第3036号【第14回ADHD】

「やれます」には裏が
発言の過信がトラブルに

限界を超えると表面化

ADHDは一般的に、不注意・多動性・衝動性が特徴で、大人になってから診断される人も多い。

総務部に勤務する精神障害者A(精神3級)は、業務を正確にこなし、飲み会にも積極的に参加するなど会社に馴染んでいた。しかし、あるときから職場で暴行されたと警察や救急車を呼んだり、悲鳴をあげて走り回ったりと奇行をとり始め、会社は休職させた。Aはその間も、何度も公的機関に被害を訴えていた。休職期間満了時に復職を拒否され、不当解雇に当たるのではと相談に訪れた。

話を聞くと、実はAはお酒が嫌いだった。社会人として仕方なく参加しており苦痛だったそうだ。酒席で上司に冗談をいわれたのがきっかけで、今までの自分の努力や苦労を踏み躙られたと感じ、会社を攻撃していたと話していた。

精神障害者B(精神3級)は、数年勤務していた会社を自主退職した後、「実は職場でパワハラがあり苦しんでいた。不本意な辞職に追い込まれた」と相談に来た。会社から話を聞くと、Bがどれほど迷惑をかけていたか事細かに説明され困惑した。会社名で勝手に購入した商品を職場の同僚やその実家に届けさせたり、会社を誹謗中傷する手紙を取引先や近隣に送り付けたりしていた。会社はそれらを不問にしており、そのうえBが自主的に退職を申し出てきたのに、いったい会社の何が問題なのかと詰問してきた。

三者で対話し、原因がはっきりとしてきた。会社が、Bを責任者にして小さなプロジェクトを任せたことがきっかけで、Bは、会社には積極的に頑張るといっていたが、心では断りきれず無理やり任されたと感じていたそうだ。

アウトプットに障害が

発達障害者が働くうえで、情報や行動に関する「インプット」と「アウトプット」に障害があるということは前節で述べた。ADHDの場合、「やってはいけないこと」をインプットとして頭で理解しているのにアウトプットでやってしまうことが多い。後悔や反省のなかで日々過ごしているうちに精神的なバランスを崩してしまい、自分の行為が悪いことは理解できるけれど、それをさせているのは会社であり、そのことで不利益変更をされ自身の権利が侵害されていると相談に来るケースがめだつ。職場の健常者からすると、やってはいけないことをあえてする行為や、嫌なことを喜んで引き受けてしまう感覚が理解しがたいと思う。

うつ病など他の精神疾患を併発している場合が数多く、問題が表面化したときには深刻な事態になっていることが非常に多い。同僚らが精神的に参ってしまい、休職・退職している事例が多いのも事実だ。コミュニケーションの障害はさることながら、勤怠不良や顔色の悪さなど少しの外的変化に気付くような工夫が要求される。難しい障害という情報を共有し、本人の小さな変化に会社が先に気付けるような配慮が必要とされる。

この障害でも、周囲が障害者であることを忘れ、認知していない事例が多い。腫れ物にさわるような対応をせず、障害の特性を健常者目線で捉えないで理解と配慮を検討することが重要だ。また、一度問題が起きると自責の念の強さから復職が難しいこともあり、退職などの対応が必要にもなる。

出典元:労働新聞 2015年10月19日