第2970号”損害請求”頻発の恐れを指摘

障害者に対する「合理的配慮」の提供を事業者に義務付けた改正障害者雇用促進法の施行が2年後に迫るなか、企業や団体で働く障害者でつくるソーシャルハートフルユニオンの久保修一書記長は、対応を誤れば、企業に対する損害賠償請求が頻発する恐れがあると指摘する。国が近く示す指針案では、企業に「過重な負担」となる場合に適用免除と扱う予定だが、事実か否かにかかわらず、企業の差別的態度を日記に残されたりすれば反訴できないと警鐘を鳴らす。紛争予防に心掛けるべきだと話している。

<企業が対応誤れば>

-障害者ユニオン・久保書記長-
<「合理的配慮」免除でも>

同ユニオンは、今年2月に東京都労働委員会の資格審査を経て法人登記した労働組合で、障害者手帳を持ち、現に企業や団体で働いているサラリーマンやOL、また働くことを希望する障害者(身体・精神を問わず)約100人が加盟。障害者の権利実現に固執せず、企業と当事者双方のベストプラクティクスをめざして活動している。

久保書記長の指摘によれば、障害者雇用の周辺環境が劇的に変わったにもかかわらず、企業の準備不足が目に余る状況。政府が今年1月、発効から5年越しで批准した障害者権利条約に謳う「合理的配慮義務」に対する企業の考えが軽すぎるとみるもので、国の指針に対応を委ねていては「各地で紛争が頻発しかねない」と訴える。

本誌前号(5月19日付1面)は、厚生労働省が今月中にも改正障害者雇用促進法に基づく指針案を公表し、禁止される差別や合理的配慮の具体像を正式に示すと報じた。

しかし、視診検討メンバーに「働く障害者」は不在で、「企業を含む当事者たちが真に求める仕上がりにはならないのではないか」(同書記長)-

-こう予測する。

すでに明らかな指針の素案は、手すりやスロープの設置をはじめ障害種別に対応の具体像を例示した。これについて同書記長は、「従来から言われるのと何ら変わらない。企業の負担感も、障害者に向けられる精神的しわ寄せも解消されないだろう」と否定的だ。

障害者雇用率が2%に引き上がった今春、ユニオンに寄せられた相談で圧倒的に多かったのが「俺も手帳持っていればよかった」など「同僚からの心ない言葉」で、企業と障害者の間に「共通の言語」がない点をその理由に挙げた。

つまり、障害者が真に求める配慮と企業の負担を調整し得る機関のような存在が双方にとって不可欠というのが主張の柱で、対応がどちらに偏っても現場は不幸になるだけだと訴える。

ユニオンの組合員(聴覚障害者)が勧める大手電機メーカー100%出資子会社との団体交渉事例では、全面謝罪など組合員の要望を上回る回答を会社が示した。

しかし、組合員が受けたと主張する誹謗中傷の事実は障害者に基づく被害妄想だったことが判明し、それでも親会社の社名を汚すまいとして示された「過剰な配慮」を組合サイドから止めさせると同時に、ユニオンによる組合員への社会人教育などとを交えながら双方の折り合いを付けた。同社を含め、かかわった多くの企業からの感謝の声が届いているという。

同事例の組合員は日記にも被害の状況を残していたが、仮に法廷で証拠提出されれば、企業の反訴は困難ではないかとも話す。紛争予防の対応が重要だと強調する。

「要は需給バランス。障害者が求める配慮に会社がどこまで応えられるかが合理的配慮の焦点であり、そのために労働組合の機能を使って話し合いたい」としている。