【5月の失業率3.1%、6か月ぶりに悪化】

2017年6月30日
読売新聞

総務省が30日発表した労働力調査によると、5月の完全失業率(季節調整値)は3.1%で、前月から0.3ポイント上昇し、昨年11月以来6か月ぶりに悪化した。

完全失業者数(同)は前月比19万人増の205万人で、内訳は「自発的な離職(自己都合)」と「新たに求職」がそれぞれ8万人増加した。

総務省は失業者数が増えたことについて、「景気の改善による人手不足感の高まりに伴い、よりよい条件の仕事を求める人が増えている」とし、「雇用情勢は引き続き堅調に推移している」と分析している。

ユニオンからコメント

総務省が公表した調査結果から、失業率が悪化したことがわかったというニュースです。

【ご参考】【労働力調査(基本集計)平成29年(2017年)5月分】総務省統計局

総務省は「景気の改善による人手不足感の高まりに伴い、よりよい条件の仕事を求める人が増えている」としていますが、これは言い方を換えると「人手不足なのに給料が上がっていない」ということに他なりません。実際、求人倍率は高い水準を維持しています。

【5月の完全失業率、3.1% 有効求人倍率は1.49倍】

総務省が30日発表した5月の完全失業率(季節調整値)は前月より0.3ポイント高い3.1%だった。厚生労働省が同日発表した5月の有効求人倍率(季節調整値)は前月から0.01ポイント高い1.49倍だった。(2017年6月30日 朝日新聞)

【ご参考】【一般職業紹介状況(平成29年5月分)について】厚生労働省

2017年4月14日に「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」(玄田有史編・慶應義塾大学出版会)という本が出版されました。「企業の業績は回復し人手不足の状態なのに賃金が思ったほど上がらないのはなぜか」を経済学者やエコノミストらが議論した書籍です。

本のタイトル通り、厚生労働省が公表している「毎月勤労統計」の(所定内給与)は前年比0%付近が続いていますから、人手不足でも賃金は上がっていなのが現実です。パート・アルバイトの時給は上昇していますから、労働者の大半を占める正社員の給料が上がっていないので、全体として賃金が上がっていないということになります。

「数年ぶりにベアが実現した」と安倍首相は「官製春闘」を自画自賛していますが、正社員の賃金上昇を打ち消しているのが、非正規雇用比率の上昇です。非正規労働者の時間給が上がっても、そもそも非正規の賃金水準が正社員より大幅に低いので、非正規の構成比率が高くなると平均賃金が下がってしまうのです。

政府は雇用者数の増加を成果として強調しますが、その実態は、短時間労働者だけが増加しているということです。総務省が公表している「労働力調査」から就業者数、「毎月勤労統計」から実労働時間を見てみると、「アベノミクス」が始まってから就業者数は増加していますが、労働時間は減少を続けていることがわかります。つまり、人手不足が進んだので仕事をする高齢者と女性(短時間労働者)が大幅に増えているということです。

バブル期並みに求人倍率が高いことから総務省・厚生労働省の担当者は、コメント冒頭に「景気の改善による」「景気が回復しているので」と付けることが多くなりました。しかし、アベノミクスが掲げているように景気の改善・回復には(物価上昇と消費拡大)が不可欠です。同じ日に公表された2つのデータは(消費者物価指数が伸び悩み・消費減少が続いている)という、景気が改善・回復していないことを明らかにしてしまいました。

【ご参考】【2015年基準消費者物価指数(全国)平成29年(2017年)5月分】総務省統計局

【ご参考】【家計調査(二人以上の世帯)平成29年(2017年)5月分速報】総務省統計局

【子どもの7人に1人は貧困・・・国民生活調査】

厚生労働省は27日、2016年の国民生活基礎調査の結果を発表した。18歳未満の子どもの貧困率は、過去最悪だった13年の前回調査(データは12年時点)より2.4ポイント減って13.9%だった。子育て世帯の収入上昇などでやや改善しているものの、依然として、7人に1人の子どもは貧困に陥っている。貧困の調査では、15年時点のデータを基に、国民の所得を上から順番に並べ、中央にいる人の所得の半分(15年は122万円)に満たない人の割合を「相対的貧困率」として推計。全体の貧困率は15.6%(前回比0.5ポイント減)で、1人親世帯の貧困率は50.8%(同3.8ポイント減)だった。(2017年06月28日 読売新聞)

【ご参考】【平成28年国民生活基礎調査の概況】厚生労働省(PDF:4.58MB)

こちらの調査結果からも、景気の改善や回復が不十分であることが浮き彫りになっています。相対的貧困率がやや改善したといっても、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の11.4%(13年)より依然として高く、日本の経済格差は先進国の中では深刻な問題です。特に、ひとり親世帯の貧困率(15年)は50.8%と半数を超えており、母子世帯の82.7%が「生活が苦しい」と答え、37.6%の世帯で「貯蓄がない」と回答しています。

【国税収、7年ぶり前年割れ 成長頼みに限界】

2016年度の国の一般会計の税収額が55.5兆円程度になり、リーマン・ショックの影響を受けた09年度以来7年ぶりに前年度を下回ることが分かった。税収の上ぶれ分を景気対策に回し、経済成長と財政再建の両立をめざす経済政策「アベノミクス」は曲がり角を迎えている。当初、財務省は16年度の税収について前年度を1.3兆円上回る57.6兆円と見込んだ。しかし、英国の欧州連合(EU)離脱決定などによる円高と、それに伴う株安などの影響で企業業績が悪化。最終的な決算では、株安による所得税収の減少などでさらに下ぶれし、当初の想定を2兆円超下回る見通しとなった。安倍政権はこれまで、大規模な金融緩和や財政出動で景気を押し上げ、その税収の上ぶれ分を活用して景気対策を実施し、それがさらなる税収増を招くとの「好循環」によって財政再建も同時に進められる、と説明してきた。税収が見通しを下回るのは2年連続。(2017年6月30日 朝日新聞)

求人倍率だけが良くなっても、問題は解決しません。「人手不足なのに給料が上がらない」、「あらゆる金融政策を実施しても消費者物価が上昇しない」、「景気回復以前に貧困が解消していない」のが現実です。つまり、消費を拡大させ景気回復を目指す安倍政権の経済政策(アベノミクス)は5年が経過しても期待した効果は現れなかったのです。

「日本を、取り戻す。」は、2012年に行われた総選挙での自民党キャッチコピーで、安倍首相も繰り返し使っていました。同じように「主権を取り戻す。」と、EU離脱を決めたイギリスでは、ポンド安から経済が悪化していると報じられています。日本でも急激な円安になれば「よその国の出来事」では済まなくなるかもしれません。

【「生活は苦しくなる一方」ポンド安続き、輸入品値上がり 英国民投票1年】

主権を我が手に取り戻す――。そんな熱狂の中で、英国が国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めて23日で1年。英国経済は減速の兆しがみられ、政治は不安定化している。離脱に端を発した物価上昇に、国民の間には不安の声がもれる。ポンドは離脱決定後に急落。対ドルでは、今も離脱決定前より15%安い。「力強く安定したリーダーシップが必要だ」。そう大見えを切って総選挙の前倒しを表明したメイ首相。だが与党の過半数割れの憂き目に遭い、テロや公営住宅の大規模火災への対応も問題視され、求心力の低下は著しい。
メイ氏はこれまで、移民規制を前面に主張し、「悪い(離脱)協定なら、ない方がましだ」と述べるなど強硬な姿勢を示してきた。英メディアは「ゾンビ政権」「死に体」などと厳しい表現で伝えている。(2017年6月24日 朝日新聞)

出典元:読売新聞・総務省統計局・朝日新聞・厚生労働省