【復職の職員自殺で和解=東久留米、うつ病支援改善-東京地裁支部】

2016年12月15日
時事通信

うつ病で2年間休職した後、復職訓練中に自殺した東京都東久留米市の男性職員(当時43 )の遺族が、自殺は上司の配慮に欠けた言動が原因だとして、市に3000万円の損害賠償を求めた訴訟は15日、東京地裁立川支部(瀬戸口壮夫裁判長)で和解が成立した。

遺族側によると、市側は解決金1500万円を支払うほか、精神疾患で休職した職員に対する復職支援態勢の改善を約束したという。

訴状によると、市立学校の給食職員だった男性は、職場の人間関係などからうつ病と診断され、2011年から2年間休職。13年5月から復職に向け徐々に出勤時間を延ばすなどの訓練を行っていたが、上司から「もう出勤しなくてよい」「引受先がなければ勤務先はない」などと言われ、同年8月に自殺した。

自殺前に男性から相談を受けた保健師は、上司の発言はパワハラに当たると市側に報告。病状の悪化も伝えたが、適切な対応は取られなかった。和解成立後に記者会見した妻は「二度とこのようなことが起きないことを願っている」と話した。

ユニオンからコメント

うつ病で休職していた職員が自殺したのは上司のパワハラが原因だ、として訴えた裁判の和解が成立したというニュースです。和解が成立したことを受けて、市長は「ご本人はもとより、ご遺族の皆さまに深くお詫び申し上げる」とコメントしています。

電通の過労自殺事件に関して労基署に提出された書面の中でも、靴の中にビールを注いで「飲め」と言われた、上司が「髪の毛がボサボサだ」と言った、などの「人格を否定する」ようなパワハラ行為が確認されています。

ソーシャルハートフルユニオンに寄せられる相談には、休職や復職に関する内容が少なくありません。その相談を受けていると、「もう会社に来ないでください」「復職しても仕事はありません」そう言われた経験のある人がとても多いのだと実感できます。

市と和解したニュースでは、これらの言葉を「上司の配慮に欠けた言動」としてパワハラが認定されました。障害者が安心してはたらくためには、パワハラ被害に遭わない対策、被害を受けたときの対処について考え意識しておくことは重要です。
パワハラが争われたニュースをいくつか見てみましょう。

【自死の非常勤職員、労災求め遺族提訴】
非常勤(嘱託)職員の娘が自ら命を絶ったのは、パワハラや不適切な労務管理が原因と考える両親が元勤務先の自治体に損害賠償を求め提訴する。亡くなった女性は2012年4月、北九州市の非常勤職員になり、採用から9カ月後の13年1月、心身の不調を訴えて休職。うつ病と診断され、3月末に退職した。15年5月21日、多量の抗うつ剤や睡眠導入剤を飲んだあとに亡くなった。メールなどをもとに、日常的に上司から叱責や嫌がらせを受けたと判断。(2016年12月13日 朝日新聞)

【三菱電機31歳男性の労災認定 違法残業で適応障害に】
入社2年目の三菱電機の男性(31)が違法な長時間残業を強いられて適応障害を発症したとして、神奈川労働局藤沢労働基準監督署が24日、労災と認定した。男性は本当の残業時間を申告した先輩社員が上司に叱責される場面を目撃したり、上司から「言われたことしかできないのか。お前は俺が『死ね』と言ったら死ぬのか」とパワハラを受けていた。(2016年11月25日 毎日新聞)

【前秩父署長がパワハラ=部下自殺との因果関係認定 遺族に謝罪】
埼玉県警は21日、7月に自殺した県警秩父署の元地域課長の男性(当時52)にパワハラ行為を繰り返したとして、同署の前署長を戒告の懲戒処分とした。県警はパワハラと自殺の因果関係を認め、同日までに男性の遺族に謝罪。元課長は7月10日、自宅で首をつっているのを帰宅した妻に発見された。県警によると、前署長は3月下旬~7月上旬ごろの間、元課長を大声で感情的に叱責したり、決裁を拒否したりするなどして、元課長に精神的苦痛を与えた。(2016年10月21日 時事通信)

【消防士首つり自殺で労災申請 遺族「パワハラが原因」】
山形県の酒田地区広域行政組合消防本部に所属していた男性消防士(当時20)が自殺したのは上司のパワハラが原因として、遺族が地方公務員災害補償基金に労災申請していたことが4日、分かった。遺族らによると、男性は平成26年6月、同県庄内町の河川敷で首をつっているのが見つかり、遺書に「(消防本部に)迷惑を掛けてまで生きる価値はない」との趣旨の記載があった。遺族は訓練中に上司が「辞めろ」と怒鳴ったことなどが原因と訴えている。(2016年8月4日 産経新聞)

【十六銀社員の自殺は「パワハラ原因」 労災認定求め提訴】
十六銀行(岐阜市)の新入社員の男性(当時25)が自殺したのは過労とパワーハラスメントが原因だとして、男性の父親が労災保険の不支給処分の取り消しを国に求めて名古屋地裁に提訴した。訴状によると、2011年4月に入行した男性は、岐阜県内の支店へ配属後、内規などに反して窓口や融資業務を任せられ、同年8月には上司から「幼稚園児か」などと罵倒された。男性は同年12月に自殺した。(2016年5月25日 朝日新聞)

実は、パワハラに関する法的な根拠は明確ではありません。セクハラが「男女雇用機会均等法」で明文化され禁止されているのと違って、パワハラを禁止する明確な法律は存在していません。そのため、パワハラを違法行為とする根拠は、労働契約法第5条「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」に基づき、会社が従業員に対して(安全配慮義務・就業環境・職場環境調整義務)を負うためとされています。

パワハラとは、一般的に「職場において、職務上の地位や影響力に基づき、相手の人格や尊厳を侵害する言動を行うことにより、その人や周囲の人に身体的・精神的な苦痛を与え、その就業環境を悪化させること」とされています。

法律に明文化されていませんが、これまで裁判所が示した「パワハラ行為」の見解がありますので、過去の裁判例から自分のケースがそれらに該当するのかを見つけていくことになります。

【ご参考】【明るい職場応援団】厚生労働省

過去、東証一部上場企業を対象に行われた調査では43%の企業が「パワハラ」あるいはこれに類似した問題が発生したことがあると回答しています。また、82%の企業が「パワハラ」対策は経営上の重要な課題であると回答しました。

各都道府県の労働局に寄せられる「職場のいじめ・嫌がらせ」に関する相談が年々急速に増加し、パワハラに関する訴訟も増えていることから、厚生労働省では対策に取り組んでいます。職場のいじめ・嫌がらせは「一部の限られた人の問題ではなく、誰もが関わりうる可能性がある問題」と捉え、どのような行為がパワハラに該当するかについて検討会を設置して検証しました。

【ご参考】職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告】厚生労働省(PDF:744KB)

パワハラは、大きく分けると次の6種類に分類されます。
①身体的な攻撃(暴行・障害)
②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
③人間関係からの切離し(隔離・仲間外し・無視)
④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強要、仕事の妨害)
⑤過小な要求(能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない)
⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入る)

(身体的な攻撃)とは、蹴られたり、殴られたりすることです。
(精神的な攻撃)は、業務上の注意をされる時に「バカ」などの人格を否定するような言い回しをされること、他の社員の前で必要以上に叱責して恥をかかせる、机をたたく・椅子をける等の威圧、どこの職場からも必要とされていないと言われた、などの行為です。
(人間関係からの切り離し)とは、話しかけても返事をしない、目を合わさない、必要な情報をわざと黙っている、言ってもいない事を「あの人があんな事言ってた」と周りの社員に触れ回り人間関係を悪化させる、ような行為です。
(過大な要求)とは、休日に連絡が入り業務を命令された、不必要な残業を強いられた、
残業しなければできない業務を残業せずに行なえ(サービス残業)と強要する行為です。
(過小な要求)は、労働契約内容にはない雑務(ゴミ捨て・シュレッダーなど)ばかりさせられる、それまで任されていた仕事を取り上げられる、他の社員が残業しているのに一人だけ定時で帰らされる、ような行為です。
(個の侵害)とは、学歴について言われる、結婚しないのかと言われる、懇親会(飲み会)への参加強要、休日の会社行事への参加強要、大勢の前で服装や容姿について悪く言われる、などです。その他、個室に呼ばれ「転職活動して下さい」と告げられた、良いことは全て自分の手柄にして悪いことは全て部下のせいにする、上司がやりたくない面倒な仕事を押し付けてくる、などもパワハラを疑われる行為とされます。

自分がパワハラ被害に遭っているかも知れない、そのようなときは、労基署に相談したり弁護士を依頼したりすることが考えられます。ところが、「労基署・法律事務所に相手にされなかった」との相談が寄せられることが多いのも事実です。実際に、「障害者からの依頼は断る」と言った弁護士がいました。理由は「事実確認が難しく、訴えの信憑性が疑わしい。証人として出廷することに耐えられるか心配」だからだそうです。障害者差別解消法が今年4月に施行されたことで、今後、そのようなケースは少なくなるでしょう。

問題を抱えた人が相談する場所として、「法テラス」を頼る人は少なくありません。
法テラスとは、正式名称を「日本司法支援センター」といい国が運営する組織です。主に、民事法律扶助を行っています。民事法律扶助というのは、弁護士や司法書士を紹介し、無料相談を実施、依頼時に発生する報酬費用を立て替えてくれるといったものです。
詳しくは法テラスのホームページから確認できます。

【ご参考】【日本司法支援センター 法テラス】

法テラスに相談に行っても、何もしてもらえなかった。そう感じた経験のある人は、相談の仕方に工夫が必要です。相談する際の(コツ)があるのです。それが、「証拠と判例」です。つまり、被害を受けた証拠をなるべく多く揃えて「自分のケースは、この判例と似ているのではないか」と持ち掛けることです。

「自分がいかに傷ついたか、会社がどれほどひどいことをしたか」をエピソードとして訴えがちですが、「味方になってください。気持ちをわかってほしい」ではなく、「損害賠償請求できるか聞きたい」「この訴訟を会社に起こしたい」と相談することがポイントです。

法テラスに登録している弁護士が知りたいのは、訴えている内容が「どの法律に違反しているのか」です。解決するためには、当然、相手の会社側から事情を聴くことになりますから、双方が正反対の主張をして対立したときに(判断する材料)があるほうが有利なことは言うまでもありません。

例えば、「障害者だから」ということで最低賃金以下の給料しか支払われていないケースであれば、(給与明細)を証拠にして「最低賃金法に基づく支払命令」や「障害者に対する経済的虐待事件」を訴えることができます。

しかし、「日常的にバカにされている」「一人だけ職場の隅に追いやられている」「仲間外れにされている」「仕事をさせてもらえない」これらをパワハラ被害として訴えるケースになると、事実を裏付ける証拠(録音等)が必要になります。証拠を集めることは非情に難しいのですが、訴えても加害者は認めませんし同僚からの証言が期待できないからです。

このような行為については、障害者虐待防止法が禁じている「心理的虐待」に該当する可能性が高いので、パワハラ被害として争う前に「虐待通報」することも解決方法の一つです。通報は、都道府県や市区町村が設置している障害者虐待防止センターや役所の障害者福祉課で受け付けています。(例:東京都では、福祉保健局のホームページで確認できます)

【ご参考】【使用者による障害者虐待の通報・届出等窓口一覧】東京都福祉保健局

障害者虐待通報についても、証拠の有無で対応が違ってきますが、まずは「虐待が行われた」という前提で調査をすることになっていますので、会社に対して自己反省を促す効果やエスカレートさせない抑止力が期待できます。

出典元:時事通信・厚生労働省