【障害者を最低賃金下回り働かせた疑いで書類送検】

2017年1月25日
NHK社会部

知的障害のある従業員3人を、最低賃金を大きく下回る給料で住み込みで働かせていたとして、労働基準監督署は東京のクリーニング会社を最低賃金法違反などの疑いで書類送検しました。
書類送検されたのは、東京・八王子市のクリーニング会社「伸光舎」と、81歳の会長、41歳の社長の2人です。

八王子労働基準監督署によりますと、この会社はおととし8月、知的障害のある従業員3人を最低賃金を大きく下回る給料で働かせていたとして、最低賃金法違反などの疑いが持たれています。

当時の東京の最低賃金は時給888円で、フルタイムで働いた場合の1週間の賃金は3万5000円余りでしたが、3人は住み込みで1週間に40時間以上工場で仕事をしていたのに、週に2000円から4000円しか支払われていなかったということです。
3人の賃金は時給に換算すると50円から100円ほどだったということです。

労働基準監督署の調査に対し、会社は当初「請負契約をしている」とうその説明をしていたということで、労働基準監督署は悪質なケースだとして、25日、書類送検しました。

NHKの取材に対し、会長は「3人は20年以上前に福祉施設から実習のために預かり、食費や医療費などの生活費は自分が負担してきた。こうした部分への考慮が全くなされていない」と話しています。

■障害者虐待防止法の「経済的虐待」にも

障害のある人を最低賃金より安い賃金で働かせたり賃金を支払わなかったりすることは、「経済的虐待」として、障害者虐待防止法で禁止されています。

厚生労働省によりますと、虐待には「経済的虐待」のほか、「身体的虐待」「心理的虐待」などがありますが、家庭や職場などで虐待を受けた障害者は、昨年度、全国で3100人余りと、平成24年に統計を取り始めて以降、最も多くなり、中でも「経済的虐待」が35%と最も多くなったということです。

また、厚生労働省が昨年度、障害者への虐待の情報が寄せられた全国1325の事業所を調査したところ、およそ3分の1に当たる420の事業所で、合わせて855人に対し「経済的虐待」が行われていたということです。

420の事業所のうち7割近くに当たる293か所が、従業員30人未満の小規模な事業所だったということで、厚生労働省は、こうした事業所を中心に指導を徹底していくことにしています。

ユニオンからコメント

時給50~100円で知的障害者をはたらかせていたクリーニング会社(東京都八王子市)の経営者が書類送検されたというニュースです。

最低賃金は会社も労働者も守らなければならない法律ですから、「20年以上預かり、生活の面倒を見てきた」という経営者の言い訳はまったく通用しません。

【ご参考】【最低賃金について】ソーシャルハートフルユニオン

今回のように最低賃金を大幅に下回る給料ではたらかせることは、報道が指摘しているように、最低賃金法違反のみならず障害者虐待防止法に違反する卑劣な犯罪行為です。
ここ数年、障害者差別や虐待を禁止する法律は数多く施行されてきましたが、このような事件がなかなか跡を絶ちません。

昨年、「障害者と最低賃金」について、実態を知りたいという新聞社からの取材を受けました。記者が話す事実、そしてソーシャルハートフルユニオンに寄せられる相談からも、報道された事件は「氷山の一角」だと言わざるを得ません。

このような事件が起こる背景には、平成25年4月1日に施行された「障害者優先調達法」が影響しているのではないか、法律が正しく運用されていないのでないか、そんな疑念を抱いてしまいます。

障害者優先調達法とは、「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律」といい、障害者就労施設や障害者を多数雇用している会社に、「受注の機会を確保し、障害者施設等が供給する物品・サービスに対する需要の増進を図る」ことを目的に作らました。

つまり、「障害者を多く雇用している会社には、国が優先的に仕事を発注する」ということです。特に恩恵を受けやすい業種が、印刷会社・クリーニング会社・清掃会社であることが厚生労働省の公表しているデータからわかります。

【ご参考】【平成27年度国等による障害者就労施設等からの物品等の調達実績について】厚生労働省(PDF:228KB)

平成27年度に、3業種(印刷・クリーニング・清掃)に国や市町村が発注した金額はおよそ80億円以上になります。残念ながら、これらの業種に勤めている障害者が被害に遭うケースが多い、というのが実感です。

事実、あるクリーニング会社では、近隣の警察・消防・公立学校などのクリーニングを一手に引き受け、十分に利益を上げていたにも関わらず、雇った障害者に時給100円程度しか支払っていませんでした。
営業努力せずとも仕事はもらえる、他社との競争がないので値下げをする必要もない、そのような恩恵を受け、さらに障害者雇用に関するあらゆる助成金を受け取っていました。また、障害者には最低賃金以上を支払ったように書類を偽造し法人税を逃れてもいました。

このケースは、早期にユニオンが介入して解決しましたが、まだ事件として認知されていない会社・障害者は少なくないはずです。法律を際限なく悪用する悪質な事件が表面化しづらいのは、様々な事情を抱えた家庭の弱みに付け込んでいるからとも考えられます。

「文句を言うならうちでは面倒みない」そう言われたら困るからと、泣き寝入りしている家庭が少なくありません。事件を根絶するには、今以上に法律を厳罰化するなどの対策が必要です。そして、私たちには「見て見ぬふりをしない」ことが求められています。

出典元:NHK社会部・厚生労働省