障害者の雇用 企業の理解は

障害がある人に対し、採用や賃金などで不当に差をつけることを禁じる改正障害者雇用促進法の施行を約1年半後に控え、企業は対応を迫られている。障害者が安心して働ける環境づくりを進めるため、肝心の雇う側の理解はどこまで進むのか。

道具を工夫 能力発揮

パソコンの画面に映しだされるオートバイの立体画像を見ながら、運転する際に正面部分に空気がどうあたるのかを分析する。

自動車大手のホンダが大分県内につくった子会社「ホンダ太陽」。データビジネス部で働く首藤優一郎さん(32)は、手のひらよりひと回り大きい特注のマウスを操りながら、データの解析を進める。

首藤さんは高校生の時に、体育の授業でプールに飛び込んだ際、脊椎を損傷した。下半身が不自由になり、車いす生活を送る。特性のマウスは、右手にも麻痺が残る首藤さんのために会社が特別に用意した。

同じ職場で働く42人のうち、障害者は20人いる。ホンダ太陽は先端技術を駆使し、障害者と健常者が同じように働けるように工夫しており、234人の従業員のうち133人が障害者。ホンダの全従業員に占める障害者の割合は法律で義務づけられた法定雇用2率を上回る2.38%で、業界トップクラスという。首藤さんは「会社は力を発揮できる手助けをしてくれるし、健常者と同じように扱われ、結果も求められる」と話す。

ホンダ太陽は10月に別府市に残る拠点を隣の日出町の本社に統合。敷地内に新しい棟もでき、障害者の受け入れを増やす計画だ。

衣料や雑貨などを販売する「無印良品」を展開する良品計画は、2009年から精神障害者の受け入れを本格化した。同社で働く障害者は190人。7割にあたる137人が精神障害者だ。多くはパートとして、主に店舗裏での梱包や倉庫整理、店舗での品出しなどの軽作業にあたる。

週5日で1日7.5時間の勤務を基本に、短時間勤務を認める。体調の変化に気を配り、本人に日誌を書いてもらい、休みや勤務時間の希望を受けつける。

同社の障害者の雇用率は3.7%、15年には5%をめざす同社人事課の成澤岐代子さんは「自己申告や面談を拡充させて対応していきたい」と話す。

要望通じず退職

障害者の受け入れには職場の理解が欠かせないが、トラブルも少なくない。

都内の団体職員の女性(38)は24歳のとき、駅の階段から転げ落ち腰椎などを損傷したことが元で、左足が常にしびれ、杖を手放せなくなった。

かつて勤めていた資材メーカーで、車いすの利用や車での通勤を会社に要望したが、上司からは「歩けないというならば診断書を出せ」「車を運転しても安全という保証はあるのか」と言われた。結局、退職を余儀なくされた。

女性が加盟する障害者を支援する労働組合「ソーシャルハートフルユニオン」の久保修一書記長は「企業は社員教育を充実させて、障害者と当たり前に接することを徹底してほしい」と指摘する。

「何が差別か」戸惑いも

障害者の差別を禁じるといっても、「何が差別にあたるのか」と企業側には戸惑いの声もあがる。そのため、改正障害者雇用促進法の施行にあたり実務面での指針づくりが9月、労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)でスタートした。

審議会に参加する労働側からは「個別の障害に配慮した仕組みづくりを」、経営側からは「企業が何をしたらいけないか具体的に示してほしい」といった意見が出ている。

前回の法改正で障害者の法定雇用率が昨年4月に1.8%から2%に引き上げられ、13年度にハローワークを通じ就職した障害者は、前年度比14%増の約7万8千人と4年連続で過去最高を更新した。

指針は来年2月にまとまる。支店の清掃業務などで24人の障害者が働く巣鴨信用金庫の人事担当者は、「いまは障害者の枠を設けて募集しているが、改正法の施行後には差別にあたらないのかなど指針づくりに注目している。雇用する側に分かりやすいルールづくりをお願いしたい」と話す。
(末崎毅、豊岡亮)

※改正障害者雇用促進法

企業に従業員の一定割合(法定雇用率)を障害者にするよう義務づける障害者雇用促進法が2013年6月に改正され、16年4月に施行される。改正で募集や賃金、配置、昇進などにおける障害者の差別を禁止する。18年4月からは企業が雇う障害者の範囲に、そううつ病や統合失調症などの精神障害者が加わる。

出典元:朝日新聞 2014年10月17日