第3045号【第23回労使紛争・安全配慮】

健常者も配慮の対象
仕組み作って手早く対応

上げた悲鳴を見逃さない

平成25年に北海道の看護師が職場で自身の言語障害を理解されないことを苦に自殺したと報道された。親にすら相談できなかったという。間もなく、インターネット上で病院の実名が暴かれ、誰々のせいで自殺したなどの個人攻撃が行われるなど大変な状況となった。

会社と障害者の間で問題が起きて労使紛争になる場合、「障害者差別」や「障害者虐待」といった刺激的な言葉が付きまとう。早い時期に認識し解決できる体制を構築することが喫緊の課題だといえる。

障害者は必ず、どこかのタイミングで声を上げている。その声に担当者や同僚・上司が気付かず時間が経ってしまい、埋めがたく深い溝を作り、泥沼化している。それと同時に、障害者の病状が悪化していく事例も多い。面接や試用期間などを活用することはもちろん、人事部に相談窓口を設けるなど、就労している障害者が問題を抱えたときに、いち早く対応できるような仕組みを会社独自に作り上げるべきだと思う。早期解決をめざすことは健常者の精神的負担を少なくする効果もある。

障害者雇用促進法第4条では「障害者である労働者は、職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない」と定めている。会社が堂々とこの条項を求めるためには、障害者雇用促進法第5条(事業主の責務)の遵守が必要になる。

取組み姿勢は要周知徹底

「障害者が問題を起こし、対応する周囲が疲れ果てている」と聞くことが増えてきた。企業は、雇用した障害者に合理的配慮を提供しなければ差別になると同時に、健常者に対する心身の安全配慮義務がある。団体交渉などでは、むしろ担当者のほうが精神的に参っているのではないかと感じることも多い。障害者との問題が原因で社員が退職してしまったり、直属上司が精神疾患で休職していたりするという話も聞く。たまたま隣にいた障害者が問題を起こし、参って体調を崩し休職するなど、健常者の職業生活が狂うことも問題になる。上司が「障害者1人をどうにもできなくてどうする」と部下に押し付けるだけの構造もみられる。

障害者専門の労働組合である私どもに無理難題をいってくる障害者も多く、対処に苦慮することも少なくない。これが職場や同僚の関係ならなおさら難題だと思う。会社は障害者雇用全般について見直し、どのような姿勢で取り組んでいくのか周知徹底していく必要がある。障害者・健常者との兼ね合いやメンタルヘルスについて、明確な基準の構築なしには、今後も問題を抱える可能性が高い。

日本が平成26年2月に批准した国連「障害者権利条約」第27条のC項に、「障害者が他の者との平等を基礎として労働及び労働組合についての権利を行使することができることを確保すること」と明記されている。労働組合として活動するなかで、些細なことでも気軽に相談できる窓口があれば深刻な問題にならないことが多いと感じている。働く障害者には掛け捨ての保険に入るような感覚でユニオンに加入することを提案しながら、企業の方からも当組合の存在を障害者に伝えていただけるような活動をめざしている。

出典元:労働新聞 2015年12月21日