【非正規の国家資格取得へ長期講座 厚労省が新設】

2017年4月10日
日本経済新聞

厚生労働省は非正規労働者向けに国家資格の取得を後押しする長期間の職業訓練を新設する。受講期間は1~2年間に設定し、介護の専門資格やIT(情報技術)関連の技術を持つ人材を養成する。これまでは短期の訓練が中心で、正社員の仕事を見つける上で十分な能力を身に付けづらい側面があった。

年度内に民間の専門学校などに業務委託する形でスタートする。無料で受講できる公共職業訓練に、国家資格の取得などを目指す長期の訓練コースを設ける。就職後は専門学校の職員が就職先に訪問し企業の担当者や本人からヒアリングをするなどして、受講生の仕事への定着を促すためのサポートも実施する。

新設する職業訓練で想定している資格は、社会福祉士や精神保健福祉士、1級建築士や応用情報技術者など専門性の高い資格が中心になる。非正規労働者が就業者の約4割に達する中で、専門性の高い技能を身に付けてもらい正社員への就職を後押しする。

現在の仕組みでは、離職した人への職業訓練は受講期間が3~6カ月のものが中心だ。パソコンを使った事務作業や基礎的な経理事務など、基礎的な内容が多い。

ユニオンからコメント

非正規労働者がIT関連などの専門的な国家資格を取得するため、長期間利用できる職業訓練制度を厚生労働省が新たに作るというニュースです。厚生労働省は「頑張る人が報われる社会」の実現を目指すとして、様々な取り組みを行っています。

【ご参考】【正社員転換・待遇改善に向けた取組】厚生労働省

【ご参考】【非正規雇用労働者の方へ】厚生労働省

新しく作られる制度は、「正社員として就職する」ことを厚生労働省が支援するためのものです。これまで、厚生労働省が「困っている人を助ける」目的で行ってきた事業で、民間に業務委託された制度は悪用されたケースが少なくありません。独立行政法人の職員が不正への関与を疑われた事件もありました。

【給付金詐取容疑で10人逮捕 福岡県警、求職支援事業を悪用】

失業者が職業訓練を無料で受講でき生活費も受け取れる国の求職者支援事業を悪用し、給付金約600万円をだまし取ったとして、福岡県警は3日までに、会社社長ら10人を詐欺容疑で逮捕した。
この事業は厚生労働省が2009~11年に実施した「緊急人材育成支援事業」で、中央職業能力開発協会が運営。受講者は訓練期間中、生活費として月10万~12万円を受給できる。訓練を実施する企業や専門学校などは奨励金を受け取る。(2013年11月3日 日本経済新聞)

【大阪のNPO、求職者支援金不正受給の疑い】

失業者が生活費の支給を受けながら職業訓練を受講できる国の求職者支援制度を巡り、大阪市のNPO法人が利用者数を水増しするなどして国から支援金を不正受給していた疑いがあることが14日、厚生労働省への取材で分かった。厚労省によると、問題のNPO法人は制度の利用者数を水増ししたり、職業訓練を休まず受講したように装ったりして、利用者向けの生活費や訓練機関向けの奨励金を不正に受給した疑いがあるという。
同省から制度の運営委託を受けている独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」の職員も不正に関与した疑いがあるという。(2013年8月14日 日本経済新聞)

【実質経営者ら起訴、業績悪化装い助成金詐取】

業績が悪化した企業に支給される国の助成金をだまし取ったとして、東京地検特捜部は17日、詐欺罪で住宅用太陽光発電システム販売会社の経営者、人材育成会社代表の両容疑者を起訴した。起訴状によると、2人は2011年12月~12年11月、業績が悪化し、従業員に教育訓練を受けさせたように装い、東京労働局から中小企業緊急雇用安定助成金約4700万円をだまし取ったとされる。(2016年10月17日 時事通信)

実際、非正規ではたらいていることに不安を感じたり不本意に思ったりしている人は少なくありません。正社員としてはたらくために専門性の高い技術を身に付ける、制度の正しい運用と広がりに期待します。

正社員への転換については、いわゆる「無期転換ルール」の実施が近づいています。
非正規ではたらいている人の多くが無期雇用を希望しているいっぽう、多くの会社が消極的に捉えていることが民間会社のアンケート結果からわかりました。

【ご参考】【無期雇用転換に関する調査】アイデム人と仕事研究所(PDF:2.07MB)

アンケートの結果によると、「無期雇用転換したい」と答えた人が、(パート・アルバイトで67.7%、契約社員で84.5%)でした。また、「申し込みがあれば無期雇用転換する」と答えた会社は、(パート・アルバイトに対して35.5%、契約社員に対して33.6%)です。

つまり、有期雇用ではたらいている人の多くが無期雇用でと考えているのに対し、無条件で無期雇用に応じると回答した会社はおよそ3割に過ぎません。
4分の1を超える会社が、「5年未満で雇い止めにする」「更新上限を5年未満とし、無期雇用への転換は行わない」と答えています。

また、無期転換ルールを、「知らない」「よくわからない」と答えた人が、(パート・アルバイトで91.0%、契約社員で73.8%)という結果が気になります。自分の雇用契約が変わるかも知れないルールですから、誰もが知っておくべき法律です。

【ご参考】【「無期転換ルール」と有期雇用契約の更新について】

これまで何年間も有期雇用契約を繰り返してきた人が、会社に無期転換を申し込んだとき、会社が応じたくないケースではトラブルが生じる可能性があります。合理的な理由がないのに契約を更新しなかったり、「雇用契約の更新期間は上限を5年とする」等に労働条件・就業規則を変更したりする会社も出始めています。

アンケートでは、無期転換ルールへの対応について「わからない」と答えた会社がおよそ2割ありました。「アルバイトが正社員にしてくれと言ってきたら断れない」と恐れるあまり、雇止めのことばかり考えてしまう経営者もいます。労働者側にも、「そんな会社、こっちから辞めてやる」と言えるくらいの準備が必要かもしれません。

これから具体的になっていく「同一労働同一賃金」の議論は、言い換えると「正規・非正規」の議論です。現在、思いどおりのはたらき方が出来ていない人もいるでしょう。同じ仕事なのにどうして、と待遇に不満を抱えている人も少なくありません。厚生労働省の制度を利用して専門的な資格を取得することは、転職でも有利になります。あらゆる情報を集めて活用することが、「安心して長くはたらく」につながります。

出典元:日本経済新聞・厚生労働省・時事通信・アイデム人と仕事研究所