ネット上での自己発信。「いま定年退職者がぶつかっている壁に、将来、若い世代もぶつかることになる」と言う。「今の世は働かない人を冷遇するが、いろんな生き方を認める社会にしなければなりません」。幸せとは。生きるとは・・・。AIは根源的な問いを突きつけてくる。(2017年9月2日 毎日新聞)

出典元:朝日新聞・首相官邸・産経新聞・毎日新聞・内閣府