第3032号【第10回 精神障害(全般)】

診断書みて症状確認
入社時が最高の健康状態

専門家でも判別が困難

厚生労働省指針例―出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること―

厚生労働省によると、平成26年度に就職した精神障害者の数は3万4538人と前年度より17.5%増加している。平成30年に施行される改正障害者雇用促進法に向け、精神障害者雇用は避けて通れないと捉える企業も多いのではないだろうか。

精神障害者雇用の全般的な課題としては2点、「コミュニケーションの障害」と「配慮の難しさ」が挙げられる。いずれの障害でも適切な意思疎通を図る難しさは際立っており、病名が同じでも症状や障害特性は千差万別なために必要な配慮を判断しにくい。精神科医でも病名の診断が困難であり、様ざまな症例を自閉スペクトラム症と一括りにするほどである。

私どもでは、障害者手帳申請時に提出している診断書を、本人の同意を得て提出してもらい、医師の所見欄に目を通すよう会社側に提案している。そこに書かれた障害特性を知ることで、配置や配慮が適切に行われると考える。

労使紛争にまで至った精神障害者に共通する点としては、障害者の「皆が自分を笑いものにしている」といった被害妄想的な思い込み、周囲への依存性や攻撃性、他傷・自傷行為などがある。担当者からは「手に負えない」という叫びを聞くことが多い。

現状、会社側の対応は、不勉強や無理解から過剰に配慮してしまっている場合と、対応が分からずまったく配慮していない場合の両極端になっている。通勤や体調などへの過度の配慮の結果、会社に来なくなってしまった事例も多い。また、同僚が、精神障害者という言葉の持つおどろおどろしい響きから性格異常者のイメージを持ってしまい、差別してしまっているケースもある。

解決策は双方手探りで

現在、多くの企業が従業員のメンタルヘルス問題に積極的に取り組み、精神疾患への関心は高くなっている。平成23年、ドイツのフォルクスワーゲン社では、従業員のうつ病対策として、会社と労働組合で話し合い、業務時間外のメールを禁止する「メール停止労使協定」を締結した。もっともこの場合は”健常者の従業員が精神疾患を罹患した場合にどうするか”という視点であり、精神障害者手帳を所持する障害者を雇用する際の対応にはまた違った種類のものが要求される。しかし、このように、企業が試行錯誤を重ねて様ざまなことに取り組む姿勢が必要だと感じる。

雇い入れた精神障害者のメンタルヘルスへの配慮は、ほぼ健常者と同様の扱いとなる。また、言動や行動が障害によるものか個性や性格によるものかの境界線が曖昧で対応が難しいのが、この障害だ。障害を修正させようとすれば差別になるが、性格なら注意する必要もある。双方が手探りで取り組みつつ、企業が独自のマニュアル作りを模索していくことしかできないのが実情だと感じている。

精神障害者全体に共通していることとして、入社時が最高の健康状態であることが多く、採用時の面談や相互理解が非常に重要となる。また、健常者である従業員がうつ病等の疾患で長期休職する問題も深刻化しているが、その対応は精神障害者雇用全般に通じるものが多い。

出典元:労働新聞 2015年9月21日