【実質賃金、2月は前年同月比横ばい 毎月勤労統計】

2017年4月7日
日本経済新聞

厚生労働省が7日発表した2月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月に比べて横ばいだった。

名目賃金は増加したものの、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)が上昇したことで実質的な賃金は変わらなかった。厚労省は賃金動向について「基調としては緩やかに増加している」との見方を示している。

基本給や残業代など名目賃金にあたる現金給与総額は0.4%増の26万2869円だった。内訳をみると、基本給にあたる所定内給与は0.2%増の23万9313円、残業代など所定外給与は0.6%増の1万9620円だった。ボーナスなど特別に支払われた給与は5.5%増と伸びた。

パートタイム労働者の時間当たり給与は2.1%増の1101円だった。

ユニオンからコメント

2017年2月度の毎月勤労統計調査(速報)を厚生労働省が発表したというニュースです。
実質賃金は横ばいでしたが、厚生労働省は「賃金は緩やかに増加している」とコメントしました。

【ご参考】【毎月勤労統計調査 平成29年2月分結果速報等】厚生労働省(PDF:864KB)

総務省や厚生労働省など日本の省庁は、ありとあらゆる事柄について統計調査を行い、定期的に集計結果を公表しています。税金を使って行う調査ですから、公表する結果は決して専門家だけに向けられたものではありません。

ところが、統計によっては、去年の同じ月と比べたり先月と比べたりしますし、「職員数が事業者数に変わった」など基準は様々です。また、名目・実質や指数・移動率などの専門用語が多く使用されていて、用語解説は「指数の年平均については、各月の指数の合計を12で除して(単純平均)算出している」と事務的です。

【ご参考】【用語の解説】厚生労働省(PDF:240KB)

悪い言い方をすると、「必要な調査をして結果は発表している。それが何を意味するかは各自が判断しろ」ということです。しかし、結果を見て、良い悪いの判断をするのはなかなか難しいのが実情です。いつも、という訳ではありませんが、「増加した」「伸びた」の耳障りがいい指標だけを大きく取り上げることも少なくありません。

例えば、今回の発表でも、「賃金は緩やかに増加している」「パート従業員の時給が2.1%増えて1101円になった」とコメントしていますが、パート従業員が実際に受け取った給料は0.2%減っています。

本当に「賃金は緩やかに増加している」のかは、「賃金指数」に現れます。厚生労働省はホームページで、各項目の時系列データ(エクセルファイル)を公表しています。

【ご参考】【毎月勤労統計調査 平成29年2月分結果速報等】厚生労働省

「賃金指数」は、賃金の水準を指数化したもので、現金給与額の推移で表します。現金給与額とは、所得税・社会保険料等を差し引く前の総額で、「きまって支給する給与」と「特別に支払われた給与」との合計額です。つまり、基本給や残業代、ボーナスなどを含めた、会社が支払った給料のすべてです。

「賃金指数」は、平成27年度に支払われた給料の平均を100%(基準)にしています。
時系列データを見ると、平成25年度99.6%、平成26年度100.0%、平成27年度100.0%、平成28年度100.6%となっています。

つまり、平成27年に比べて平成28年は0.6%給料が上昇しています。平成29年1月が86.1%、平成29年2月は83.9%ですから、平成27年・平成28年と比べると「賃金が急激に減少している」ことがわかります。

次に、「実質賃金指数」を見てみましょう。「実質賃金指数」は、賃金指数を物価で割って計算しています。基準にした値から、物価上昇以上に給料が上がっていればプラスになります。この指数も平成27年度を100%(基準)にしていますが、平成28年度は100.7%となっていますから、平成28年は0.7%実質賃金が上昇していたことがわかります。

しかし、平成29年1月は86.1%、平成29年2月が84.0%になっていますから、平成27年・平成28年と比べると約15%も実質賃金が下がっていたことがわかります。

1時間あたりの給料が大幅に上がった「パート従業員の賃金指数」も、平成27年度を100.0%にすると、平成28年度99.9%、平成29年1月95.6%、平成29年2月96.3%と「賃金は緩やかに減少している」ことがわかります。

もちろん、データの読み方は様々ですし、ことさら不安を煽るものでもありません。しかし、テレビニュースが「値上げの春」と繰り返すように、この4月からあらゆるものが値上げするのは現実です。私たちの暮らしにとって、「もっとも優先される政策課題は何か」を一人一人が意識するためには、統計調査の結果に関心を寄せることも重要です。

出典元:日本経済新聞・厚生労働省