第3025号【第3回 知的障害①先天性】

変化少ない環境に
意思表示の方法確認して

暴力・自傷に走る表現

厚生労働省指針例―本人の習熟度に応じて業務量を徐々に増やしていくこと―

知的障害者(ダウン症患者)にも選挙権をとの声が高まり、最高裁で違憲判決が下されて平成25年5月に公職選挙法が改正された。また、最近では障害者施設での虐待映像が繰り返しテレビで放映され、知的障害者の人権について、社会からより厳しい目が向くようになった。

冒頭にある厚労省指針例に加えて、労働契約法上の労働者と捉え接することが今後は重要になる。しかし、現実問題として医療的・福祉的性格がつきまとうことは避けられない。労働契約の理解度や保護者・支援学校との関わり方など健常者とは異なる課題がある。

一般企業で就労する知的障害者(先天性・原因不明)は、清掃業務に長年従事していた。黙々と作業する姿は会社の評価も高い。

しかし、会社が本人の希望を聞いて別の業務を任せたところ、新しい職場のパート従業員と折り合いが悪くなり、暴力事件を起こして解雇されてしまった。この障害者は「職場でいじめられており、防衛のため仕方がなかった」と主張。両親から「不当解雇ではないのか」と相談があった。

次のようなケースもある。大手企業で製造業務に就労していた知的障害者(先天性・小児てんかん)は、細かい作業を正確にこなしており、指示なしには休憩もとらず作業を続ける働き者だった。

あるとき、工場内で立ち入りを禁じられている場所に人がいた。同障害者が注意するつもりで強く引っ張ったところ、相手が暴行を受けたと騒ぎだして問題になった。その場は収めたものの、この障害者は数週間後から自傷行為を繰り返すようになった。さらには飛び降り騒ぎをおこして警察沙汰にもなり、「どうすればいいのか」と相談を受けた。

家族との面談で情報収集

知的障害者と一言でいっても、自閉症傾向など症状は様ざまだ。

そのなかでも先天的にIQだけが低いために知的障害者と認定されている人たちは、いわゆるサバン症候群(ごく限定的な分野で突出した能力を示す人や症状)のようなケースが多い。機械のごとく作業を正確かつ休憩もとらずに黙々としてくれるという評価を企業の方からよく聞く一方、いつもの流れと違う事態に遭遇すると臨機応変に対応ができないことも特徴だ。電車が遅れると通勤できなくなったり前述のような事態への対応が難しかったりする。

会社がすべてを配慮することは難しい。だが、なるべく人や作業などに変化がない環境をつくることが必要となる。その際、しっかりとしたマニュアルが存在することが大切だ。

効率的で分かりやすいマニュアルを作成している職場では、知的障害者が長期就労して貴重な戦力となっている。

また、知的障害者の多くは、臨機応変に対応できないながらも、抱えた問題に対して何らかのかたちで「NO」の意思を伝えている。残念ながら、その表現方法が暴力行為であったり自傷行為であったりするケースが多い。職場配置や業務への配慮のためにも、家族との面談などで「嫌なことがあるときどう行動して意思を伝えているか」を理解し、職場や担当者で情報を共有することが重要である。

出典元:労働新聞 2015年8月3日