【解雇の金銭解決制度 厚労省、4案示す 有識者検討会】
2017年3月4日
毎日新聞
裁判で「解雇無効」などとされた労働者に対し、企業が一定の金額を支払うことで解雇できるようにする「解雇の金銭解決制度」について、厚生労働省は3日、四つの案を有識者検討会に示した。検討会はこれを基に議論を進めるが、労働者側は「不当な解雇を拡大しかねない」と猛反発している。
同制度は解雇を巡る紛争の早期解決を目的に2003年と05年に検討されたが、「金さえ払えば従業員の首を切れる」との批判が強く、見送られた。
今回提示されたのは、判決が解雇権乱用などを認めたケースで労働者が使用者側に金銭支払いを請求できる新しい権利を創設するなどの案。使用者からの申し立ても認める案についても議論する。いずれも新しい法制定が必要となる。
ユニオンからコメント
解雇のトラブルを金銭で解決する制度を議論している厚生労働省の検討会で、具体的な案が示されたというニュースです。
【ご参考】【透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会】厚生労働省
解雇の金銭解決制度導入を巡っては、これまでと同じように(労・使)の意見に大きな隔たりがあります。厚生労働省は、解雇された社員の権利を設ける案を盛り込むなどしていますが、労働組合側は解雇の助長につながるとして導入に強く反発しています。
【ご参考】【解雇の金銭解決制度は必要ない!】日本労働組合総連合会
【解雇の金銭解決、議論紛糾 社員の解決金請求権提示】
解雇を巡って起きるトラブルをお金で解決する「解雇の金銭解決制度」を議論する厚生労働省の検討会が3日、開かれた。厚労省が示した新しい金銭解決制度の案は、過去の議論で解決できなかった難点をクリアしようというものだ。
厚労省が考えたのは、出発点から別のコースを作ること。労働者が、職場復帰を求めなくても、お金を求められるようにすることを提案した。
解雇がトラブルになった場合、労働局によるあっせん▽労働審判▽裁判、といった解決方法がある。実際には、判決まで争わず、会社がお金を支払って解決するケースは多い。
それでも金銭解決制度が議論されるのは、経済界や経済学者の一部に、解決金の水準が不透明だという意見が根強いからだ。検討会では、制度導入の是非を巡って意見の隔たりが大きく、議論は進んでいない。
この日の議論でも、労働側からは疑問が噴出。「なぜこんなに大議論して新たな制度を設けなければいけないのか」との反対論も繰り返された。推進派の経済学者が「それでは議論が進まない」と語気を強める場面もあった。
労働側からは「すでにある労働審判制度が十分機能している」「企業がお金を払って解雇することを誘発する」といった反対意見が根強い。(2017年3月4日 朝日新聞)
2016年に、イタリアでは原則として解雇の金銭解決が認められるようになりました。解決金の相場は給与2~24カ月分で、およそ勤続1年につき2カ月分で計算されます。イタリアでも反発は根強く、労働組合「イタリア労働総同盟(CGIL)」は、「不当解雇の金銭解決の撤回」を破棄院(イタリア最高裁)に求めています
もともとイタリアの労働法には、日本と同じような厳しい解雇規制がありました。労働者の解雇は、(倒産等を除いて)原則禁止されていました。解雇が認められない場合も、日本と同じように、解雇が無効となり元の職場に復職することが前提になっていました。
イタリアが解雇規制緩和に踏み切った理由の一つが、「労働者保護は個別企業が面倒をみるのではなく、労働市場全体でみるもの」という考え方です。「解雇規制緩和=労働者保護の弱まり」ですから、労働市場全体で労働者保護が弱まることのない政策を同時に実施することが重要だとしています。具体的には、ハローワーク機能の強化により新規雇用先を探す労働者の支援を手厚くする、失業手当の拡充、労働基準監督署の強化などです。
もちろん、解雇規制が緩和されたからといって、安易な解雇を繰り返す企業は信用を得られません。「使い捨て」のように無用な解雇ばかりしていれば、労働者層の反感を買い、消費者離れや人手不足を起こすでしょう。
日本では終身雇用・年功序列が崩壊しつつあります。有名企業がリストラ・経営統合などのニュースに、誰もが慣れ始めています。さらに、AIの進化など、労働を取り巻く環境が劇的に変化する可能性を否定することはできませんから、現実の問題として、「解雇」そのものがなくなることはありません。
解雇の金銭解決は、賛否を真っ向から対立させる議論です。立場を変えると見方がまったく違って、メリット・デメリットが際立ちますから、感情的な議論になりがちです。例えば、制度を導入するなら、金銭解雇した会社名を公表するなどの乱用防止策や再就職支援・失業保険の拡充がセットで議論されるべきです。導入しないなら、中小企業・非正社員の問題解決や紛争を長期化させないアイデアが議論に必要です。いずれにせよ、労働環境の変化に対応するための議論であるなら、表面的な議論で終わらせないことが大切です。
出典元:毎日新聞・厚生労働省・日本労働組合総連合会・朝日新聞