【「財政赤字減に消費増税は逆効果」ノーベル経済学賞受賞の米教授指摘】

2017年3月15日
東京新聞

政府は14日、経済財政諮問会議を開き、ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ米コロンビア大教授から経済情勢に関する意見を聴いた。
経済成長には中間層の所得拡大による格差是正が必要と提言し、所得が低いほど負担が重くなる消費税の税率を「財政赤字を減らすために引き上げるのは逆効果だ」と指摘した。

スティグリッツ氏は格差の拡大が、世界的な課題である需要不足による低成長を招いていると指摘。こうした状況に対して金融政策の効果は「限界に達している」との見方を示した。

格差是正のためには公的教育の充実や最低賃金の引き上げのほか、教育や医療、介護などの公的サービス分野の賃金を引き上げて経済全体の賃金上昇につなげる施策などを提案。財源には、消費税でなく二酸化炭素の排出に課税する「炭素税」の導入などを挙げた。

ユニオンからコメント

政府が平成29年3月14日に開催した経済財政諮問会議に、ノーベル経済学賞を受賞しているスティグリッツ米コロンビア大教授を招いて意見を聞いたというニュースです。

【ご参考】【平成29年3月14日 経済財政諮問会議】首相官邸

【ご参考】【経済財政諮問会議】内閣府

諮問会議でスティグリッツ教授が提言したのは、「経済成長には中間層の所得拡大による格差是正が必要。所得が低いほど負担が重くなる消費税率を引き上げるのは逆効果。格差の拡大は世界的な課題で、低成長を招いている原因。こうした状況に対して金融政策の効果は限界に達している」というものでした。

【ご参考】【ジョセフ・E・スティグリッツ氏提出資料】内閣府(PDF:388KB)

スティグリッツ教授から提出された資料には、次のようなことが書かれています。

  • 「目的はGDPの最大化ではない」
  • 「金融政策は、ほぼ限界に達している」
  • 「金利引下げ(マイナス金利)は大きな効果は持たないだろう」

【ご参考】【アベノミクス 成長戦略で明るい日本に!】首相官邸

「戦後最大の名目GDP600兆円」の実現を目指し、景気回復のために異次元の金融緩和政策を続ける安倍政権を真っ向から否定しているようにも読めます。さらに、「日本の政府債務には多くの人が懸念を持っていて、もし金利が大きく上昇すれば、政府は問題に直面するかもしれない」と、日本の危機までも指摘しています。

ところが、安倍首相は諮問会議の最後で次のように述べました。

「教授からは、所得の公平化、教育・健康・介護サービス部門の強化、イノベーションの促進などに取り組むべきであるというメッセージをいただきました」
「こうした教授の御意見は、今、我々がアベノミクスの第2ステージとして進めている政策の考え方と相通ずるものがあると感じます」

微妙なズレが生じているとの印象を受けます。まるで「話しがかみ合っていない」ようにも思えますが、それには狙いがあったようです。

【スティグリッツ氏「持続的成長へ所得分配重視すべき」】

政府は14日の経済財政諮問会議に米コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授を招き、日本の経済財政運営の課題を議論した。同氏は経済を持続的に成長させていくために所得の分配を重視すべきだと訴えた。同氏の主張に対し、首相は「アベノミクスの第2ステージとして進めている政策の考え方と相通じるものがある」と応じた。
ノーベル経済学賞受賞者から政権が掲げる「成長と分配の好循環」にお墨付きを得たと示す狙いがある。(2017年3月15日 日本経済新聞)

今回、スティグリッツ教授の提言にある「適切な労働(decent work)に適切な賃金」こそが、同一労働同一賃金の目指すべき姿なのかもしれません。ディーセント・ワーク(decent work)とは、「働きがいのある人間らしい仕事」のことです。

【ご参考】【教えて!働き方改革】

安倍首相の目指している「働き方改革」は、トリクルダウンの発想に基づいています。トリクルダウン理論は、所得再分配理論の一つです。スティグリッツ教授の「再分配のみに依存し、労働を考慮しないシステムは受け入れられるものと見なされない」という指摘について、真摯に受け止め深く研究されるべきでしょう。

また、「多様で柔軟なはたらき方」の議論だけにのめり込むのではなく、スティグリッツ教授が指摘する「労働組合・労働者の交渉力の強化」についても、先入観を捨て、提言の根拠や効果が分析・考証されることに期待しています。

最後に、スティグリッツ教授の受賞から7年後の、2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大学教授がNYタイムズに寄稿したコラムを紹介します。

【政権に蔓延するうそ 誰がトランプ氏を止める?】

― いまやトランプ政権の幹部の中で、宣誓した上でついたうそがばれていない人を数える方が、ばれた人を数えるより早い。偶然に起こったことではない。
― かつて、米国の政治文化の批評家たちは、政治家が常に情報を操作していることを糾弾したものだった。それには根拠があった。政治家たちは、やっかいな事実を軽く扱い、自らの行動を実際よりはるかに良く見せることが当たり前になっていた。
―だが、情報操作の時代は終わったことが明らかになっている。代わって、露骨で恥知らずな欺瞞(ぎまん)の時代になった。
― もちろん、うその蔓延(まんえん)には、トップに立つ男の性格が反映している。
― これまで、どの大統領も、あるいはどんな主要政治家も、ドナルド・トランプ氏ほど自由にかつしょっちゅう、うそをついたことはない。
― 重要なのは、「政治家はいままでいつもうそをついていたし、これからもずっとそうだろう」などと、冷笑するだけで済まさないことだ。
― ここで問われるのは、いったいだれが彼を止めるのか、という点だ。現在の選挙制度の状況では、本選挙が多くの政治家にとってあまり意味を持たなくなっている。
― 演説内容は、うそとひどい政策提案だらけだった。それがプロンプターに映し出され、落ち着いた口調で読み上げられると、だれもが突然、「うそつき長官」を「大統領にふさわしい」と断言するようになった。(2017年3月10日 朝日新聞)

出典元:東京新聞・首相官邸・内閣府・日本経済新聞・朝日新聞