【生活改善、広がらぬ実感 昨年の実質賃金、2年ぶり低下】

2018年2月8日
朝日新聞

厚生労働省が7日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、物価変動の影響を差し引いた賃金の動きを示す2017年の実質賃金指数が前年を0.2%下回り、2年ぶりに低下した。

「景気回復の実感に乏しい」との声が多いなか、物価上昇に賃金の伸びが追いついていない状況が統計でも裏付けられた。

17年は原油高や円安の影響でエネルギー価格が上がり、酒税法改正でビールなど酒類の価格も上昇。実質賃金指数の算出に用いる消費者物価指数は前年比0.6%伸びた。一方、名目賃金にあたる労働者1人あたり平均の月額の現金給与総額は前年比0.4%増の31万6907円にとどまった。

人手不足を背景にパート労働者の時給は同2.4%増の1110円と1993年の調査開始以来の最高を7年連続で更新した。だが、正社員化も進んだため、09年から増加が続くパート労働者比率は同0.06ポイントの微増にとどまった。この影響もあって、消費者物価の伸びに比べて名目賃金の伸びが鈍化した。

総務省の家計調査によると、17年に2人以上の世帯が使ったお金が前年を上回った月は3回だけ。働き手の財布のひもは固く、個人消費は伸び悩んでいる。

「4年連続の賃上げにより経済の好循環は着実に回り始め、デフレ脱却の道を確実に進んでいます」

安倍晋三首相は開会中の国会で、アベノミクスの成果を繰り返し強調しているが、生活が楽になったとの実感は広がっていない。

ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済調査室長は「実質的な所得が目減りしており、生活は苦しくなっている」として、個人消費の回復には物価上昇を上回る賃上げが不可欠だと指摘する。18年は約1%の物価上昇が見込まれており、斎藤氏は「今春闘で定期昇給とベアを合わせて3%程度の賃上げが必要」と話す。

今春闘は、首相から賃上げを求められた経団連が「3%」の数値目標を掲げて会員企業に賃上げを促す異例の展開になっているが、米国の株価急落が世界同時株安に発展し、先行きの不透明感は増している。企業心理の悪化が賃上げムードに水を差す可能性もある。

ユニオンからコメント

厚生労働省の調査結果から、「2017年の実質賃金は下がっていた」ことがわかったというニュースです。

安倍首相の「4年連続の賃上げにより経済の好循環は着実に回り始めている」に対し、街中で多く聞かれる「景気回復の実感が乏しい」の、どちらが正しかったのか。厚生労働省の公表によって決着がついた形になりました。2017年12月に限って見ると、さらに大きく低下しています。

【ご参考】【毎月勤労統計調査 平成29年分結果速報】厚生労働省(PDF:132KB)

【実質賃金、12月は0.5%減】

厚生労働省が7日発表した2017年12月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比0.5%減少した。減少は2カ月ぶり。名目賃金は増加したものの、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)が前年同月比1.3%上昇し、賃金の伸びを抑えた。
パートタイム労働者の時間あたり給与は前年同月比2.1%増の1117円だった。パートタイム労働者比率は0.04ポイント高い31.23%となった。厚労省は賃金動向について「基調としては緩やかに増加している」との判断を据え置いた。(2018年2月7日 日本経済新聞)

【ご参考】【毎月勤労統計調査 平成29年12月分結果速報】厚生労働省(PDF:128KB)

企業の経営陣は(原料価格の値上げを転嫁できる)消費者物価の上昇を、手放しで歓迎するでしょう。一方、安倍首相が求める「賃上げ」の声には真摯に耳を傾けることなく、内部留保に走りがちです。結果として、実質賃金が低下してしまうのは当然かもしれません。景気回復しないまま物価が上昇してしまえば「悪いインフレ」になりかねません。収入が伸びず物価だけが大きく上昇してしまうと、「スタグフレーション」を引き起こしかねません。

【ご参考】【1月の消費者物価指数プラスに】

実質賃金指数や消費者物価指数の変動も重要ですが、はたらく人の多くがこれまでの生活水準を維持するために期待できるのが「同一労働同一賃金」の議論が加速することです。景気回復や賃金上昇より、身近な待遇改善と言えるからです。大手企業から実現させていくことで、中小企業へと波及していくはずです。

【非正規にも扶養手当など要求 JP労組検討】

日本郵政グループ労働組合(JP労組、組合員約24万人)が2018年春闘で、非正規社員への扶養手当や年末年始勤務手当の要求を検討していることが7日までに分かった。郵便事業は人手不足が常態化しており、非正規労働者の処遇改善や政府が掲げる「同一労働同一賃金」導入への早期対応を目指す。
扶養手当や年末年始勤務手当はこれまで正社員のみを対象としていたが、組合は「客観的に合理性が乏しい」と判断。住居手当や寒冷地手当も含めて非正規社員に支給し、夏季、冬季の休暇や病気休暇も正社員と同様に取得できるよう要請する。(2018年2月8日 産経新聞)

政府が掲げる「同一労働同一賃金」の早期実現を労使交渉で求めていく会社がある一方で、それを掲げた政府は早々に「実現の延期」を決めてしまいました。選挙に勝つために掲げた目標に過ぎなかったのでしょうか、早期実現に本気で取り組むつもりはないようです。

【働き方改革関連法案 中小適用を1年延期】

厚生労働省は7日、今国会に提出する働き方改革関連法案について、施行日を当初よりおおむね1年間遅らせる修正案を公表した。柱となる時間外労働(残業)の上限規制は、大企業は当初の予定通り平成31年4月だが、中小企業は1年後の32年4月に適用される。
厚労省が同日の自民党厚労部会に修正案を示した。昨秋の衆院選の影響で法案の国会提出が遅れたことや中小企業の経営に配慮した変更で、労働界の反発は必至だ。
修正案では、非正規労働者の処遇改善に向けた「同一労働同一賃金」導入も1年遅らせる。施行は大企業と派遣事業者が32年4月、派遣を除く中小企業が33年4月となる。(2018年2月8日 産経新聞)

出典元:朝日新聞・厚生労働省・日本経済新聞・産経新聞