第3033号【第11回 うつ病①】

症状は大きく2種類
タイプを見極め対応して

配慮し過ぎ・しなさ過ぎ

大手企業に就職した精神障害者A(精神3級・うつ病・適応障害)は、入社して間もなく、同僚らと事あるごとに対立するようになった。本社や取引先に告発文を送ったり、人権擁護委員会に障害者虐待事件として告発したりしていた。「会社が合理的配慮を提供していない。心理的虐待を受けており、辛くて普通に働けない」と相談にきた。

会社と話し合って理由が判明した。Aは著しい勤怠不良であったものの、「無理しないで」などと会社が厳しく対処できずにいた。ところが、実のところ本人は退職を希望していた。その後の話し合いを経て、円滑に退職となった。

もともと仕事熱心ではなく、ルールをストレスと感じるタイプのうつ病では、現実逃避や無気力が特徴である。自己への愛着や万能感が強い。一方で規則への否定的感情が強いため、他者への非難に向くことがある。常に倦怠感に悩まされ、衝動的な自傷行為などを起こす場合もある。

大手メーカーに勤務する精神障害者B(精神3級・うつ病・不安障害)は、不眠に悩まされ、睡眠薬を常用していた。普段は問題なく過ごしていて周囲が精神障害者であるのを忘れてしまうほどだったが、あるときから遅刻が多くなった。会社が心配し休職を勧めたものの、Bは拒否。数日後に睡眠薬を大量に服用して自殺未遂を図り、回復した後に自ら退職を申し出た。私どもには「パワハラにより失職したことは労災ではないのか」と相談に訪れた。

Bは、会社が休職を提案したことを退職勧奨と感じてしまい、それで「無理をしてでも働かなければ」と追い詰められていた。会社もBの「大丈夫だ」という言葉を過信してしまっていた。会社が勧めた休職に退職勧奨の意図がないことを確認し、私どもが丁寧に説明することで、Bも納得して休職を受け入れ、現在は復帰に向けて治療に専念している。

仕事熱心で生真面目な性格の人がうつ病になると、焦りと我慢から無理をしがちである。責任感が強く几帳面な性格がゆえに極端に疲れてしまって周囲に申し訳なさを感じ、場合によっては完遂しかねない計画的な自殺を図るケースが存在する。

外へ向くか内へ向くか

働くうえで問題になるうつ病のタイプは、大きく分けると2種類ある。医学的には、ディスチミア親和型うつ病とメランコリー親和型うつ病と呼ばれるものである。

前者は、周囲から怠けているとみられてしまうタイプで、訴えがときに幼稚で、「何もせずに給料だけもらいたい」と主張しているように感じられる。虐言を伴う他者攻撃も多く、常識的なコミュニケーションも難しい。そのため、担当者が面倒に思う頃には、障害者が体調を崩し出社しなくなるケースが非常に多い。抗うつ剤などを多量に処方されている事例が多く、不必要に常用している場合には副作用の問題も深刻だ。一度問題に発展すると加速度的に障害者の被害者意識が強くなり、現実からかい離し争点が曖昧になって解決から遠ざかっていってしまう。

後者は、責任感が強く生真面目な人が自身を追い込むタイプである。現在と本当の自分が一致せず、周囲に申し訳なさを感じている場合が多いのが特徴だ。気付かれないよう振る舞いながらも、実際は症状が悪化していっている。

出典元:労働新聞 2015年9月28日