【ヤマト、賃金未払い総額数百億円の可能性も 社員7万人対象に調査】
2017年3月5日
産経新聞
宅配最大手のヤマト運輸が運送業務に従事する約7万人を対象に勤務実態の詳細を調査していることが4日、分かった。勤務時間が会社側の認識よりも多ければ、時間分の賃金を未払い分として支払う方針だ。
インターネット通信販売の普及などで宅配便の荷物個数が急増し、トラックドライバーを中心に長時間労働が慢性化しており、現場の労働環境の改善を進める。支給額は、1人100万円程度になるケースもあるとみられ、総額は数百億円に達する可能性もある。ヤマト運輸はまた、労働環境改善の一環として、退職したOB社員を再雇用することで集配拠点の管理職を増やす検討にも入った。
調査対象は、ヤマト運輸で宅配をするトラックドライバー、営業所の事務職員や、運送業務に関わるグループ会社の社員。働き方改革の一環として2月から調査を始めた。
事業所に設置したタイムカードや、ドライバーなどの配達員が業務で持ち歩くオンライン携帯端末の起動時間などを基に労働時間を管理しているが、端末の電源を切った状態での業務などがなかったかどうか、社員などに聞き取り調査を実施する。早ければ月内に事業所ごとに報告をとりまとめる。
ヤマト運輸は昨年8月、30代の元ドライバー2人に未払い賃金があったとして、2人が勤めていた神奈川県内の店舗が、横浜北労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受けており、係争中。ただ、同社は労使交渉などで労働環境の改善を急いでおり、是正勧告も受けて勤務実態の解明が急務と判断した。
労働環境の改善に向け、ヤマト運輸は正社員の労働時間の年間目標を引き下げる方針を固めている。宅配便サービスの内容についても、正午から午後2時の時間帯指定の配達を中止することや、午後9時までとしている夜の配達時間を早めに切り上げる案などを検討している。
ユニオンからコメント
ヤマト運輸が約7万人の従業員の勤務実態を調査していることがわかったというニュースです。労働基準監督署から是正勧告を受けたこともあり、未払い賃料が数100億円規模に上る可能性もあると報じています。
ヤマト運輸は、慢性化している長時間労働の環境改善を目指し「働き方改革の一環」として調査を始めたとしていますが、結果によっては従業員が「数100億円分、ただ働き」させられていたことになります。つまり、決して前向きなニュースではなく、前代未聞の組織的な賃金未払い事件が行われていた、に過ぎません。
労働基準法第37条は、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働者を勤務させた場合、割り増しした残業代を支払うことを義務付けています。時効である2年前までさかのぼって請求できますから、このような莫大な金額になる可能性を指摘されています。
【ヤマト運輸支店、残業代不払い 労基署が是正勧告】
横浜市にあるヤマト運輸の事業所が残業代の不払いなどによる労働基準法違反で横浜北労働基準監督署から8月に是正勧告を受けていたことが16日、分かった。弁護士によると、神奈川平川町支店のドライバー2人は配送業務で使う端末の稼働時間を労働時間として所長に提出。しかし配送業務終了後も、顧客データをパソコンに入力したり、報告書を作成したりしていた。このため端末の稼働時間と実際の勤務時間が月30時間以上違う時があり、一部について残業代の不払いが認定された。ヤマト運輸の広報担当者は「事実関係を確認中」としている。(2016年11月17日 日本経済新聞)
これまでにも、ヤマト運輸の長時間労働について、いくつかの事件が報道されています。
【ヤマト運輸社員自殺で提訴 遺族「長時間労働が原因」】
ヤマト運輸(東京)の支店長だった仙台市の男性(当時47)が自殺したのは、長時間労働と上司のパワハラが原因だとして、妻と子供らが、会社と上司に計約8500万円の損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こしたことが20日、分かった。
訴状によると男性は平成26年3月、仙台市内の支店に赴任。人員不足を訴えても補充は認められず、支店長でありながらドライバーとしても働き、月の時間外労働が100時間を超えた。さらに、上司に怒鳴られるなどのパワハラを頻繁に受けたとしている。男性は約3カ月後に練炭自殺しているのが見つかった。仙台労働基準監督署は「業務による強い心理的負荷によって発症したうつ病で自死に至った」と判断し、27年6月に労災と認定したという。(2016年6月21日 産経新聞)
【ヤマト運輸社員の過労死を認定 長時間労働で労基署 】
昨年8月に死亡したヤマト運輸の営業担当の男性(当時47)について、船橋労働基準監督署(千葉県船橋市)が、長時間労働による過労が原因として労災認定したことが21日、分かった。遺族側の弁護士が明らかにした。認定は13日付。
弁護士や労基署の認定によると、男性は昨年4月、同社の船橋主管支店(同市)に配属され、管轄する営業所全体の営業責任者となった。くも膜下出血で死亡する直前の3カ月間は、時間外労働が1カ月で86~110時間に及んでいたという。ヤマト運輸は「事実関係を確認中でコメントできない」としている。(2012年9月21日 日本経済新聞)
ヤマト運輸の親会社である、ヤマトホールディングス山内雅喜社長は、平成28年1月から、働き方改革を議論している「働き方の未来2035」懇談会メンバーに名を連ねています。
【ご参考】【「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会メンバー】厚生労働省
2016年4月1日に開催された第5回懇談会で、山内氏は次のように語っています。
「製品がないがゆえに、私どもの場合はお伺いしているセールスドライバーが、ある意味商品ということになるわけです。従って、人の重要性が非常に出ます。」
「正直、お客様に相対してお客様が喜んでくれることを嬉しいと思えない社員、効率重視で面倒くさいとか、人と相対するのがおっくうだ、というような社員は弊社では続きません。辞めていってしまいます。」
「「ヤマトは我なり」という全員経営の考え方。サービスが先、利益は後という考え方。会社として法を遵守し、正しい姿勢として会社はあるべきなのだという、コンプライアンスの姿勢。これを徹底しております。」
きっかけが「働き方改革」議論の盛り上がり、世間の関心の高まりだったとしても、自らが積極的に「労働環境の改善に取り組む」ことは評価できます。特に、ヤマト運輸は「働き方改革」の旗振り役の1社です。「もう少し早く対処していれば、社員の命を失わずに済んだかもしれない」との猛省の上に立ち、自社の経験が多くの会社に活かされるような、一歩先を行く「働きやすい職場作り」へ、改革の旗手となられることを願っています。
出典元:産経新聞・日本経済新聞・厚生労働省