【労働時間把握は「義務」明記、安衛法規則改正へ】

2017年8月6日
読売新聞

過労死を防ぐため、厚生労働省は、労働安全衛生法(安衛法)施行規則を改正し、従業員の労働時間を適切に把握することを企業などの義務として明記する方針を固めた。

政府は、時間外労働の上限規制を含む「働き方改革関連法案」を秋の臨時国会に提出する予定。関連法施行までに安衛法施行規則を改正する。

安衛法は働く人の健康を守るための法律。時間外労働が月100時間を超えた人が申し出た場合、医師の面接指導を事業者に義務づけるなど、労働時間の把握を前提とした仕組みを定めている。ただ、取り組みが不十分な企業もあるという。

そこで、安衛法施行規則に、労働時間の把握について「客観的で適切な方法で行わなければならない」などの文言を盛り込む。パソコンの使用時間やIC(集積回路)カードによる出退勤時間の記録を想定する。管理監督者を含めた全ての労働者を対象にする。

ユニオンからコメント

厚生労働省が、労働安全衛生法施行規則を改正して「従業員の労働時間を把握することを会社に義務付ける」と明記する方針を決めたというニュースです。

長時間労働について、これまでのように従業員が自主的に管理するのではなく、会社が把握・管理するよう法律で定めます。つまり、「働きすぎるな」から「働かせすぎるな」へ変わるということです。

労働安全衛生法(安衛法)は、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境作りを目的とした法律です。具体的には、労働者を危険や健康障害から守るための措置、安全衛生教育や健康保持の増進措置などについて詳細に規定されています。

例えば、第66条には「事業者は、労働者に対し、医師による健康診断を行わなければならない」とあり、第66条の5では「事業者は、医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、適切な措置を講じなければならない」と規定されています。

また、平成17年の法改正によって、長時間労働者への医師による面接指導の実施も義務になりました。具体的には「週40時間を越える労働が1月あたり100時間を超え、かつ疲労の蓄積が見られる労働者が申し出たときは、事業者は、医師による面接指導を行わなければならない」としました。

さらに、精神障害を原因とする労災認定件数の増加から、「労働安全衛生法の一部を改正する法律」が平成26年6月25日に公布され、労働者の心理的な負担の程度を把握するための(ストレスチェック)実施が会社に義務付けられました。

ストレスチェックでも、会社は、検査結果を通知された労働者の希望に応じて医師による面接指導を実施し、医師の意見を聴いた上で、必要な場合には、作業の転換、労働時間の短縮その他の適切な就業上の措置を講じなければならないと決められています。

【ご参考】【労働安全衛生法の一部を改正する法律(平成26年法律第82号)の概要】厚生労働省(PDF:1.16MB)

会社が安衛法に違反すると、懲役や罰金などの処罰が科されます。月100時間を超える過重労働者の医師面談を実施せず、精神障害・メンタル自殺などが発生した場合、悪質な場合には国が人事責任者を刑事事件として司法処分するとの通達も出されました。

【ご参考】【過重労働による健康障害防止のための総合対策について】厚生労働省(PDF:288KB)

他にも「安全衛生教育実施違反(安衛法第59条3項)」「病者の就業禁止違反(安衛法第68条)」には(6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金)、「産業医の未選任(安衛法第13条1項)」「労働災害防止措置違反(安衛法第30条の2第1項、4項)」「健康診断の実施違反(安衛法第66条)」には(50万円以下の罰金)と定められています。

労働環境と密接に関連している法律のため、ユニオンが会社と話し合う席上でも、安全配慮義務を定めた(労働契約法)と並んで数多く登場する法律です。その安衛法は、快適な職場環境作りを達成するため、労働者にも自覚と協力も求めています。

安衛法第4条には「労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するように努めなければならない」と、労働者に対しても労災防止のルールを守り協力することを義務付けています。

第97条に「労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる」とあります。

これは、会社が安衛法に違反している場合、労働者が行政窓口に申告して是正を求める権利を認めているということです。会社が安衛法を守っているかを知るには、安衛法そのものを知っていなければいけません。労働に直結した法律ですから、すべてのはたらく人が知っておくべき法律といえます。

【ご参考】【労働安全衛生法の基本的な仕組みを教えてください】独立行政法人労働政策研究・研修機構

出典元:読売新聞・厚生労働省・独立行政法人労働政策研究研修機構