【街の景気実感、3カ月連続悪化 景気ウォッチャー調査】

2017年4月10日
朝日新聞

内閣府は10日、商店主やタクシー運転手らに景気の実感を聞いた3月の景気ウォッチャー調査を発表した。景気の現状を示す指数(季節調整値)は前月より1.2ポイント低い47.4だった。
悪化は3カ月連続。

基調判断は「持ち直しが続いているものの、引き続き一服感が見られる」で据え置いた。
「家計」「企業」「雇用」の3分野ともに前月より低下。飲食業などで人手不足を指摘する意見が多かったという。

ユニオンからコメント

内閣府が行っている「景気ウォッチャー調査」の結果、はたらく人の景気の実感が3か月連続で悪化したことがわかったというニュースです。内閣府は「今後、売り上げは増える見込みだが、コストの上昇を価格に反映できないという声が多い」とコメントしています。

【ご参考】【景気ウォッチャー調査 平成29年3月調査結果】内閣府

景気ウォッチャー調査とは、経済動向が敏感に反映する様子を知ることができる職種(小売店やタクシー運転手など)ではたらく2050 人に、「3か月前と比べた景気の実感」を聞いて、毎月指数(DI)化し発表しているものです。調査は北海道から沖縄まで、11の地域で行われています。

【ご参考】【景気ウォッチャー調査】内閣府

指数には、現状を表す指数「現状判断DI(季節調整値)」と、先行きを表す「先行き判断DI(季節調整値)」の二つがあります。平成29年3月の調査結果では、現状判断DIが(47.4)、先行き判断DIが(48.1)でした。

DI(ディフュージョン・インデックス)とは、景気拡大の割合を示す指標です。
算出方法は、景気の現状(景気の先行き)を5段階で判断して、それぞれに点数を与えることで算出しています。良い(良くなる)なら+1、どちらともいえない(変わらない)が+0.5、悪い(悪くなる)が0です。

すべての人が良い(良くなる)と答えると(100)になり、逆に、悪い(悪くなる)だと(0)になりますので、(50)が景気が良い(良くなる)、悪い(悪くなる)の境界になります。今回、現状・先行きともに(50)を下回っていますので悪化とされました。

(季節調整値)とは、経済統計の時系列データから季節的な要因を取り除き、分析しやすい形にしたものです。正確な景気動向を見るために、「夏にビール消費量が増える」「百貨店のボーナス商戦」などの季節的な変動を採り除いています。

公表された景気ウォッチャーの回答をいくつか見てみましょう。

【現状について】

「周囲に競合店がオープンしている。そのため、価格が下落傾向にあり、消費者の買い回りも散見されている(東北:スーパー)」

「少子化の影響や類似商材を扱う競合店が増えたことで苦戦が続いている。前年と比べ来客数、販売量がここ数か月で最も落ち込んでいる(中国:スーパー)」

「思った以上に稼働率が悪く、予約状況も悪い。異動時期でもあり夜の繁華街もどちらかというと悪い(九州:タクシー運転手)」

「ただでさえ求人難であるのに加え、飲食業はブラックなイメージがついているため、給与を高めに提示しても全く面接に来ない。知り合いの人気居酒屋店は求人のめどが立たず廃業した(沖縄:居酒屋)」

【先行きについて】

「人口がかなり流出しており、地元では後期高齢者の方ばかりとなっている。そのため、これから先の売上は厳しくなるとみている(東北:コンビニ)」

「電気料金の値上げや為替変動等による輸入原材料の値上げが予測される。可処分所得の上昇は望めないため、余分なものは買わない傾向は、しばらく続く(北関東:スーパー)」

「4月以降にサラダ油や小麦粉の価格が上昇するとの情報がある。今後ニュース等でこの話題を目にする機会が増えると、消費者心理へのマイナスの影響が懸念される(東海:スーパー)」

「自店舗も求人難が続いており、スタッフがそろわないと集客ができないうえ、人件費が高騰している。県外の人材や障がい者、高齢者の採用も始めている。この状態は続くとみているので、人を使わない事業形態に転換していかねばならない(沖縄:居酒屋)」

景気ウォッチャー調査結果では3カ月連続で悪化している景気実感ですが、景気動向指数は5カ月連続で「改善」しています。数字の上では、「バブル景気」を超えて戦後3番目の長い期間、景気が拡大していることになります。

【景気拡大、戦後3番目に 好況実感は乏しいまま】

円安への転換を契機に2012年末に始まった現在の景気拡大局面が、戦後3番目の長さになるのが確実になった。日本銀行の大規模な金融緩和が下支えしてきたとみられる。ただ、賃金面や個人消費に明確な改善はみられず、「好況」の実感は乏しい。

内閣府が7日発表した2月の景気動向指数(速報)の基調判断は、5カ月連続の「改善」だった。「改善」は、景気拡大の可能性が高いことを示す表現だ。基調判断は13年7月に「改善」とされた後、消費税率が8%へ引き上げられた14年4月に「足踏み」に下方修正。同年8月に「下方への局面変化」とさらに引き下げられたが、景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」には至らないまま現在に至っている。

15年7月の前回の研究会で決まった直近の景気の谷は12年11月。翌月を起点にすると、景気拡大は今年2月で4年3カ月で、1990年前後のバブル景気に並んだ。3月も急激な変化はないとみられ、戦後3番目の長さになる見通しだ。

3月の日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)は、輸出関連の業種で改善。2月の完全失業率は2.8%と22年2カ月ぶりの低水準となり、人手不足感も目立つ。

とはいえ、みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「日本経済の新たな牽引(けんいん)役が現れているわけではない」とみる。16年10~12月期の国内総生産(GDP)で個人消費が0.04%の微増にとどまるなど、低迷が続く。円安を後押しした「トランプ相場」も、世界情勢次第で一変する可能性もある。(2017年4月8日 朝日新聞)

【ご参考】【景気動向指数 平成29年2月分(速報)の概要】内閣府(PDF:200KB)

景気動向指数は、景気に関する総合的な指標のことです。「経済指標の変化する方向から景気局面を把握する」DIと、「景気動向を量的に把握することを目的とした」CI(コンポジット・インデックス)の2種類があります。日本の景気動向指数はDIが使われていましたが、2008年からはCIが使われるようになりました。

CIとは、「景気の拡大・後退の速度や程度を表すように作成された」指数で、2010年を基準にして、それぞれの経済指標の変化率を平均して求め、それを積み重ねて指数にしています。CIを計算するときには、異常な上昇・下落率の影響を除くという操作が行われます。

2008年は、リーマン・ショックが起こり「100年に1度」と言われるほど世界経済が悪化した年です。2010年は、日本航空が負債2兆円以上を抱えて倒産、日経平均株価は1万円を割っていた時期で、日本のGDPが世界第3位に下落した年です。

もう一つ「バブル景気」以来の高水準と報道されたのが、およそ22年ぶりに2%台に下がった「完全失業率」です。そして、政府が2%を目指している「消費者物価指数」も上昇に転じています。

【失業率22年ぶり2%台 雇用回復も非正規中心】

完全失業率が平成6年12月以来、22年2カ月ぶりに2%台に改善、全国消費者物価指数も1年10カ月ぶりの水準に上昇した。ただ、雇用の回復は非正規が中心で、原油高要因を除く物価の基調は弱い。家計支出の低迷は続いており、賃金上昇を伴わない「悪い物価上昇」が常態化する懸念も高まる。

総務省が発表した2月の完全失業率(季節調整値)は、前月比0.2ポイント低下の2.8%で、2カ月連続で改善。求職者1人当たりの求人数を示す有効求人倍率も前月と同じ1.43倍で、バブル末期の3年7月以来の高水準を維持した。

だが、2月の非正規労働者数は2005万人で、労働者の37.1%を占める。完全失業率が2%台だった22年前と比べると正社員は400万人減少する一方、非正規は1千万人増加。正社員化や賃上げなど非正規雇用の改善が見えにくい。

総務省が発表した全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、前年同月と比べて0.2%上昇の99.6で、2カ月連続のプラス。ただ、品目別では灯油が29.8%、ガソリンが15.8%それぞれ上昇するなど、エネルギー価格の高騰が顕著だ。

物価上昇による消費減退の動きも目立つ。総務省によると、2月の1世帯当たりの消費支出は、物価変動を除いた実質で前年同月比3.8%減少。ガソリン支出や自動車購入が減り「交通・通信」は7.4%減った。同省は昨年2月がうるう年で1日多い影響があると分析するものの、消費の基調判断は「弱い動きが見られる」と据え置いた。

賃上げや非正規雇用の改善が進まず、ガソリンなどの身近なモノの値段が上がれば、さらに消費者の節約志向が高まる可能性は根強い。日銀が掲げる2%の物価上昇目標の達成は、賃金や消費の拡大に支えられる「良い物価上昇」が基盤となるだけに、「悪い物価上昇」の抑制が課題となる。(2017年4月1日 産経新聞)

【ご参考】【労働力調査(基本集計) 平成29年2月分】総務省統計局

【ご参考】【消費者物価指数 全国 平成29年2月分】総務省統計局

【ご参考】【家計調査 平成29年2月分速報】総務省統計局

景気ウォッチャー調査は、良いと答えた人が多いか少ないかの、いわば多数決で決まる指標です。いっぽうの景気動向指数は、29もの指数がどう変化しているかを平均したり、掛け合わせたりして決まる数値です。どちらが実際の暮らしに近いのか、感じ方は人それぞれですが、「数字の上では良くなっている」には意味がありません。

最後に、景気拡大と判断された「良くなっている数字」について、内閣府のホームページで解説している「景気動向指数CIの作成方法」から一部を抜粋して紹介します。

―各経済部門の代表的な指標の前月からの変動を計測する。ただし、負の値を取る系列や比率である系列は、対称変化率の代わりに前月差を用いる。
―過去の平均的な動きと比較した変動の大きさ(量感)を見るため、対称変化率の振れ幅の目安及びトレンドを求め、基準化変化率を算出する。
―各採用系列において、対称変化率を大きい順に並び替え、上位25%値と下位25%値との差(四分位範囲)を求める。
―「外れ値」によるCIの振れを抑えるため、各採用系列の変動のうち急激な部分について、「外れ値」処理を行う。各採用系列の変動を、体系全体に発現する「共通循環変動」と、当該系列のみに発現する「系列固有変動」に分解、「外れ値」処理の対象を「系列固有変動」に限定する。各採用系列の「系列固有変動」の幅が「閾値×四分位範囲」以上の場合は「外れ値」とし、「系列固有変動」の幅を「閾値×四分位範囲」で置き換える。
―移動平均により、各採用系列の対称変化率の長期的な傾向(トレンド)を求める。移動平均にも様々あるが、将来の値が欠損することから、後方移動平均を用いる。また、平均的な過去の景気の一循環の期間を考慮し、60か月後方移動平均とする。
―対称変化率の振幅とトレンドを調整することによって、各採用系列の対称変化率を、量感(基準化変化率)の形に揃える。
―各採用系列の基準化変化率を平均する(合成基準化変化率)。同様に、対称変化率のトレンド、四分位範囲の平均を求め(合成トレンド、合成四分位範囲)、基準化と逆の操作を行い、変化の大きさを復元する(合成変化率)。
―合成変化率は、前月と比較した変化の量感を表している。水準(指数)に戻すため、前月のCIに合成変化率を掛け合わせることにより、当月CIを計算する。
―そして、前月のCIの値に累積する。

出典元:朝日新聞・内閣府・産経新聞・総務省統計局