第3037号【第15回躁うつ病・双極性障害】

躁状態を抑えるべし
スイッチが入る原因確認

自覚なき躁状態の行動

原因はまだ完全には解明されていないが、医学的には双極性障害患者の約3分の2はうつ病からこの病気になると発表されたことがある。うつ病の精神障害者を雇用したはずがこの病気になっていたというケースでは、企業が対処を間違えていることが非常に多い。

大手都市銀行に勤務する精神障害者A(精神3級)は、「会社から不当に低い評価をされ長年昇給昇格もない。障害を理由とする差別に当たるのではないか」と相談に訪れた。また、Aは部署をたらい回しにされ、最終的に一人部屋に押し込まれたことも訴えていた。

会社からは、彼は同僚の悪口や「上司が不倫している」など根も葉もない噂話をいって回ったり同僚らに対し深夜にまで電話やメールをしつこくしたりしていて、付き合いを避ける同僚に容赦なく攻撃すると説明された。何度面談しても改善せず、退職させるつもりはないが受け入れる部署がないと困惑していた。

独立行政法人で働く精神障害者B(精神3級)は「不当解雇にあった」と相談に来た。彼女自ら「取引先の男性を誘惑してしまい周囲から白い目で見られている。借金の督促電話が会社にきている」など状況を語り、自身にも非があると認めていた。しかし、病気が原因で自覚も記憶もないので、それを理由に契約を切られたのは障害を理由とした差別だと主張していた。家族と話合い要望もあって、会社とは円満退職で合意となった。

緊急時の対応も検討を

この障害は、障害者自身が「発狂」という単語をよく使うのが特徴だ。平常時には「発狂」という言葉を使って躁状態の行動を説明できるように悪いことだと自覚している場合が多いが、なぜそれをしてしまうのか理解も制御もできないため、本人は苦しんでいる。

労使紛争になったとき問題になるのは、躁状態のときの行動に尽きる。双極性障害は躁とうつの状態を繰り返す病気で、躁状態の症状がひどいときには本人に自覚なく周囲に迷惑をかけてしまい、人間関係の破綻が生じてしまう。躁状態の主な特徴として、深夜から早朝時の超長文メールや一日中のお喋り、手当たり次第の電話、浪費、性的逸脱行為などがある。また、躁状態を抑える薬を常用しているとうつ状態が強くなってしまい、減薬しうつ状態から脱出すると強い躁状態になってしまうこともある。

躁状態の自覚や記憶がないために、健常者側からは多重人格にみえてしまい、対処に困惑していると聞く。一方、IQの高い障害者も多くて対話が支離滅裂にならないため、問答が長く続くなどヒアリングが難しい。結果、担当者である健常者が精神的に参ってしまい休職・退職に追い込まれる。

雇用や就労継続においては、薬などで躁状態を抑えられるかがポイントになる。何がスイッチになって躁状態になるのか自覚している人も多いので、その情報を共有できれば、問題行動を回避する方法を障害者と共に考えられる。また、問題行動により深刻な事態が起きた場合も障害者との話合いが肝要である。可能であれば、入社に際して保証人を求めることや医師などの緊急連絡先を聞くこと、懲戒制度の見直しなど企業側の努力を経て、合理的配慮の提供が可能になる。

出典元:労働新聞 2015年10月26日