精神障害者雇用 本紙小欄で学びを

<義務化まで3年切る 好評を博す的射た解説>

精神障害者の雇用義務化まで余すところ3年弱。統合失調症や躁うつ病などの障害が法定雇用率を算定基礎に加わることになり、5年間の激変緩和期間が置かれるとはいえ、厚生労働省が今後示す数字への期待や不安が高まっている情勢だ。とりわけ企業の実務担当者が抱く後者を解消するためにも、的を射た解説で好評を博している本紙小欄を参考にしていただきたい。

今週の視点

10面にある「そこが知りたい! 障害者雇用」の筆者・久保修一氏は、おそらく日本で唯一、企業で働いている障害者だけで作る労働組合の書記長である。これまでに複数の紛争を仲立ちしてきた経験があり、本紙にご寄稿いただいている文章はすべて、事実に裏打ちされた具体策として利用価値が高い。

今号がちょうど連載10回目を数え、以後数回にわたって「精神障害者」分野に突入する段取りだ。担当編集者の元にすでに届いている原稿を基に、フライング気味だが筆者了解のもと部分的に切り抜いてお伝えしよう。

現場の実務としては統合失調症や躁うつ病、てんかんなどの障害者と職場でどう具体的に関わるべきかが最も知りたい部分と思われ、国連が採択した障害者権利条約を日本が批准するまでの時系列などはここでは省くことにする。

今後の連載で取り上げられる精神障害は、アスベルガー症候群やADHD(注意欠陥・多動性障害)、自閉症などの発達障害、うつ病、躁うつ病、統合失調症、さらには難病や高次機能障害などまで多岐にわたる。弱者の障害者側に偏らず、双方ともに有益な状態を築く視点で解説されている。

たとえば、もはや社会問題である「うつ病」については、障害者自身に社会人としての自覚を持たせること、それに必要な「適正な距離感」を作ることが企業の配慮の一つとして求められると説く。面接や入社時にうつになった原因とその自覚について障害当事者に尋ねたり、症状が悪化して出社できなくなったときのルールを作って、双方で同ルールを共有することが重要なのだそうだ。

あくまで「雇用」であって「福祉」ではないことの理解も重要とし、「『頑張れ』はNG」のような巷に溢れる実務に不要な情報はいらぬとも。

「躁うつ病」の障害者と向き合った事例を紹介した部分では、「問題は躁状態がひどいときの行動に尽きる」と歯切れ良い。深夜から早朝にかけて長文のメールを同僚に送ったり、手当たり次第に電話を掛けたりするのがこの障害の特徴で、本人や周囲の失うものがあまりにも大きいとして、対応する際の注意を促している。

IQの高い人が罹患するケースもこの障害には多いといい、現場で対応に当たった健常者が障害者よりも先に参ってしまった事例を複数みてきたと話す久保氏の言葉を重く受け止めたい。

対策の鍵は「薬」で躁状態を抑えることで、「躁」状態に入るスイッチを自覚している当事者も多いことから、そうした情報の共有も重要だと諭す。問題行動を起こしたときに当事者と話し合う機会を持つこと、可能な場合は入社時に保証人を求めたり、懲戒制度を見直すことも合理的配慮につながるといった具体策を教えている。

名刺の肩書を「障がい者担当」と平仮名に変更する気遣いがあるなら、その気遣いは障害者当事者の目線に立つ労力として払いたい。一方で、「障害があるから大変だろう」という特別扱いは偏見や差別を生むため気を付けたいし、行き過ぎた健常者扱いも今後は虐待に当たる可能性が高いとは久保氏の指摘である。

針に糸をとおす慎重な対応が企業に求められる反面、双方を有益な状態に導くためにも、あくまで雇用であるとの強い自覚が必要なようだ。
【福本 晃士記者】