【<日銀>物価2%、再び先送り 総裁「企業、値上げに慎重」】

2007年7月21日
毎日新聞

日銀は20日の金融政策決定会合で、物価上昇率2%の目標達成時期の見通しを従来の「2018年度ごろ」から「19年度ごろ」に1年先送りした。一方で、追加の金融緩和は見送った。

黒田東彦総裁は20日の記者会見で、「(値上げに)慎重な姿勢が企業を中心に残っていることが、物価の上昇を抑えている」との見方を示した。目標達成時期の先送りは、黒田総裁が「異次元緩和」を始めた13年4月以降、6回目となる。
当初は2年程度での2%達成を掲げていたが、4年以上たった今も消費者物価指数の上昇率は0.4%(5月、生鮮食品を除く)にとどまっている。

黒田総裁は18年4月に任期が切れるため、任期中の目標達成は絶望的な情勢だ。20日の決定会合でまとめた「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、17~19年度の物価上昇率の見通しをそれぞれ下方修正する一方で、実質国内総生産(GDP)の成長率見通しは17、18年度を上方修正し、19年度は据え置いた。

景気の現状認識も「緩やかに拡大している」とし、「拡大に転じつつある」との従来の表現から一歩前進させた。黒田総裁は景気拡大に伴って今後の物価上昇が見込まれるとして「追加緩和は今の時点では必要ない」と説明した。

ユニオンからコメント

日本銀行が、目標である「物価の2%上昇が達成される時期」について、見通しを修正(6回目)したというニュースです。

【賃上げ不足、物価を0.2ポイント下押し】

日銀は、四半期ごとに向こう3年の経済・物価を示す「展望リポート(経済・物価情勢の展望)」を公表し、その中で、人手不足にもかかわらず賃金や物価の上昇ペースが弱い理由について分析した。有効求人倍率がバブル期ピークを上回り失業率が3%程度まで低下するなど労働需給はひっ迫しているが、消費者物価指数は直近で前年比0.4%の上昇にとどまっている。2%の物価目標を目指す日銀には要因の分析が課題となっている。バブル期に相当する1990年前後と、2010年代後半は、実質賃金の伸びが労働生産性の伸びを下回っている状況にあると指摘。この賃上げ不足が、足元では物価を0.2ポイント下押ししているとの試算も示した。(2017年7月21日 ロイター)

【ご参考】【経済・物価情勢の展望(展望レポート)】日本銀行(PDF:3.04MB)

【ご参考】【経済・物価情勢の展望(2017年7月)】日本銀行(PDF:760KB)

日本銀行は、物価上昇率が2%を超えるまでマネタリーベースの拡大など大規模な金融緩和を継続すると「展望リポート」に明記しています。黒田総裁は、「賃金・物価が上がりにくい考え方が企業・消費者に根強く残っている」ことを理由に挙げましたが、異次元の大胆な政策を推し進める日銀総裁がその程度の想定すらできなかったということです。一般に、5回も外れてしまえば「見通し」とは言い難いのですが、新聞記事やコラムなどでも専門家からの批判的な意見が目立つようになってきました。

【上がらぬ物価、変わる弁明】

日本銀行が昨秋に続いて「2%」の物価目標の達成時期を先送りした。これまで消費増税や海外経済の影響を理由にしてきたが、6度目の今回は、企業や消費者が賃上げに慎重だから物価が上がらない、などと強調した。黒田東彦総裁は緩和を続ければ目標を達成できるとするが、多くの専門家は懐疑的。「アベノミクス」の象徴の大規模緩和は、開始から4年超が過ぎても出口が見えない状況だ。黒田総裁は、物価が上がらない理由は「(物価下落が続く)デフレが15年続き、慎重な姿勢が企業や家計に残っている」と繰り返した。2013年4月に始めた異次元緩和は、過去にない規模で世の中にお金を流し、そんな「デフレマインド」を変える政策だった。緩和でモノの値段が上がる、と人々に信じさせ、消費や企業収益の拡大、賃金上昇につなげることを狙った。元日銀理事の門間一夫氏は「モノやサービスの需要は強くないため、企業は値段を上げにくい。2%の実現は極めて難しい」と指摘する。専門家からは「日銀の見通しは予測ではなく目標」、「日銀が何を言っても信用されなくなった」との声が上がる。(2017年7月21日 朝日新聞)

【根強い不安 現実無視の政策】

リーマン・ショックや東日本大震災などを経た日本では、景気が多少回復しても不況の懸念や将来不安が消えず、賃上げに慎重な心理が経営者、労働者に染み付いている。黒田総裁は大規模緩和で人々の心理を前向きに変えられると説明してきたが、現実はそうなっていない。人手不足の傾向は2010年から続いているが、賃金はずっと横ばいだ。働き盛りの30代後半~40代前半にいたっては15年までの5年で賃金が下がった。就職氷河期世代で就職に恵まれず、転職などで賃金が下がる人も目立つ。これでは明るい未来が描けない。社会保険料などの公的負担も企業、個人ともに重くなっている。賃金は複合的な要因で上がりにくい。そうした現実を無視して金融政策や経済対策で賃金を上げられると考えるのは、労働への見識が乏しすぎるのではないか。(2017年7月21日 朝日新聞)

【日銀の金融政策に対する「7つの疑問」】

日銀が2%のインフレ率を目指すのは、他主要国の中央銀行もおおむね2%程度のインフレ率を目指して金融政策を行っているからだ。単に他の中銀をまねているということではなく、他主要国と同水準のインフレ率を長期間維持することができれば、為替レートが比較的安定するという効果を見込める。しかし、そもそも、主要10中銀の中で、コアインフレ率2%超えを達成しているのは現状、英中銀(BOE)だけだ。仮に何らかの構造的な理由で世界的にインフレ率が低下しているのであれば、2%が適切とは言い切れず、すでに非現実的な水準となっているのかもしれない。今でもインフレ率2%を目標とすることが本当に正しいのか、改めて検討すべきではないだろうか。近年、インフレ率が上がらないのは日本だけの現象ではなく、世界的な傾向だ。インターネットが普及した結果、今や椅子に座ったまま、さまざまな店舗を比較し、最も安い価格で買い物をすることができる。これらは金利やマネタリーベースの操作によって変化させることができるような事象ではないだろう。(2017年7月21日 ロイター)

【「2%目標」1年先送り 上がらぬ物価に手詰まり感】

黒田総裁の下、13年4月に2年程度での目標達成を掲げて大規模な金融緩和に踏み切って以来、延期は6回目。黒田氏は来年4月までの総裁任期中の目標実現を断念したことになり、市場では2%目標への懐疑的な見方も強まりそうだ。市場では「どれだけ粘っても2%にはいかないだろう」(明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミスト)と、日銀の見立てに否定的な意見が目立ってきた。厚生労働省の毎月勤労統計によると、4月の賃金上昇率は前年同月比0.5%。ここ数年は上昇傾向だが、1%を大きく割り込む低水準となっている。人手不足に悩む企業は多いものの、パートなどを除く正社員の賃金を引き上げるという流れには結びついていない。その結果、賃上げよりも24時間営業をやめたり、無人レジを導入するなど、業務の効率化や省力化投資の動きが目立つ。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは「デフレが長すぎた。多くの人が物価が上昇し賃金も増え続けるというプラスのイメージが描けなくなっている」とした上で、「これから先は金融政策で事態を打開するのは困難」と分析する。(2017年7月21日 産経新聞)

専門家の多くが、日銀のやり方では「賃金も上がらないし、物価は上がるはずがない」と指摘しています。実際に賃金が上がっていないことは毎月勤労統計調査や経済財政白書(内閣府が経済・財政に関する分析や政策提言を年1回まとめる報告書)にも表れています。

【5月の実質賃金は横ばい 厚労省、速報を下方修正】

厚生労働省は21日、5月の毎月勤労統計調査(従業員5人以上の事業所)の確報を発表し、物価の影響を加味した実質賃金は前年同月と同水準だった。速報段階では5カ月ぶりのプラスとなる0.1%増だったが、下方修正した。厚労省によると、速報段階では正社員より賃金の低いパートの割合が減少していたが、その後の集計で増加に転じたため全体の伸びが抑えられた。基本給や残業代などを合計した1人当たりの現金給与総額は速報段階より0.1ポイント少ない0.6%増だった。(2017年7月21日 共同通信)

【ご参考】【毎月勤労統計調査 平成29年5月分結果確報】厚生労働省(PDF:452KB)

【景気拡大、人手不足はバブル期並み・・・経財白書】

石原経済財政相は21日午前の閣議に、2017年度の年次経済財政報告(経済財政白書)を提出した。現在の景気回復基調が「バブル期を超え、戦後3番目の長さになった」とし、バブル期並みの人手不足となる一方、賃金や物価の上昇は緩やかなものにとどまっていると指摘した。今回の景気回復では、働き手の生産年齢人口(15~64歳)が年平均で1.2%ずつ減る中、仕事の見つけやすさの指標の有効求人倍率は、17年4月にバブル期の最高だった1.46倍を上回った。一方、人手は足りないのに、賃金の伸びは鈍い。1人の労働者が受け取る名目の賃金(従業員30人以上)は、バブル期は年平均で3.6%増えていたのに対し、今回は0.4%の伸びにとどまっている。(2017年7月21日 読売新聞)

【ご参考】【平成29年度 年次経済財政報告】内閣府

効果が出ないアベノミクスや日銀の政策について、専門家が指摘するのは「出口戦略」の重要性です。つまり、アベノミクスを「どのように終わらせるのか」ということです。終わらせ方を間違えると、莫大な借金が国民にのしかかるだけでなく、国家破滅までも視野に入ってきます。

【異次元緩和4年 出口は見えず 膨らむリスク】

日銀の黒田総裁が進めてきた大規模金融緩和「異次元緩和」は導入から4年が経過した。当初「2年程度で物価上昇率2%を実現できる」としてスタートしたが、今なお達成は見通せない。ある政府関係者は「表向き口に出さないが、日銀は『出口』を相当心配している」と明かす。異次元緩和は、デフレ脱却のため日銀が金融機関から国債を購入し、市場に大量のお金を供給する政策だ。2013年4月から実施し、金利水準を押し下げて企業や家庭に投資や消費を促すとともに、円安・株高で企業業績を押し上げる効果を狙った。しかし、目標の物価上昇率は約1年後に1%台半ばまで上昇した後は失速。日銀は14年10月に追加緩和、16年1月にはマイナス金利の導入に動いたが、物価の勢いは戻らず、同年9月には長短金利操作を軸とする金融政策の枠組み変更に追い込まれた。
この間リスクは膨らんでいる。日銀の国債保有残高は着々と積み上がり、16年10月に初めて400兆円を突破。日銀が将来、緩和縮小で国債購入量を減らした場合、国債価格が下落(金利は上昇)し、日銀が保有する国債に巨額の含み損が生じる可能性が高い。損失は国民負担になる。日本総合研究所の河村小百合・上席主任研究員は「米連邦準備制度理事会(FRB)など海外の中央銀行は、緩和の出口で生じる損失の予測など都合が悪いことも含めて説明しており、日銀と対照的だ」と指摘する。(2017年4月4日 毎日新聞)

【米欧、緩和「出口」探る】

従来の策を続ける姿勢の日銀とは対照的に、米欧の中央銀行は緩和を縮小する「出口」を視野に入れ始めた。米連邦準備制度理事会(ERB)は15年12月に約9年半ぶりの利上げに踏み切った。すでに政策金利は約8年ぶりに1%超に。量的緩和政策で膨らんだ資産の縮小も始める見通しで、9月にも始めるとの見方がある。欧州中央銀行(ECB)は6月の理事会で政策金利について追加利下げをしない方針を決めた。(2017年7月21日 朝日新聞)

【日銀は緩和出口の見通しを 生保協会・橋本会長】

生命保険協会の会長に就任した住友生命保険の橋本雅博社長は21日、記者会見を開き、日銀の大規模金融緩和について、「ある程度物価が上昇している状況が確認できれば、金融政策の選択肢にもう少し幅があってもいい」と述べた。具体的には、現在「0%程度」としている長期金利の誘導目標の引き上げなどを挙げた。海外の主要中央銀行が緩和を縮小する「出口」に向かう中、日銀の出口戦略への関心も高まっている。橋本氏は「サプライズのような形で出てくると、市場に混乱を招く恐れがある」と指摘。必要な時点で、将来の見通しを示すべきだとの考えを示した。(2017年7月21日 産経新聞)

【独断できぬ緩和「出口」 自主性弱まる日銀】

導入を決めたマイナス金利政策が批判を浴び、日銀内では次の一手を繰り出すことへの慎重論も根強かった。「金融緩和の無駄打ちはしたくない」。そんな声も漏れた。だが、首相講演の2日後、黒田東彦総裁ら日銀政策委員会は決定会合で、ETF(上場投資信託)の購入額を年3.3兆円から6兆円に倍増する追加緩和を決めた。
黒田総裁は「政府の取り組みと相乗的な効果を発揮する」と強調した。「アベノミクスを最大限ふかす」(首相)という演出に一役買った形となった。
■従属関係へ変容
1980年代、過熱する景気を利上げで抑え込むのが政治からの風圧で遅れ、バブル崩壊の傷を深くした。その反省から97年、56年ぶりに本格改正した新日銀法は、政府からの独立性を高め、金融政策の「自主性の尊重」をうたった。そんな日銀との関係を従属関係に変えたのが安倍政権だった。政府主導で金融政策を転換する「アベノミクス」を掲げて政権交代を成し遂げると、2013年1月、日銀との間で「共同声明」を取りまとめた。首相の強いこだわりからだった。声明では、日銀が「2%の物価上昇率」の目標に向けて金融緩和を推進することを明記した。大規模な金融緩和に前向きな黒田氏を日銀総裁に起用し、大量の国債を買ってお金をあふれさせる「異次元緩和」が始まった。
■財政に注文せず
共同声明には、政府も「持続可能な財政構造を確立するための取り組み」や規制改革を進める、との項目もあった。日銀が大量の国債を買うのをいいことに、政府が借金をしまくれば、すでに危機的な財政が破綻するからだ。黒田総裁も就任当初は「財政赤字の縮小が必要だ」などと発言したが、いまでは財政への注文はほとんど口にしなくなった。財政のお目付け役が沈黙するなか、安倍首相は消費増税を2度延期した。20年度に向けた財政再建目標の達成は絶望的だ。「いまの日銀に、官邸の了解なしで出口を語ることなんてできるわけがない」。財務省幹部は言う。(2017年7月22日 朝日新聞)

安倍首相は「アベノミクス」、黒田総裁は「黒田バズーカ」。政策に自分の名を冠して悦に入る2人に共通しているのは、「批判に耳を傾けず、説明責任を放棄し、他者(企業・消費者・野党)に責任転嫁し自分は悪くないと言い張る」ことですから、ずいぶんと気が合うのでしょう。多くの専門家が指摘するように、失敗を認めて修正しなければ多くの国民が路頭に迷うことになります。政府と日銀が失政を認めることから「出口戦略」が始まるのかもしれません。

出典元:毎日新聞・ロイター・日本銀行・朝日新聞・産経新聞・共同通信・厚生労働省・読売新聞・内閣府