【iPS創薬、京大が世界初の治験へ 骨の難病】

2017年8月1日
日本経済新聞

京都大学iPS細胞研究所の戸口田淳也教授らの研究チームは1日、筋肉の中に骨ができる難病「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」の治療薬の候補をiPS細胞を使って発見し、近く臨床試験(治験)を始めると発表した。

iPS細胞を使った創薬の治験は世界で初めてとなる。再生医療と並んでiPS細胞の柱の一つである創薬の分野が本格的に動き出す。治験は京大付属病院などで実施する予定で、同病院の審査委員会は計画をすでに承認した。近く実際の患者に候補薬の投与を始めて、安全性や効果を確かめる。

投与するのは既存薬の「ラパマイシン」で、臓器移植後の拒絶反応を抑える免疫抑制剤として使われている。研究チームはFOP患者の細胞から作ったiPS細胞を様々な細胞に変えて病態を再現。そこに候補薬を投与する実験などをして、約7000種の物質の中からラパマイシンに絞り込んだ。マウスに投与する実験では、病気の進行を遅らせる効果があった。

FOPは筋肉などの組織の中に骨ができる難病で、200万人に1人の割合で発症する。国内の患者は約80人とされる。根本的な治療薬がなかった。戸口田教授は記者会見で「ラパマイシンは既に使われている薬。患者に大変喜んでいただけるのではないか」と話した。

iPS細胞の応用では、体の組織を作って移植する再生医療と創薬が二本柱として期待されている。再生医療では理化学研究所などがiPS細胞から目の細胞を作り、目の疾病の患者に移植する研究をすでに進めている。心臓病や脊髄損傷でも人での再生医療を目指す研究が進んでいる。

もう一方の創薬応用では、今回が初めて人に投与する治験となる。iPS細胞が開発されてから約10年がたち、創薬でも人に投与する段階に達した。

京大の別のチームは、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)に慢性骨髄性白血病の薬が効果を発揮することを見つけている。京大iPS細胞研究所は武田薬品工業とALSや糖尿病、がん、心不全、筋ジストロフィーなどの分野で、iPS細胞を使う創薬の共同研究をするなど企業を巻き込んだ動きも進んでいる。

遺伝子の異常などを原因とする難病などに特に応用が期待されている。患者の細胞をもとに作ったiPS細胞からは、病気を引き起こす細胞を実際に作り出すことができる。患者の体内を再現できることで、新薬を試す実験が進む。

京大iPS細胞研究所長の山中伸弥教授は「ヒトiPS細胞ができて10年の節目に治験開始の発表をできることをうれしく思う。治験をきっかけに創薬研究がますます活発に行われ、他の難病に対する治療法の開発につながることを期待している」とコメントした。

ユニオンからコメント

再生医療とともに期待されている「iPS細胞の創薬への応用」が、治験の段階に入ったというニュースです。

【ご参考】【iPS創薬に向けた世界初の治験を開始】京都大学

創薬とは、新しい薬を創り出す過程や方法のことです。現在では、病気の仕組みを解明し、特性を理解しながら薬を発見していく手法がとられています。FOPでも、病状の再現に成功し、治療薬の開発につながる方法を開発、そして創薬へと辿り着きました。

【筋肉が骨になる難病、iPS細胞で病状再現】

京都大学の戸口田淳也教授らは25日、筋肉や周囲の組織が徐々に硬くなって骨に変わる難病患者からiPS細胞を作り、病状の一端を再現できたと発表した。原因遺伝子の働きを化学物質で妨げて、骨になりにくくする実験にも成功した。病気の仕組みの解明や新薬の開発につながるとみている。研究チームは、5人の患者から皮膚の細胞を取ってiPS細胞に変え、骨の細胞に育てた。その過程を通常の人のiPS細胞と比べたところ、通常の人に比べて骨が成長しやすいことがわかった。(2013年12月25日 日本経済新聞)

【筋肉が骨に変わる難病 京大、iPSで創薬】

京都大学の戸口田淳也教授らは12日、筋肉組織の一部が骨に変わる難病の医薬品開発につながる手法を開発したと発表した。病態を再現したiPS細胞と正常な細胞を比べながら、治療に役立つ薬を探す。治療法が無い骨の難病の克服につながる。FOPの患者の皮膚から作ったiPS細胞を分化させたところ大きな軟骨を作ったが、病気の原因になる遺伝子を組み換えたところ軟骨が小さくなった。患者のiPS細胞に様々な薬を与え、軟骨の大きさを調べれば薬の効き目が確認できる。患者から作ったiPS細胞を使い、病気の原因遺伝子の働きを妨げたり、軟骨ができるのを防いだりする薬を探せば、FOPの治療法確立につながる。(2015年3月13日 日本経済新聞)

iPS細胞を応用した創薬が実現すると、3万分の1といわれる新薬開発の成功率が飛躍的に上がる可能性があります。すでに研究が進んでいるALS・糖尿病・がん・心不全だけでなく、あらゆる病気に効果的な治療薬が創られる。そんな日が遠くないのかもしれません。

【理研がiPS創薬拠点 神経難病など京大と研究】

理化学研究所は、神経難病などの新薬開発にiPS細胞の研究を生かす新たな拠点を京都府内に設ける。京都大学iPS細胞研究所と連携し、2018年4月に始動する。世界をリードする理研と京大が組み、手足が震えるパーキンソン病や、筋力が衰えるALS(筋萎縮性側索硬化症)などで日本発の大型新薬を目指す。
「iPS創薬」では、患者のiPS細胞から病気を再現した細胞や組織を作り、新薬の候補物質を加えて反応を調べる。改善の効果があった物質は新薬の有力候補となる。iPS細胞の応用では、理研による目の難病患者への移植治療が知られるが、創薬への応用はこれと並ぶ有望分野。人間や動物に投与する前に一定の効果を見分けることができ、3万分の1とされる新薬開発の成功率を引き上げる期待もある。(2017年3月2日 日本経済新聞)

出典元:日本経済新聞・京都大学