【残業規制「支障なし」45%・・・読売アンケート】

2016年12月6日
読売新聞

政府が働き方改革の一環で検討している残業時間の上限規制について、主要企業の47%が業務への支障を懸念する一方、支障がないと考える企業も45%と意見が拮抗(きっこう)していることが、読売新聞のアンケートでわかった。

調査は、政府が9月に働き方改革実現会議(議長・安倍首相)を設置したことを受け、10~11月に実施。180社のうち143社(79%)が回答した。

現行法では、労使協定を結べば事実上、無制限に残業ができるため、政府は上限を設けたい意向だ。上限規制で「業務に支障が出る可能性があるか」との問いに、「どちらかと言えばそう思う」が36%、「そう思う」が11%、「どちらかと言えばそう思わない」が28%、「そう思わない」が17%だった。

長時間労働を見直す上での課題(複数回答)を集計したところ、「業務量の削減」は、支障を懸念する企業では81%だが、懸念しない企業では63%で18ポイント開いた。「業績を落とさないための取り組み」も、懸念する企業は63%、支障がないとする企業は52%と差がついた。業務量の削減などが進んでいる企業ほど、支障にならないとみているようだ。

「同一労働同一賃金」の導入は、「どちらかと言えば」(55%)を含め「難しい」が66%。その理由は、同じ仕事に見えても、「中長期的な役割や期待」「責任の重さ」「配置転換や転勤など人材活用の仕組み」が違うケースがあるとした企業が、いずれも8割を超えた。

ユニオンからコメント

読売新聞がおこなった「働き方に関するアンケート」の集計結果が公表されました。回答した企業のほとんどが東証1部に上場している有名企業です。長時間労働を見直すためには、経営幹部や管理職の意識改革がカギを握ると考えている企業が多いことがわかった、と報じています。

会社が、長時間労働を減らすために実行している対策は「上司からの声かけ」(81%)が最も多く、具体的には「早く帰るよう促す」「残業の多い従業員に注意する」「定時退社を促す社内放送を流す」となっています。「フレックスタイム制の導入」(77%)、「定時退社、残業禁止日の設定」(75%)と続きます。

この回答から、大手企業のほとんどが「これまで通りの対策しか行っていない」と答えた、と読み取ることができます。長時間労働が、社員を過労死や過労自殺に追い込んでいる主な原因であることに議論の余地はありません。そんな状況のなか「早く帰るように」と部下に言うことで長時間労働の問題は解決するのでしょうか。

労働基準法(労基法)は、週40時間、1日8時間を労働時間の上限と定めています。
これを(法定労働時間)といって、この上限を超えて働かせることは違法です。しかし、労働者の過半数で組織する労働組合(労働組合がない会社は労働者代表)と、労使協定を結んで労働基準監督署に届け出れば、上限を超えて働かせても違法になりません。
労基法の36条が根拠となる労使協定で、(36協定)と呼ばれています。

36協定には、法定労働時間を超える残業を月45時間、年360時間以内にとの「限度基準」がありますが、この基準には強制力がありません。また、建設・運輸・新商品の開発などの仕事は、そもそも基準に対応しなくていいことになっています。
さらに、36協定は「業務が急激に増えたとき」「納期が迫っているとき」といった「特別の事情」があれば、年に6カ月までは上限を完全になくすことができます。つまり、残業時間の上限は事実上存在していないともいえるのです。

「過労死ライン」とされる月80時間を超える時間を、特別条項で、上限として設定している会社も少なくありません。厚生労働省の調査結果によると、36協定がある大企業は94%に上り、その半数以上に特別条項(残業時間45時間超)が設けられていました。

2014年に「過労死等防止対策推進法」が制定されたことを受け、厚生労働省は、長時間労働がなくならない理由(残業が必要になる理由)を調査しています。

【ご参考】【過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業報告書】厚生労働省(PDF:4.2MB)

労働者に対する調査では、(残業が必要になる理由)で最も多かったのは、「人員が足りない(仕事量が多い)」で41.3%。「予定外の仕事が突発的に発生する」「業務の繁閑(はんかん)が激しい」が続いています。

労基法の規定で、法定時間を超えて残業すると割増賃金が支給されることから、「お金が欲しくてダラダラ残業している」と言う経営者も少なくありませんが、「残業手当を増やしたい」という回答は2.2%しかありませんでした。

企業に対する調査でも、「業務量が多い」「人員が不足している」「仕事の繁閑の差が大きい」という回答が多く、最も多かった回答は「顧客(消費者)からの不規則な要望に対応する必要がある」で44.5%でした。つまり、「お客様は神様」という意識が染みついているので長時間労働が改善しない、そう考えている会社が多いことがわかりました。

読売新聞のアンケート結果からは、約半数の会社が「残業時間の上限を規制したくない」と考え、ほとんどの会社が「業務量を減らすと仕事に支障が出る」と考えていて、半数以上の会社が「残業を減らすと業績が落ちる」と考えていることがわかります。

「長時間労働を自慢する社会を変えていく。かつての『モーレツ社員』。そういう考え方が否定される日本にしていきたい」
安倍首相は「働き方改革実現推進室」の開所式で職員たちを前に訓示しました。
しかし、調査結果は、これがいかに難しいことかを浮き彫りにしてしまいました。

「働き方改革」が、耳心地の良いパフォーマンスで終わらず、掲げた理想通りの社会を実現していくためには、意識改革が最優先になります。およそ半数の会社が「残業時間が規制されても問題ない」と答えていますが、その理由が、「規制されても、抜け道はある」であっては意味がありません。法律による規制が(対症療法)ではなく、意識改革という(原因療法)へとつながっていく。その道筋を作っていく知恵と工夫が求められています。

出典元:読売新聞・厚生労働省発表