【契約社員ボーナス、正社員と同方式要求へ KDDI労組】

2017年2月16日
朝日新聞

通信大手KDDIの労働組合は今春闘で、契約社員の一時金(ボーナス)について、正社員と同じように「月給の何カ月分」という形で計算し、正社員と同じ倍率を月給に掛けて支給するよう求める方針を固めた。17日の中央委員会で正式決定し、月内に要求する。

非正社員にはボーナスを支給しない企業がほとんどで、支給しても「寸志」のように一定の低額を支払うケースが多い。労組の中央組織・連合は「大手企業の労組がこうした要求をした例は聞いたことがない」(担当者)としており、異例の労使交渉が注目を集めそうだ。

昨春闘までは、契約社員のボーナスは「支給を求める」とだけ要求し、一定の低額が支給されてきた。実際の支給額は、少なくとも数十万円が支払われる正社員と大きな開きがあった。

こうした交渉を改め、フルタイムの契約社員(約3千人)にも正社員(約8千人)と同じ形でボーナスを支払うよう求める。要求通りに妥結すれば、契約社員にも数十万円のボーナスが支払われる見込みだ。KDDI労組は、2014年以降の春闘で正社員を上回る水準の契約社員のベースアップ(ベア)を獲得した。

ユニオンからコメント

通信大手KDDIの労働組合が、契約社員のボーナスを正社員と同じ形で支給するよう会社に求めることを決めたというニュースです。

連合が「前例がない」と称した異例の要求をKDDI労組が行うのには理由があります。
それは「人手不足」です。携帯電話の販売など契約社員がいなければ仕事が回らず、正社員からも「契約社員の待遇改善が不可欠」という声が出ていました。

KDDIでは、約3千人の契約社員すべてがフルタイムではたらいていて、主にauの携帯電話売り場での接客やコールセンター応対などの業務をしています。docomoやSoftBankとの熾烈な競争を背景に人材確保が難しくなっていて、KDDI労組では2014年から契約社員の待遇改善を会社に要求してきました。

その結果、2014年から毎年、契約社員の賃上げが実行されています。先進的な取り組みとして注目された「勤務間インターバル規制(※終業と始業の間に一定の休息時間を保障する)」も、2012年に導入しています。これは、経営側が、契約社員の待遇改善が必要と考え、長時間労働の是正に積極的に取り組み、労働組合でも残業時間を点検したり現場の声を聞いたりするなど、双方が(はたらきやすい職場)を目指したことで実現しています。

つまり、非正社員の待遇を良くしなければ、人が集まらず職場が機能しなくて、正社員も困る。だから労使が話し合って非正社員の待遇を良くしてきたということです。これは、「働き方改革」が言われる以前から行われていました。会社と労働者が、より(はたらきやすい職場を)との思いを一つにすれば、自然とこういう結果になるという実例です。

政府が「働く人の立場・視点で取り組んで」いる、働き方改革の動向を見てみましょう。

【労使、時間折り合わず 繁忙期1カ月の残業上限】

この日の働き方改革実現会議(議長・安倍晋三首相)で、事務局案をもとに労使の代表らが月あたりの上限についても議論したが、溝は埋まらなかった。政府は働き方改革の実行計画書を3月末にまとめる予定だが、上限規制を計画にどう盛り込むかは不透明だ。

「労使が合意を形成していただかなければ、(上限規制の)法案は出せない。実行計画決定まであとひと月強。胸襟を開いての責任ある議論を、労使双方にお願いしたい」。安倍首相は会議の終盤で、語気を強めて異例の注文をつけた。
「首相の発言はしっかり受け止めていくべきだ。合意形成に努めていきたい」(連合の神津里季生会長)
「首相の意向も踏まえて協議する必要がある」(経団連の榊原定征会長)

会議後、労使の代表はともに歩み寄りの必要性を示したが、短期間で隔たりを埋める道筋は見通せない。政府関係者は「ここでまとまらないなら、この話はなかったことになる」と危機感を募らせる。(2017年2月15日 朝日新聞)

はたらきやすい職場作りに、首相の意向が不要であることはKDDIのケースからも明らかです。言い換えると「あと1か月で決めないと政権の実績にならないから早くしろ」ということですから、働き方改革が「働かせ方改革」に変化した瞬間ともいえます。

経団連や連合のトップにまで上り詰めた両者は、常識ある大人ですから、時の最高権力者から語気強く迫られれば、反論はできません。再発防止に向けた内容を深めるより、期限を守ることを優先させるでしょう。

電通で起きた事件を経営側の視点から見ると、「数億円の賠償金を支払い、世界的企業のトップのクビが飛び、連なる管理職が処分され、社会的信用が地に堕ちた」事件です。このニュースに触れた経営者なら、「誰に言われなくても」防止策の検討を始めるはずです。

例えば、電通では1991年にも社員の過労自殺事件があり、およそ1億7000万円を支払って和解しています。その電通が、「なぜ再発を防げなかったのか」という検証すらされていない残業時間の上限規制では、再発を防げない可能性が残ります。

このような事件の再発防止を願わない会社はありませんし、はたらく側も思いは同じです。「これまで多くの人が過労死してきた。それでも会社は過重労働させている」「このままではいつまでたっても事件がなくならない」そう感じています。つまり、労使のどちら側も「待ったなし」の問題と捉えています。大切なのは、同じような事件が起こらないことであって、法案提出の期限に間に合わせることではありません。

事件がきっかけになっていることは残念ですが、世間の関心が高く「やっと機が熟した」といえる議論です。「残業時間の上限を規制すれば十分なのか」「時間だけでなく質の問題や、パワハラ防止を同時に対策すべきではないか」「過労死防止法やストレスチェック制度の併用で、さらに効果的な対策はないのか」など本格的な議論をするチャンスでした。

安倍首相が語気を強めれば、議論の打ち切りを迫っているように見えてしまいます。これから働き方改革で議論されるであろう在宅勤務の広がりなどは、本格化する精神障害者雇用の職場定着の妙案の一つになり得ると期待を寄せていますが、一抹の不安を感じます。

働き方改革が労働者のものでなければ、私たちはどうすればいいのでしょう。やはり、「自分の身は自分で守る」という意識を持つことが大切です。心身の健康についてはもちろん、労働を取り巻く法律を知る、健康や法律に無関心にならない心構えが重要です。

「労働=契約」です。ほとんどの人が、どのような契約でも契約書を確認しているはずです。それは労働についても同じでなければいけません。労働契約・労働条件・就業規則を熟読して理解し、取り巻く法律を知らなければ自分の身を守ることはできないのです。

さて、現在開かれている通常国会では、成人年齢を18才に引き下げる民法の改正についても議論されています。これまで、アメリカを始めドイツやオーストラリアなど多くの国々で、成年年齢の18歳引き下げと徴兵制はセットで扱われてきました。

【ご参考】【近年成年年齢の引下げを行った主な国】法務省(PDF:124KB)

働き方改革の(残業時間規制)のあおりで収入が減り、(同一労働同一賃金)のせいで失業率が高くなった。(高齢者や女性)ばかり働きやすくなったので、仕事に就けない。そんな若者の受け皿が自衛隊しかなかった。働き方改革が、そのような「最大のチャレンジ」に変質してしまわないよう、誰もがしっかり見届けていく必要があります。

出典元:朝日新聞・法務省