第3042号【第20回採用・配置・評価】

給与は明確な基準で
ペーパーテスト用い評価

配置は試行錯誤前提

業種の差はあれ、障害者が短期雇用契約の更新を繰り返すかたちで働く場合、紛争が生じやすい傾向にある。一方で、正社員登用の途があると、紛争が起きても早期解決に至るケースが多い。多くの障害者が、短期雇用に漠然と不安を抱き、正社員登用の基準に曖昧さを感じている。会社も、面倒な障害者を早く切り捨てるための選定目的と疑われかねない。

採用時には、断る目的でないことを明確にしつつ、できることよりできないこと、得意より不得意なことといった、いわばネガティブな情報を聞き出すことが重要である。これまで、多くの企業が「あなたに期待している」といった根拠のない前向きな基準でとりあえず採用してしまい、結果、労使紛争に至っている。障害者手帳の取得に至った病気や退職理由を丁寧に聞き出し、自社の理念や社風の説明を行い、先入観のない採用を心がける必要がある。とくに、長期就労の後に退職している場合や、有名企業が並ぶ華やかな経歴ほど慎重になるべきだ。また、雇用した人の障害特性でできる仕事があるのか丁寧に検討し、業務範囲や必要なスキルを明確にする必要もある。同じ年齢・障害の人を積極的に採用することも有効だ。

配置については、何度も転換が必要になり時間がかかると割り切ったほうが良い。面接時の態度や得た情報をもって最初から過大な期待をしてしまうと、期待どおりの成果が出ないと責めてしまいがちである。また、勘案すべきこととして、OJTなど試用期間中の実施項目、障害特性を知る産業医・ジョブコーチとの連携、障害者職業生活相談員のスキルの向上および家庭環境や就労支援施設などの背景が挙げられる。加えて、健常者の心構えやコミュニケーションの取り方など、受け入れる準備や態勢も整えなければならない。

曖昧さを排除すべし

大卒後、大手企業に20年間勤めた身体障害者(脳性マヒ)は、先日退職した。その間、昇格昇給は一度だけだった。学歴や業務遂行能力も健常者と比べ遜色がなかったため、「障害者であることが理由だったとしか考えられない」と訴えていた。

今後、同様の相談が劇的に増加すると予測している。明確な評価査定基準がないままに、もしくは業務遂行能力が劣っているわけでもないのに正当な評価や査定をしなければ、障害者であること以外に理由を説明できなくなる。賃金上の経済的不利益を取り返して欲しいという相談も増えている。

評価や査定、能力を、健常者をベースに判断すると、不当評価などの人事権濫用に該当するおそれがある。働く障害者は、全般的に自身への評価が不当に低いと感じている。また、健常者との公平性以上に定められた基準に対する公平性に敏感だ。人によって対応が違うと些細なことも納得できない障害者が多い。業務や給与体系が健常者と違う場合、明確な基準を示し、情報を共有し合うことが求められる。「これができたら昇給」などの条件を提示し、評価も、上司の判断など曖昧なものではなく、ペーパーテストのような数値化できるものが望ましい。「雇用した障害者に配慮してあげる」から「障害者を雇用したのだから配慮しなければ差別とみなされる」という意識の変革が必要になる。

出典元:労働新聞 2015年11月30日